有限会社 三九出版 - 《自由広場》私の量子ものがたり ⑩ 人間とウイルスの深い関わり


















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《自由広場》          私の量子ものがたり ⑩
          人間とウイルスの深い関わり

           吉成 正夫(東京都練馬区)

1.「創造」と「破壊」のウイルス
 量子と人間をつなぐものとして遺伝子があります。ところでウイルスは量子から生成された原初のシステム体で,無生物から生物へ,物質から生命に橋渡しする存在であることを「ウイルス・プラネット」(カール・ジンマー著,飛鳥新社,2013)は教えてくれます。ウイルス(virus)はラテン語で「命をもたらす液」「死をまねく液」の相矛盾する意味があります。
 ウイルスはいまの現象を見るかぎり「死を招く猛毒」です。ところが遺伝子研究ではヒトゲノムに入り込んだウイルス遺伝子が発見され,ヒトのDNAの最大80%はウイルス由来の遺伝子と推定しています。人体を最善の状態で稼働させるには適切の時に適切な場所で遺伝子のスイッチが入らなければなりません。こうした遺伝子のスイッチとなり,また新しい遺伝子を組み合わせるなど,人間の進化にウイルスは重要な役割を果たしてきたと考えられています。
 ウイルスは数十億年前から地球上に存在し,海洋中に存在するウイルスの数は1030(イメージしにくいですが,1兆の1兆倍,その百万倍です)。それは海洋中の生物の15倍に相当します。サワラ砂漠にも,南極の氷床の底にも,地球のどこにもウイルスは存在しています。そのウイルスは地球上の生命の母体となり生命の進化に重要な役割を果たしてきました。そのうえ地球上の酸素のほとんどはウイルスの助けを借りて生成されていますし地球の温度調整を助けています。また胎児は胎盤を通じて母体の組織から栄養を吸収しており,ウイルスの遺伝子が重要な働きをしています。ウイルスなしに人類は命を引き継ぐことはできなかったのです。 ウイルスは単純な構造で,膜につつまれた一組の遺伝子です。生物の細胞の中に入り込むと細胞を利用して自分の遺伝子をコピーし,最終的には何百万の新しいウイルスが細胞から放出されます。遺伝子のDNAが二重らせん構造で自分の複製機能に優れているのに対してウイルスは一本鎖のRNA(リボ核酸)で,突然変異を起こしやすい遺伝子です。人間の肺から174種類のウイルスが検出されますが,そのうち90%は未知のウイルスだそうです。それだけ突然変異で増殖しているのです。ウイルスは1日で1000個に増えるので3日も生きていれば1億個。そのなかで強いウイルスが生き残っていきます。武漢からヨーロッパへ,さらにアメリカへ。更にこれからは南米,アフリカへ ―22― 伝播し遍歴の期間が長引くほど感染力,致死性を増していくことが理解されます。予想される第二波・第三波には万全の備えが欠かせません。SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した2002年から18年,この間のグローバル化は何倍にも進化しました。以前であればウイルスの感染は局地的に抑え込まれていましたので,今回のコロナ・ショックの恐ろしさが判ります。

2.歴史を塗り替えた中世のペスト
 ペストは古くから繰り返し発生しましたが,1347年のヨーロッパに蔓延したペストは,致死率が高くヨーロッパ人口の3分の1が死亡したと推計されています。流行の中心地だった北部イタリアの住民のほとんどは全滅し,聖職者の祈りは効果がなく教皇の権威は失墜しました。教会が支配する中世時代と決別し,人間を解放する新しい時代を切り開く動きがルネッサンス(古代ギリシャ・ローマ文芸復興)です。 1348年には,ヨーロッパを北上し,イングランドの荘園は労働力不足のため農業から牧羊に転換されました。(Wikipediaほか)
3.コロナ・ショックが迫る社会・経済変革
 歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリはNHKとの緊急対談で,大学のデジタル授業について20年議論を重ねてきたが,コロナ・ショックが起きると二週間後に実施された,と述べていました。経済も同じです。企業がグローバル化を推進したことで格差が拡大しました。こうした資本主義の限界に対して,二つの解決策が議論されています。一つは「ベーシック・インカム」。すでに多くの国々で実験されています。もう一つは「MMT(現代貨幣理論)」。自国通貨建てで経常収支が黒字である国は望ましい物価水準が達成されるまで財政支出を進めてよい,という理論です。多くの学者は否定的でした。ところがコロナ・ショックで,国民一人当たり10万円が支給されますが,これは「ベーシック・インカム」の変形です。またGDPの10%前後まで補正予算が成立しました。これはまさにMMTです。コロナは議論抜きで変革を迫ったのでした。新型コロナはわたしたちの住む世界を塗り替えようとしています。
参考図書    「遺伝子(上下巻)」(シッダール・ムカジー著、早川書房、2018)
        「遺伝子・DNAのすべて」(キャット・アーニー著、原書房、2018.6.30)
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