有限会社 三九出版 - 《自由広場》          軍神広瀬武夫中佐


















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                軍神広瀬武夫中佐
                        工藤 紀佳(神奈川県横浜市)

 「坂の上の雲」のテレビ放送で広瀬武夫が意外にも強く高い関心を引いている。幕末の慶応4年,広瀬武夫,秋山真之という二人の下級武士が豊後岡藩と伊予松山藩に生まれた。時は正に維新であり下級武士の生計はままならず,その窮乏振りは想像するに難くない。所謂,赤貧洗う生活であった。秋山真之に尊敬する長兄好古が在ったように,広瀬武夫は尊敬してやまない長兄勝比古に恵まれた。
 その時代,先ず,二人の長兄が家運を担って強靭な向学心と向上心を抱いて出郷し,苦節の末,進学の途を切り開き,好古は陸軍士官学校,勝比古は海軍兵学校へと進み,長じて両兄はその名を日本の戦史に残すのだが,それぞれ陸士,海兵を卒業するとすぐさま薄給・貧窮の現実を無視して,とにもかくにも郷里で招請を待ちわびる弟を呼び寄せて進学の途を授ける。両弟は家兄の期待に応えて海兵に入学し,ひたすら勉強に励む。その努力は当然の結果として優秀なエリート海軍士官となる。その成長過程は時代の背景を踏まえながら,テレビ放送,「坂の上の雲」に詳しい。
 明治初頭をざっと顧みると,武士は失業し,不平士族のうねりが強く,廃藩置県,地租改正,徴兵制度の施行,加えて外国の脅威に晒される社会情勢の厳しさは,現下の金融危機騒動どころの話ではなく,正に国難の時期であった。その時代の武士のはしくれが,海軍兵学校に身を置けたことは,まったく稀有な幸運児だったと言えよう。それを知る彼等の矜持は高く,学業全般にわたる奮励の凄さが理解できる。若き血潮にたぎる胸中は,ただ,「建国」の一点であったに違いない。
 その時節,広瀬武夫は更なる幸運に恵まれた。あることで,山本権兵衛閣下邸を訪ねた時に,当時の山本権兵衛海軍軍令局長直々に思いもよらぬ,覚醒のキーワードを授けて戴いた。爾後,留学生,駐在武官での研鑽と海外諸国の視察等,幾多の体験を通じてそのキーワードを真に理解し体得した広瀬武夫のモットーは,何であったか。
 それは,FLEET IN BEINGである。数年前,阿川弘之氏の散文に詳述されていたその骨子を,ここに紹介したい。
 〔フリート イン ビーイングの思想〕……「当時,世間にはよく国運を賭してもロシアを討たねばならぬというような議論をする者があるし,東亜における列国の勢力争いの実状を直視すれば,いずれロシアと干戈(かんか)を交えねばならぬ時がくるかも知れぬ。それに備えて万全の準備はしておかねばならぬ。しかし,ロシアは何といっても我が国と比較にならぬ大国で国土も広いし国民の数も多い。日本人に大和魂があるなら,彼等も亦粘り強いスラブ魂を持っておる。簡単に国運を賭しなどと人はいうが,それは国の興廃いずれかを賭けることであって,場合によっては皇国が滅びるという,大変な覚悟を定める事でなければならぬ。無責任な猪突猛進の勇で国の興廃を賭ける気になったりされては,国民はたまったものではあるまい。
 国防という問題も,けっして軍人の専有物であると思ってはならん。戦争をするには平たく言ってまず金が要る。それから何万の同胞を死なせる決意が要る。軍人,政治家,実業人,学者から町の職人や百姓までが心を一つにしてはじめて国が護れるのだし,国を興すことが出来るのだ。兵はもともと凶器である。用い方を誤れば己の上にも必ず災禍をもたらす。孫子にも在る通り戦わずして相手を屈服させるのが,上の上たる策で,将来海軍の中堅たるべき者は,自己の功名心を忠義の美名で装って,みだりに戦を好むようなことがあってはならん。戦う時には無論非常の勇気をもって事に当たらねばならんが,戦わずして勝つ海軍,存在すること自体が強力な意味をもっておる艦隊,それが,フリート イン ビーイング の思想だ」
 之が,ロシア戦前夜における広瀬武夫のモットーである。
広瀬中佐は,けっして好戦的な軍国主義一徹の軍人ではなく,明治の教養豊かにして勇敢剛毅な武人であり,そして孝子である。
 さて,この数年の政治,財政 金融政策の混乱は未曾有の事態である。国益や国家資産の損出は巨大であり,国民は将来を憂え,国の衰退に心をくだき,或いは国が滅びるのではと,危惧を抱いている。今年は,今の日本の危機的状況から脱する方途を明確に掲げて,国家再建に国民が心を一つにして邁進せねばならない。
 現代の,「フリート イン ビーイング」は何か。先ずは,集団的自衛権の行使の目途を立て,日米同盟を磐石にすべきであり,MDをはじめ防衛体制の整備も急務であると,私は考える。それにつけても,「現在の混乱,混迷をもたらした責任は,国民一人ひとりの選択の結果にある」という事実をしっかりと受け止めることが肝要だ。
 しっかりしないと,泉下で広瀬武夫が泣いている。
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