] 〈花物語〉 薔 薇
小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)
薔薇は〈百花の王〉といわれる。それは花の美しさそのものを讃えて のものであると同時に,世界の薔薇栽培家の情熱が生み出した固有種へ の敬意が表現されているからでもある。歴史的には,紀元前3世紀に, 今日ヨーロッパで最も古い薔薇のひとつといわれるものがすでにあった といわれている。また英訳の『旧約聖書』には二ヶ所に薔薇の花が出て くるといわれる。ひとつは「私はシャロンのばら、谷間の百合」(「雅歌・2 ・1」), もうひとつは「荒れた地と乾いた地は喜び/砂漠は歓喜の声を上 げ、 野ばらのように花開く」(「イザヤ書・35・1」)である。ただ多くの聖書学者 は,ヘブライ語の薔薇はシャロンの野に多い「水仙」をあらわす語だと みていて,それを支持する人びとは,したがって「シャロンの水仙、谷 の百合」と訳したほうがよいといっているそうである。
昔,南ヨーロッパのある国に,王と王妃にとても大事にされていた, それはそれは美しいお姫さまがいた。お姫さまの好きなものは薔薇。薔 薇があれば何もいらないというくらいの薔薇狂い。だから王や王妃に取 り入りたいと願う人びとは,競ってお姫さまに珍しい薔薇や,たくさん の薔薇を贈った。ところが青天の霹靂 ― ある日を境にお姫さま,突如 薔薇に興味がなくなった。それどころか,「薔薇」という言葉を耳にす ると間髪を容れずにキレた。原因は簡単。「お姫さまは薔薇のように美 しい」という言葉が気に食わなかったのだ。なぜ「薔薇はお姫さまのよ うに美しい」ではないのか。お姫さまの誇り。お姫さまの美しさは〈唯 一無二〉でなければならなかったのだ。でもこの勝負,〈時〉が解決し た。お姫さまは土の中,薔薇はいまも美しく妍を競っている。
※参考資料:『花の文化史』(春山行夫/雪華社) 『聖書 聖書協会共同訳』(日本聖書協会)
小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)
薔薇は〈百花の王〉といわれる。それは花の美しさそのものを讃えて のものであると同時に,世界の薔薇栽培家の情熱が生み出した固有種へ の敬意が表現されているからでもある。歴史的には,紀元前3世紀に, 今日ヨーロッパで最も古い薔薇のひとつといわれるものがすでにあった といわれている。また英訳の『旧約聖書』には二ヶ所に薔薇の花が出て くるといわれる。ひとつは「私はシャロンのばら、谷間の百合」(「雅歌・2 ・1」), もうひとつは「荒れた地と乾いた地は喜び/砂漠は歓喜の声を上 げ、 野ばらのように花開く」(「イザヤ書・35・1」)である。ただ多くの聖書学者 は,ヘブライ語の薔薇はシャロンの野に多い「水仙」をあらわす語だと みていて,それを支持する人びとは,したがって「シャロンの水仙、谷 の百合」と訳したほうがよいといっているそうである。
昔,南ヨーロッパのある国に,王と王妃にとても大事にされていた, それはそれは美しいお姫さまがいた。お姫さまの好きなものは薔薇。薔 薇があれば何もいらないというくらいの薔薇狂い。だから王や王妃に取 り入りたいと願う人びとは,競ってお姫さまに珍しい薔薇や,たくさん の薔薇を贈った。ところが青天の霹靂 ― ある日を境にお姫さま,突如 薔薇に興味がなくなった。それどころか,「薔薇」という言葉を耳にす ると間髪を容れずにキレた。原因は簡単。「お姫さまは薔薇のように美 しい」という言葉が気に食わなかったのだ。なぜ「薔薇はお姫さまのよ うに美しい」ではないのか。お姫さまの誇り。お姫さまの美しさは〈唯 一無二〉でなければならなかったのだ。でもこの勝負,〈時〉が解決し た。お姫さまは土の中,薔薇はいまも美しく妍を競っている。
※参考資料:『花の文化史』(春山行夫/雪華社) 『聖書 聖書協会共同訳』(日本聖書協会)
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