有限会社 三九出版 - 《自由広場》 「日本語」って不思議な言葉ですね!(その11)


















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          「日本語」って不思議な言葉ですね!(その11)

             松井 洋治(東京都府中市)

私は


 本年7月上旬,九州各地や岐阜県,長野県などに甚大な被害をもたらした豪雨の中で,被災地の現場の状況を伝える民放の若い女性レポーターが「神社の橋の手すりが流されております」というのを聞いた。言われてみれば,確かに「手すり」だが,昔から,橋の「手すり」部分は「欄干(らんかん)」だろう。「欄(おばしま)」という言い方もあるが,牛若丸が飛びのいて,持った扇を弁慶に投げつけて「来い来い来い」と手を叩いたのは,やはり橋の「手すり」ではなく「欄干」の上からであって欲しい。  
 5年ほど前,朝日新聞社が「美しいと思う大和言葉」を読者アンケートで募り,ランク付けしたことがある。(朝日新聞デジタル 2015.12.05.「beランキング」より)  
 アンケート結果は20位まで紹介されているが,誌面の関係もあり「ベストテン」だけを取り上げながら,中国から入った「漢語」,欧米からの外来語(カタカナ言葉)とともに日本語を構成する「大和言葉」(やまとことば。「和語」ともいう)の持つ美しい「響き」や独特の「語感」を,改めて,ご一緒に楽しんでみたい。
 まず第10位に選ばれたのは「恙なく」(つつがなく)で,「病気や災難が起きずに、無事に」の意で用いられる。日本人共通の心の歌「ふるさと」の2番に「つつがなきや友がき」と出てくる。第9位「心を寄せる」。「好き」よりも,もっと心が大きく動いている印象を受ける言葉だ。第8位「お裾分け」(おすそわけ)で,「自分のもらい物や利益を,他の人にも分け与える」の意。喜びを独り占めせずに共有したいという気持ちが伺える。第7位「ひたむき」で「いちずに物事に打ち込む」意,漢字では「直向」と書く。第6位は,最近は余り耳にしなくなったが「佇まい」(たたずまい),つまり「人や物が立っている様子」だが,その形だけでなく雰囲気をも含めた感じを受ける「大和言葉」ならではの言い方だろう。  
 駆け足で来たせいもあり,早くも半分(第10位から第6位まで)をご紹介し終えた。ここで,ちょっと,「ひと休み」のつもりはないが,せっかくなので,解説抜きで,第11位から第20位までにランキングされた大和言葉を,お伝えしておこう。 ⑪縁・所縁(ゆかり),⑫心配り,⑬和む(なごむ),⑭たおやか,⑮そこはかとない,⑯労わり(いたわり),⑰嗜み(たしなみ),⑱健気(けなげ),⑲お暇する(おいとまする),⑳労い(ねぎらい)それなりの言葉が選ばれていることが良く分かる。
 後半に移ろう。第5位「心尽くし」(こころづくし)で,文字通り「心を尽くし,心を込めてすること」や「もの」を表わす言葉である。第4位「慈しみ」(いつくしみ)という言葉。これは,国語辞典では「愛する、可愛がる、大切にする、可哀想に思う、哀れむ」などと説明されているように,幅広く,しかも奥深い情感を感じさせる言葉だと思う。
 いよいよ,新聞の読者が選んだ「美しいと思う大和言葉ベスト・スリー」である。
第3位は「ときめく」で,「喜びや期待などのために、胸がどきどきする」(「大辞林」)こと。「今をときめく」(時勢に合って全盛を誇る)の場合は「時めく」と書くが,この第3位に選ばれた「ときめく」(名詞は「ときめき」)を表わす漢字はない。
 第2位は,「御蔭様」(おかげさま)である。多く「おかげさまで」と「で」を付けた形で「相手または世間一般に対する漠然とした感謝の気持ちを表わす」(「大辞林」)が,「神仏や他人から受けた恩恵や助け」に対し「ありがたいことに」という気持ちを
伝えるには,最高の言葉かもしれない。余談だが,あの「ビートルズ」のジョン・レノン(夫人は小野洋子さん)は,日本語を毎日のように勉強していたそうだが,彼は口癖のように「okagesamade(オカゲサマデ)」という言葉が,「世界の中で、最も美しい」と言っていたらしい。(加瀬英明著「ジョン・レノンはなぜ神道に惹(ひ)かれたのか」・祥伝社新書 より) さて,「美しいと思う大和言葉」の第1位に選ばれたのは何だったのか? ちょっとここで,皆さんにも考えてみて戴きたい。必ずしも,聞けば誰しもが「なるほど!」と納得する言葉とも思えないが,第3位「ときめく」が803票、第2位の「お蔭さま」が820票であるのに対し、第1位の得票は1018票と群を抜いている。気を持たせずに発表させて戴こう。それは「思いを馳せる」(おもいをはせる)である。これを手元の「大辞林」に出ている「思い」(思うところ、考え、思慮、もくろみ、感じ、恋心、恨み)と「馳せる」(走る、走らせる、遠くまで至らせる)とを組み合わせて考えてみた。(「大辞林」には「思いを馳せる」ズバリは出ていない。)「万葉時代に思いを馳せる、まだ見ぬ遠い国に思いを馳せる、初恋の相手に思いを馳せる」など,色々なケースが浮かんでは来るものの,辞書に載せるような簡潔な表現では,とても表わしきれない,奥深く美しい言葉だと悟った次第。
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