有限会社 三九出版 - 《自由広場》 朝 の 散 歩 道( 後半 )


















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《自由広場》        朝 の 散 歩 道( 後半 )

           伊藤 研二(愛知県名古屋市)

(前号の最後の場所“デザイン博の置き土産の日本庭園”から)300mぐらい歩くと堀川に架かる最後の橋をわたる。2,3分で宮の渡し。今は公園になっており松や桜が植わっている。船着き場に常夜灯があり,1826年シーボルトがここに来た旨案内がある。江戸時代の熱田宿は賑わった。以前散歩の途中で宮の渡しを尋ねられ案内したことがある。私と同年代の一宮の男性。熱田神宮に車を置いてきたらしい。「司馬遼太郎の小説を読んだことがありますか。」「ないです。」「面白いから是非読んでください。」奥さんが女学生時代,作家の奥さんと縁があったらしい。『街道をゆく』の中に宮の渡しが出て来るのを知る。小説の中に出て来る名所を奥さんと回っているらしい。奥さんは温泉のあるところだけ付いて来るので今日はいない。船着き場はコンクリートだが今は周りに葦が繁っている。あの人元気かな。司馬氏の説でよしとあしというのがある。よしは茎に空洞がなく強いがあしは中が空洞で弱い。これが良し,悪しが分からないの語源とのこと。実際はよし,葦に区別はなく同じものらしい。渡しのものは冬には刈って束ねてあるので「よし」かな?
 北へ2,3分の所にうなぎ屋がある。突然「どこにならんだら良いでしょうか」と聞かれてびっくりした。休日には行列が出来ているがこんなに朝早くには誰もいない。店は11時オープンのはず。「九州から出張で来たが今日は何もすることがないのでどうしても食べたい」凄い人がいる。九州にも良い店はあるらしい。行ってみたいな。
 北東へ進むと道標がある。石の柱だが文字は殆んど読めない。西へ佐屋。北へ美濃。旧街道(東海道)を東へ歩くと熱田伝馬町。ここは竹千代(家康)が幽閉されたところ。1548年から2年間(6歳~8歳)。この間,信長は15歳で濃姫と結婚。この辺りの地理に明るく好奇心旺盛な信長はきっと竹千代を見ていただろう。近くに信長が幼い頃手習いに通った滝之寺(たきのじ)がある。またその近くに裁断橋がある。1590年秀吉の小田原攻めの時地元の18歳の若者堀尾金助が出陣し病死する。その死を悲しんで母親が架けた橋。ここを通る人は念仏を唱えてください。母の愛は深い。33年後,その母親は精進川に橋を作ったが完成を見ずして亡くなった。今は精進川もない。
 500mほど行くとバナナ屋さんがある。ここはバナナ専門店で台湾バナナが美味しい。冬は甘栗も美味しい。そこから300mほどで熱田神宮の東門を入る。一角にちょっとした横丁があった。記念写真の店,土産物屋,喫茶店それにうなぎ屋もこの中にあった。喫茶店は清め茶屋というのだが古い建物で冷房の効かないところでかき氷を食べるのが楽しみだった。しばらくすると大クスに出会う。境内に7本の大クスがあるがこのクスが一番太い。樹齢1000年。弘法大師手植えとある。本殿へ進むと信長塀がある。瓦の間に土を入れて高く積み重ねたもの。桶狭間の戦いで戦勝祈願をして神宮に寄進したとされる。信長はここから10キロ先の桶狭間まで何を思いながら駒を進めたのであろうか。本殿にお参りして不実梅(ならずのうめ)の脇を通って参道を歩く。宝物殿がある。この付近で夏休みに緑陰教室が開かれる。20日間くらい。孫の願書を貰うため蚊に刺されながら夜中に並んだ。孫も教室では蚊に悩まされたようだ。西門の近くに学問の神様の菅原社がある。孫の為にお参りする。
 西門を出て200mくらい北へ“100メートル”通りを歩くと下知我麻(しもちがま)神社。旅の安全の神様が祀られている。京都へ行けますように。ここ5~6年行ってない。桜,紅葉の京都は大混雑の為避けたい。しかし冬は盆地特有の寒さが厳しいし,夏は名古屋よりも暑いので中々踏ん切りがつかない。それと年取ったので車で高速を走るのを危惧されていることもある。
 右に回って坂を下りると突き当りがJRの熱田駅。駅の上に陸橋が架かっている。橋は大津通り,JR,名鉄を跨いでいる。大津通りは名古屋の中央を南北に走る道で北へ行くと名古屋城,南へ行くと名古屋港。線路がJR,名鉄など11線路が走っている。ここは私の展望台。水星,金星,火星,木星などが並ぶのを眺めたり,しし座流星群,三日月を見たりする。三日月は低い位置に在ると家の前では見えず季節によって見に来る。人工衛星を観察したこともある。衛星は飛行機のように瞬かないでスーと流れて行く感じ。あれに人が乗っていると思うと不思議な気がする。時にカメラを構えた撮り鉄(鉄道を撮る人)に会うこともある。珍しい列車が通るらしい。
 随分昔のことだが橋の上から小学校に上がる前の息子と一緒に電車を見ていたら中年の男性に「家は近くですか?」など2,3質問をされた。道を尋ねる様子でもない。家に帰って話したら「それって飛び込みに間違われたんじゃない?」ああ刑事さん?
 陸橋を下りると直ぐ神宮東公園。梅林があり道沿いは桜並木になっている。春は東公園を歩くことが多くなる。今日は此処から帰ろう。帰ったら朝食だ。

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