有限会社 三九出版 - 《自由広場》 宇治の文学碑を歩く( その2 )


















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            宇治の文学碑を歩く

          岡本 崇(京都府木津川市)

 上林家は,清和源流赤井氏族とされるが赤井氏は,氷上郡の土豪で居城は黒井城。1579年,赤井直義の時,明智光秀に攻められ落城している。 我が祖は明智光秀に仕え,里村紹巴が参加した愛宕百韻で執筆を務めた東行澄。大学の恩師・難波田春夫先生の生家は氷上郡氷上町とも云われ,いろいろと繋がっているので大変興味深い。
 赤井氏は丹波氷上郡赤井野に住んで,初めて赤井を称したという。秀家は足利尊氏に従って功をたて,上林庄に住み始めて上林を称したと伝わる。秀家は室町幕府の被官で,上林地方の地頭として入部したと云われている。上林氏が宇治へ移住したのは,1510年前後であったようだ。1569年,丹波の上林城を連歌師里村紹巴が,若狭から天橋立を見物しての帰路に訪れている。すでに,宇治に茶園を経営していた友人の上林久重は不在であった。このことからも,宇治に茶業を営みながら,丹波にも拠点を持っていたことが知られる。また,久重は近江の浅井氏の旗下にあったことから,1573年,浅井氏が織田信長に屈すると,久重は上林の地を離れたと思われるとか。
 久重の嫡子久茂は宇治を相続して信長・秀吉に仕えている。久茂の弟政重は宇治に生まれ,一時,丹波の上林荘に住んでいたが,1571年,三河に行き徳川家康の家臣となり岡崎城下の奉行に任じられた。1580年,職を辞して宇治へ帰り,もっぱら茶業に従事。そして本家久茂と並んで,宇治郷の代官として分立することになったらしい。

 私は、以下に記載の4句(小西亘先生の著『宇治の文学碑を歩く』P.67,50,19,28)を読みながら歩いた。
● 春風の 扉ひらけば 南無阿弥陀仏 
 種田山頭火(明治15年~昭和15年)が,昭和11年3月22日平等院を訪れて詠んだ。「うららかに春風の吹くなか平等院の扉が開くと,尊い阿弥陀仏のお姿が拝され,南無阿弥陀仏の称名がひとりでに口をついてでることだ。」 「もったいなや。けふも朝湯朝酒」十時出立,宇治へ。平等院,うららかな栄華の跡。種田山頭火は,京都から月ヶ瀬・伊賀上野へ向かう途中に宇治へ立ち寄っている。 宇治から汽車で木津まで行って泊まる。歌碑は宇治市観光センターの敷地にある。母や弟の自殺などが放浪者としての山頭火を決定づける基因と云われる。

● もののふの 八十宇治河の 網代木に いざよふ波の 行方しらずも 
 柿本人麻呂(724年寂)が近江の国から大和に向かう際に宇治川のほとりで詠んだ 歌。   「もののふ」は「八十」にかかる枕詞。網代は宇治の風物である冬に魚を捕るしかけ。「宇治川の網代木にしばらく滞在している波はどこにゆくのか、行方も分からないことだ。」仏教的無常観を詠んだという説と,実景を描写したという説がある。朝霧橋を渡り,中洲橘島を上流の方へ歩いて塔の島へ来た所に歌碑がある。人麻呂は飛鳥時代の歌人。三十六歌仙の一人で「万葉集」第一の歌人である。

● わが庵は 都のたつみ しかぞ住む よをうじ山と ひとはいふなり
 喜撰法師 宇治神社には「百人一首」第8番喜撰法師の歌碑がある。 「私の草庵は都の東南の方向にあり、このように心静かに住んでいる。それなのに、世を憂きものと思って住む、その宇治山だと世間の人は言っているということだ」。 「しか」は「然」で「このように」の意味。宇治山は喜撰山(標高416m)の事。「しかぞ住む」には「鹿」はかけていない。鹿は秋の夜に鳴き声と共に詠まれるもの。 何回か喜撰山の麓を通ったが,平家の落ち武者部落もある,かなりの山奥にある。

● 献上の 茶を摘む老いの 力かな
 宇治の俳句愛好者を育てた矢野秋色の句。宇治で玉露作りに一生を捧げた吉田喜三郎氏を詠んだもの。宮中へ献上するお茶であろう。「手で揉むことによって、お茶との会話があり、ほんまのお茶の心を知ることができるのや」歌碑は宇治神社内にある。
 宇治の市内を宇治川が流れる。宇治川は琵琶湖から流れ出て,瀬田川→宇治川→淀 川となるが,宇治橋の左側奥に,坂東史朗氏がその昔勤務しておられた会社・日本レ イヨンの宇治工場の煙突が今でも2本聳え立っている。橋の向こうには愛宕山が見え るし,橋の袂に立てば比叡山も見える。私は京都市近辺に来れば常に比叡山と愛宕山 が何処に見えるかどうかと確認する。但し,地元の人は意外と関心がなく,知らない人もいる。                             (続く)
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