有限会社 三九出版 - 春と花と震災と


















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                    春と花と震災と
                         石附 成二(宮城県仙台市)

 春といえば花。花といえば梅と桜を思いだす。道真公は梅をこよなく愛した。公が太宰府に流された時,公の愛した紅梅が空を飛んでいって慰めたという説話や,都を偲んで詠んだ“東風吹かば匂いおこせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ”は余りにも有名である。公は,その生き様と類まれな学識により神に祭られた。そして梅の花は日本人の品格を象(あらわ)すものとなった。北面の武士であった西行法師はこよなく桜を愛した。“願わくは花の下にて春死なむ その如月の望月の頃”と詠んだ。本居宣長は,大和心を“敷島のやまと心をひと問はば 朝日に匂う山桜花”と詠んだ。そして桜は日本人の心を徴(しる)すものとなった。
 我が家の花は梅だ。父が60年前に植えた梅が200本ほど残存している。ここ10年,施肥や消毒などの手入れをしないから,果実は自家用にしかならない。それでも春は満開の花を咲かせる。この農園にもだんだん都市化の波が押し寄せ,何時まで保てるか分からない。父母の記念碑にと手作りの神社を思い立ち,川沿いの一角を結界し,まずは鳥居を作った。その矢先,3・11の空前絶後の大震災。海岸地帯は人も家も車も船も大津波に飲み込まれ壊滅的被害。神社どころではない。
 今年の春はことさら寒く,農園の梅も咲き始めたばかりだ。被災者の飢えと寒さが思いやられる。被災後一週間,国,自衛隊,各機関の懸命の努力により陸海空の捕球ルートが確保され,支援物資が届き始めた。被災者の気力も甦りつつある。福島の原発も被災した。関係機関の方々の命がけの作業により小康を保っているが全く予断を許さない。これは日本のエネルギー不足に直結し,日本経済を揺るがす大問題だ。様々な難問が立ちはだかる。しかし,日本人はこれで降参するほど柔ではない。国民が一丸となって,大和魂と品格を以て整然と,戦後最大のこの国難を克服しなければならない。今は梅の花,我慢のしどころ,再生の足固めである。桜の花の咲く頃は力強い復興の足音が聞こえてくるはずだ。その頃“花の下にて酒を酌みたい”ものだ。
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