卒業かな?切手収集
金野 正郎(宮城県仙台市)
「見返り美人」といえば,切手なんぞ全く興味がないという方であっても一度は耳にしたことがあるのではなかろうか。昭和23年の切手趣味週間にちなんで発行された,日本で一番大きい切手だった。翌年の「月に雁」とともに,今でも人気が高い。
切手に興味を持ったのは半世紀も前。第7回国体(昭和27年,宮城など3県で開催)に参加した兄が大会記念切手をくれたのがきっかけで,遅ればせながらの仲間入り。小遣いもわずかで,買い集めるより,気前のいいヤツ?から「使用済み」をもらったり,夏・冬休みに田舎に帰り,隣近所の物置から古い手紙を探したり。また「親父が集めていた」というような輩を,言葉巧みに口説いて?手にいれたことも。転機は――。昭和34年4月10日,皇太子殿下・美智子様の御成婚の日。大学の入学式に向かう途中,郵便局の前に長蛇の列。御成婚記念切手の発売日だった。入学式を気にしながらも列に加わり,祝賀切手とシートを求めた。それが,「深み」にはまった入り口か。
そのころ,切手ブームの始まりか,あるいは高揚期に差し掛かっていたのだろう。買い求めるのも大変だったが,幸いキャンパス内に特定局があったことやバイトで多少の小遣いもあり,額面10〜15円ならシートでも買えた。多くは卒業で終わるのだろうが,どういうわけか,特に熱烈というほどでもないのに就職後も続いてしまった。郵趣会などに参加したこともないのだから,惰性とでもいったらいいかもしれない。
昨年,毎日が日曜日となり時間はたっぷり。数十冊にもなっていたファイルを整理しようという気になった。記念切手は時系列に「流れ」を追えばいいし,皇室,オリンピック,国体,年賀,切手趣味週間…もそのまま。だが,シリーズモノが難題。花,鳥,お祭り,名園,国宝,古典芸能, 昔ばなし,SL,船,相撲,近代美術,日本の歌,伝統工芸品,洋風建築,高山植物,昆虫,歌舞伎,愛唱歌,民家 etc.
戦後50年のメモリアルとか20世紀デザイン切手といったところは,専用の特製ファイルがあったが,近代美術は16集で完結するまで約4年を要したし,奥の細道も10集で2年がかり。性格上,仕方ないのだろうが,率直にいえば長すぎたのでは,とあらためて感じさせられる。平成20年7月に北海道から始まった地方自治60周年記念などは,23年1月の佐賀県まででようやく13集になったばかり。今後のペースがどうなのか,知らされてはいないが,完結するまでに一体あと何年かかることだろう。私が生きているうちに間に合うのかなあーと苦笑している。
切手が発行されたその日に消印を押してもらう方も少なくない。私も一時期その初日印を求めて発売日に並んだ。が,その日に出張とぶつかったというケースもあった。奥の細道シリーズはなぜかそういう場面が多かった。途中でパスしたくはなかったし,やむなく後輩に「後で一杯」を約束して初日印を確保してやっとゴールイン。
平成元年から「ふるさと切手」が登場。東北のNo.1は山形のサクランボが題材。各郵政局が競争するかのように次々と発行するため求める方も大変だった。国体切手も44回の北海道からふるさと切手に代わった。発売のハズ――と郵便局を訪れたら「今年から国体切手はやめた」とのこと。不十分な説明に騙された形。後で気がつき単片は入手できたが,今もここだけシートなし。苦い経験を思い起こさせる1ページだ。
初期の竜切手とか,ワケあって未発売となった幻の切手など,額縁に入れておきたいようなお宝はない。せいぜいが年賀切手は,お年玉付きハガキの賞品の小型シートを含めてまずまず。数だけは少なくはないようだが,大半が戦後モノだから「財産」どころか,なんでこんなに無駄遣いをしたの――と皮肉られるのも仕方がない。
切手単独ではないが,一つだけ大事にしているモノがある。「啄木ミニレター」と呼ばれている郵便書簡だ。昭和42年から発行されたとか。そのころ,金の卵ともてはやされた集団就職者を対象にした「故郷への愛の便り」運動だったという。額面15円(意匠は菊)の切手が刷り込まれており,末面には「誰が見てもわれをなつかしくなるごとき 長き手紙を書きたくなる夕(啄木)」の歌も。その企画に携わった郵政マンから頂いたのだが,時には駅頭まで出向き,夜行列車に乗り込む少年たちにプレゼントしたこともあったそうな。黄色の袋には「祝 ご就職」とあった。親許を離れ故郷へ近況を伝えたであろう人たちもすでに還暦を過ぎているハズ。もしもそれが実家に残っていたなら…。読み返すような機会があったことかどうか…。そんな思いが。
ほんの小さな切手だが,歴史の証人とか世界を結ぶ外交官――などといわれたこともあった。今やメールが主流となり,筆マメなんてどうやら昔話。現在も通用している額面1円の切手に描かれた,郵便の創始者・前島密が先行きを嘆いているかも。年間約40種も発行され「乱発」との声も聞かれる。あがきでなければいいのだが。
金野 正郎(宮城県仙台市)
「見返り美人」といえば,切手なんぞ全く興味がないという方であっても一度は耳にしたことがあるのではなかろうか。昭和23年の切手趣味週間にちなんで発行された,日本で一番大きい切手だった。翌年の「月に雁」とともに,今でも人気が高い。
切手に興味を持ったのは半世紀も前。第7回国体(昭和27年,宮城など3県で開催)に参加した兄が大会記念切手をくれたのがきっかけで,遅ればせながらの仲間入り。小遣いもわずかで,買い集めるより,気前のいいヤツ?から「使用済み」をもらったり,夏・冬休みに田舎に帰り,隣近所の物置から古い手紙を探したり。また「親父が集めていた」というような輩を,言葉巧みに口説いて?手にいれたことも。転機は――。昭和34年4月10日,皇太子殿下・美智子様の御成婚の日。大学の入学式に向かう途中,郵便局の前に長蛇の列。御成婚記念切手の発売日だった。入学式を気にしながらも列に加わり,祝賀切手とシートを求めた。それが,「深み」にはまった入り口か。
そのころ,切手ブームの始まりか,あるいは高揚期に差し掛かっていたのだろう。買い求めるのも大変だったが,幸いキャンパス内に特定局があったことやバイトで多少の小遣いもあり,額面10〜15円ならシートでも買えた。多くは卒業で終わるのだろうが,どういうわけか,特に熱烈というほどでもないのに就職後も続いてしまった。郵趣会などに参加したこともないのだから,惰性とでもいったらいいかもしれない。
昨年,毎日が日曜日となり時間はたっぷり。数十冊にもなっていたファイルを整理しようという気になった。記念切手は時系列に「流れ」を追えばいいし,皇室,オリンピック,国体,年賀,切手趣味週間…もそのまま。だが,シリーズモノが難題。花,鳥,お祭り,名園,国宝,古典芸能, 昔ばなし,SL,船,相撲,近代美術,日本の歌,伝統工芸品,洋風建築,高山植物,昆虫,歌舞伎,愛唱歌,民家 etc.
戦後50年のメモリアルとか20世紀デザイン切手といったところは,専用の特製ファイルがあったが,近代美術は16集で完結するまで約4年を要したし,奥の細道も10集で2年がかり。性格上,仕方ないのだろうが,率直にいえば長すぎたのでは,とあらためて感じさせられる。平成20年7月に北海道から始まった地方自治60周年記念などは,23年1月の佐賀県まででようやく13集になったばかり。今後のペースがどうなのか,知らされてはいないが,完結するまでに一体あと何年かかることだろう。私が生きているうちに間に合うのかなあーと苦笑している。
切手が発行されたその日に消印を押してもらう方も少なくない。私も一時期その初日印を求めて発売日に並んだ。が,その日に出張とぶつかったというケースもあった。奥の細道シリーズはなぜかそういう場面が多かった。途中でパスしたくはなかったし,やむなく後輩に「後で一杯」を約束して初日印を確保してやっとゴールイン。
平成元年から「ふるさと切手」が登場。東北のNo.1は山形のサクランボが題材。各郵政局が競争するかのように次々と発行するため求める方も大変だった。国体切手も44回の北海道からふるさと切手に代わった。発売のハズ――と郵便局を訪れたら「今年から国体切手はやめた」とのこと。不十分な説明に騙された形。後で気がつき単片は入手できたが,今もここだけシートなし。苦い経験を思い起こさせる1ページだ。
初期の竜切手とか,ワケあって未発売となった幻の切手など,額縁に入れておきたいようなお宝はない。せいぜいが年賀切手は,お年玉付きハガキの賞品の小型シートを含めてまずまず。数だけは少なくはないようだが,大半が戦後モノだから「財産」どころか,なんでこんなに無駄遣いをしたの――と皮肉られるのも仕方がない。
切手単独ではないが,一つだけ大事にしているモノがある。「啄木ミニレター」と呼ばれている郵便書簡だ。昭和42年から発行されたとか。そのころ,金の卵ともてはやされた集団就職者を対象にした「故郷への愛の便り」運動だったという。額面15円(意匠は菊)の切手が刷り込まれており,末面には「誰が見てもわれをなつかしくなるごとき 長き手紙を書きたくなる夕(啄木)」の歌も。その企画に携わった郵政マンから頂いたのだが,時には駅頭まで出向き,夜行列車に乗り込む少年たちにプレゼントしたこともあったそうな。黄色の袋には「祝 ご就職」とあった。親許を離れ故郷へ近況を伝えたであろう人たちもすでに還暦を過ぎているハズ。もしもそれが実家に残っていたなら…。読み返すような機会があったことかどうか…。そんな思いが。
ほんの小さな切手だが,歴史の証人とか世界を結ぶ外交官――などといわれたこともあった。今やメールが主流となり,筆マメなんてどうやら昔話。現在も通用している額面1円の切手に描かれた,郵便の創始者・前島密が先行きを嘆いているかも。年間約40種も発行され「乱発」との声も聞かれる。あがきでなければいいのだが。
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