量子に学ぶ経済の考え方 ①
「量子」-「人間」―「経済」
――社会科学は人間が基本,人間は量子が基本――
吉成 正夫(東京都練馬区)
経済,金融,証券などは,あまりに理論重視であったと考えます。当然と考えられることに,なぜ疑問を持つのか,詳細は後日ご説明します。
経済などの社会科学は「人間」を考察する学問のはずです。近代経済学,とくに新古典派経済学では「個人や企業などの経済主体は合理的に選択する」との仮説を立てて精緻な理論を組み立てました。しかし2009年のリーマン事象のショックでそうした考えは破綻しました。
分析中心の理論のみでは真理に到達できないとの反省から,1990年代中頃に「複雑系の科学」が登場しました。生命現象など複雑な現象を「分析」するのではなく「複雑なものは複雑なまま」研究しようとの考え方です。
1984年にメキシコ州サンタフェ研究所が複雑系の拠点として設立されました。研究対象は,「生命現象」「昆虫のコロニー」「脳」「免疫系」「気象」「経済,政治,文化の社会的振舞い」など多岐に亘っています。こうした複雑な事象に対して「還元論」は無力でした。「還元論」は多様で複雑な現象は単一の基本的な要素に還元して説明されなければならないとします。最近では「全体は部分の総和以上のものである」とか「階層と階層の中間に真理が潜んでいる」など複雑系の科学のような反還元論的な考え方が力を得つつあります。
2002年に,イスラエルの心理学者ダニエル・カーネマンが行動経済学への貢献でノーベル賞を受賞しました。「行動」とは堅苦しい言葉ですが,「人間の態度振る舞い」の意味です。行動経済学で判りやすい例を挙げます。同じお金でも勤勉に貯めたお金と博打や宝くじ儲けたお金では,使い方が違います。博打のお金はパーと浪費的に使います。これを「心理会計」といいます。そうした人間の行動,心の歪みについて研究が進み,行動経済学でノーベル賞を受賞する研究者が輩出しています。
森嶋道夫氏(1923~2004,大阪大学名誉教授,ロンドン大学名誉教)は,「マルクスは経済が社会の土台と考えたが、私は人間が土台と考える。経済は人間という土台の上に立てられた上部構造にすぎない。それ故、将来の社会を考える場合、まず土台の人間が予想時点までの間にどのような量的質的変化をするかを考え、予想時点での人口を土台としてどのような上部構造が構築できるかを考えるべきである」として,日本人の戦前,戦中,戦後の思考形態と時系列変化から1999年に「なぜ日本は没落するか」を著しました。私も「人間を土台に経済を考える」意見に大賛成です。そして「人間とは何か」との問いかけに,「量子」「遺伝子」「大脳」を人間の基底として考察を進めるならば,より人間の実態に即して経済,金融,証券の世界にアプローチできるはずです。
これまで暗がりの中で模索してきた「経済をどう考えたらよいのか」に対して,「量子」は「豊穣の海」,さまざまな「思考の手がかり」を提供してくれます。量子を手掛かりに経済のホット・テーマを考えるのが私の本来の主旨です。
事例として,米国の大統領選挙を取り上げました。森嶋道夫氏の米国版です。米国の世代は大きく4つに分かれます。まず<高齢化世代>ですが,「1947年以前のサイレント世代(75歳以上)」。それと「ブーマー世代(=X世代)(1946年~1964年生まれ,55歳から74歳)」。この二つの世代の大多数が白人で高齢世代を形成しています。次に<若手世代>です。「ミレニアル(=Y世代)(1981年~1997年生まれ;23歳から40歳)」とその子供たちである「Z世代,1998年~2012年生まれ;8歳から22歳」。若手世代は人種的に多様で,特にZ世代はデジタル・ネイティブです。この若手世代が社会に出たとき,ミレニアルは金融危機で,Z世代はコロナ危機で職探しでスタートし,政治に強い不満を抱いています。
これまで投票に行く若者は少なかったのですが,最近,増えてきました。黒人のジョージ・フロイド殺害など人種差別が自分の問題として意識されるようになったのです。また女性の学位取 得者が男性より多く,トランプへの反感が選挙行動に影響しています。2019年,ミレニアル人口がブーマー人口を上回りました。
11月の大統領選挙は,郵便投票で訴訟問題が懸念されている,オクトーバー・サプライズで接戦州の帰趨が変わりうる等,予断を許しません。「ザ・エコノミスト」誌(9/12号)は,選挙人団に地殻変動が起きていると結論づけています。
※「わたしの量子ものがたり」①~⑩で主として「量子とは何か」を述べてきましたが,今回から続編として「量子に学ぶ経済の考え方」を連載いたします。
「量子」-「人間」―「経済」
――社会科学は人間が基本,人間は量子が基本――
吉成 正夫(東京都練馬区)
経済,金融,証券などは,あまりに理論重視であったと考えます。当然と考えられることに,なぜ疑問を持つのか,詳細は後日ご説明します。
経済などの社会科学は「人間」を考察する学問のはずです。近代経済学,とくに新古典派経済学では「個人や企業などの経済主体は合理的に選択する」との仮説を立てて精緻な理論を組み立てました。しかし2009年のリーマン事象のショックでそうした考えは破綻しました。
分析中心の理論のみでは真理に到達できないとの反省から,1990年代中頃に「複雑系の科学」が登場しました。生命現象など複雑な現象を「分析」するのではなく「複雑なものは複雑なまま」研究しようとの考え方です。
1984年にメキシコ州サンタフェ研究所が複雑系の拠点として設立されました。研究対象は,「生命現象」「昆虫のコロニー」「脳」「免疫系」「気象」「経済,政治,文化の社会的振舞い」など多岐に亘っています。こうした複雑な事象に対して「還元論」は無力でした。「還元論」は多様で複雑な現象は単一の基本的な要素に還元して説明されなければならないとします。最近では「全体は部分の総和以上のものである」とか「階層と階層の中間に真理が潜んでいる」など複雑系の科学のような反還元論的な考え方が力を得つつあります。
2002年に,イスラエルの心理学者ダニエル・カーネマンが行動経済学への貢献でノーベル賞を受賞しました。「行動」とは堅苦しい言葉ですが,「人間の態度振る舞い」の意味です。行動経済学で判りやすい例を挙げます。同じお金でも勤勉に貯めたお金と博打や宝くじ儲けたお金では,使い方が違います。博打のお金はパーと浪費的に使います。これを「心理会計」といいます。そうした人間の行動,心の歪みについて研究が進み,行動経済学でノーベル賞を受賞する研究者が輩出しています。
森嶋道夫氏(1923~2004,大阪大学名誉教授,ロンドン大学名誉教)は,「マルクスは経済が社会の土台と考えたが、私は人間が土台と考える。経済は人間という土台の上に立てられた上部構造にすぎない。それ故、将来の社会を考える場合、まず土台の人間が予想時点までの間にどのような量的質的変化をするかを考え、予想時点での人口を土台としてどのような上部構造が構築できるかを考えるべきである」として,日本人の戦前,戦中,戦後の思考形態と時系列変化から1999年に「なぜ日本は没落するか」を著しました。私も「人間を土台に経済を考える」意見に大賛成です。そして「人間とは何か」との問いかけに,「量子」「遺伝子」「大脳」を人間の基底として考察を進めるならば,より人間の実態に即して経済,金融,証券の世界にアプローチできるはずです。
これまで暗がりの中で模索してきた「経済をどう考えたらよいのか」に対して,「量子」は「豊穣の海」,さまざまな「思考の手がかり」を提供してくれます。量子を手掛かりに経済のホット・テーマを考えるのが私の本来の主旨です。
事例として,米国の大統領選挙を取り上げました。森嶋道夫氏の米国版です。米国の世代は大きく4つに分かれます。まず<高齢化世代>ですが,「1947年以前のサイレント世代(75歳以上)」。それと「ブーマー世代(=X世代)(1946年~1964年生まれ,55歳から74歳)」。この二つの世代の大多数が白人で高齢世代を形成しています。次に<若手世代>です。「ミレニアル(=Y世代)(1981年~1997年生まれ;23歳から40歳)」とその子供たちである「Z世代,1998年~2012年生まれ;8歳から22歳」。若手世代は人種的に多様で,特にZ世代はデジタル・ネイティブです。この若手世代が社会に出たとき,ミレニアルは金融危機で,Z世代はコロナ危機で職探しでスタートし,政治に強い不満を抱いています。
これまで投票に行く若者は少なかったのですが,最近,増えてきました。黒人のジョージ・フロイド殺害など人種差別が自分の問題として意識されるようになったのです。また女性の学位取 得者が男性より多く,トランプへの反感が選挙行動に影響しています。2019年,ミレニアル人口がブーマー人口を上回りました。
11月の大統領選挙は,郵便投票で訴訟問題が懸念されている,オクトーバー・サプライズで接戦州の帰趨が変わりうる等,予断を許しません。「ザ・エコノミスト」誌(9/12号)は,選挙人団に地殻変動が起きていると結論づけています。
※「わたしの量子ものがたり」①~⑩で主として「量子とは何か」を述べてきましたが,今回から続編として「量子に学ぶ経済の考え方」を連載いたします。
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