有限会社 三九出版 - 《自由広場》 「日本語」って不思議な言葉ですね!(その10)


















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《自由広場》        「日本語」って不思議な言葉ですね!(その10)

                  松井 洋治(東京都府中市)

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない本年2月下旬,友人から「この騒ぎの“しゅうそく”見通し」という際の「しゅうそく」は,「収束」と「終息」のどちらが正しいか教えて欲しい…というメールが届いた。返事をする前に,念のため手元の3冊の「国語辞典」で調べてみた。結果は次の通りである。
○「角川・国語辞典」:・収束……集め束ねること、しめくくりをつけること 
           ・終息……やむこと 終わること   
○「学研・国語辞典」:・収束……おさまりをつけること
           ・終息……やむこと、終わること
○「大辞林(三省堂)」= ・収束……おさまりがつくこと             
           ・終息……やむこと、終結すること
 以上を見る限り,どちらでも間違いではないと思われるが,結果的に「やむ」「終わる」という「終息」よりも,“「しめくくりをつける」「おさまりをつける」「おさまりがつく」などの「収束」の方が,「人間の努力なり,神仏の加護なりのお蔭で,終局が迎えられる」というニュアンスが強い”という私なりの解釈で,友人には,「終息宣言が出せるまで,収束に努力する」という例文を添えて回答した。
  因みに,3月18日(水)の「コロナウイルスに関するG7電話会談による首脳声明」の安倍総理の発言紹介の記事(読売新聞)には「事態を収束し、世界の人々の不安を和らげるため」と出ていた。また,NHK・TVのテロップでも,「どうなったら“終息”?」とか「完全な終息を目指す」などと表示されており,どうやら,上記の通り「終息宣言を出せるまでは、事態の収束に努める」という理解で,間違いはなさそうである。ところで,「収束」と「終息」は同音で,しかも意味もほとんど同じであるが,日本語には「雨」と「飴」,「橋」と「箸、端」,「朝」と「麻」,「見当」と「検討,健闘」等のような「同音異義語」がかなりある。ただ,これらは「アクセントの違い」や「前後の脈絡」によって,間違えることは,まずあり得ない。それに対して,表現は似てはいるが少し違っており,意味も異なる言葉で,少なからず間違って覚えている(使っている)ケースも見られる「似て非なる言葉」について,少し触れてみたい。まずその代表格は,「おざなり」と「なおざり」である。
 「おざなり」は漢字では「御座形」と書き,元々は「お座敷の形(なり)」という言葉で「お座敷(宴会)の席で,形ばかりを取りつくろう」ことを言ったところから「おざなりな対応をする」など「物事をいい加減にする」ことを「おざなり」というようになったようだ。一方,「なおざり」は「等閑」と書くが,これは漢語の「等閑(とうかん)」を後からあてたもので,元来は“そのまま何もせずにいること”をいう「直(なお)」に,“遠ざける”という意味を持つ「去(さり)」がくっついたのだという説が有力で,「対策をなおざりにする」「約束がなおざりになったままだ」など「いい加減にしておく、何もしない」という場合に使われるのが一般的である。従って,「おざなり」は「いい加減でも“何かする”」のに対し「なおざり」は「いい加減で“何もしない”」と覚えれば,まず間違うことはないはず。
 次は「頭越し」と「頭ごなし」についての,思い出話である。前者は「他人の頭を越えて物事をする、当事者を差しおいて、事が進められること」(大辞林)であり,後者は「相手の言い分も聞かず、初めから一方的に決めつけた態度を取ること」(同)であるが,サラリーマン時代に,上司から「専務に頼まれたからといって、俺の頭ごなしに,資料を直接専務に渡しやがって…」と「頭ごなしに」叱られた経験がある。「今後,気をつけます。申し訳ありませんでした。」と口では謝ったものの,「頭越し」と「頭ごなし」の違いすら分からない上司を,腹の中で笑っていたものだ。
 今回の最後は,以上の「似て非なる」言葉とは異なるが,「負けず嫌い」という言葉を取り上げたい。理屈っぽく言えば,「負けず=負けない」であるから「負けず嫌い」は「勝つことが嫌い,負けることが好き」ということになる。しかし,言うまでもなくこの言葉は「他人に負けることを嫌う勝気な性質」(角川・国語辞典)を指している。ただ,同辞典には“「負け嫌い」の誤用”とも書かれている。「負け嫌い」なら,「負けるのが嫌い」という意味であり,まさに本来の表現と言える。また,「負ける嫌い」という言い方もあるらしく,更に,これとは別に「負けず魂/負けじ魂」(他人に負けまいとする精神。角川・国語辞典)という言葉もあり,“この「負けじ魂」と「負ける嫌い」とが合わさったものが「負けず嫌い」ではないだろうか?”という見解(NHK「放送文化研究所」)があることも,付け加えておきたい。


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