〈花物語〉 蓮 華 草
小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)
「春のはたけのたにしの子/親はなくともそだつもの/たんきぽんき たんぽりん/(略)/あすからあの子とあそばない/花であたしをぶっ たもの/たんきぽんきたんぽりん/ひっそり春のゆふぐれに/とりのこ されたたにしの子/たんきぽんきたんぽりん」 ― 田螺のいる田んぼか ら水が抜かれると,やがて蓮華草の季節。蓮華草は「げんげ」ともいい, 晩春になると,紅紫色の小さな蝶形の花を輪状につけて田んぼを覆った ものである。
その季節,蓮華草の広がる田んぼは子供たちの遊び場。子供たちは三 つ編みの首飾りを作って遊んだ。男の児は好きな女の児に首飾りをあげ ることができれば,その日一日は幸せ。何かで拗ねた女の児がこれ見よ がしにほかの男の児から首飾りを受け取った日は,男の児は嫉妬で夕食 に大好きなコロッケが出ても箸をつけない。ほんとはコロッケを食べた くてたまらないはずなのに ― 。
ひとがまだ〈はにかみ〉という感情をもっていたころのお話。大好き な男の児からとても嬉しい手紙をもらったひとりの少女。嬉しさと小さ な秘密に三日三晩,手紙の隠し所にこころを痛めた。そして〈だれにも 見つかりませんように〉と,その手紙を油紙に包んで,蓮華草の花咲く 田んぼのひと隅にひそかに隠した。でも,もう一度その手紙を読みたい と,ある朝,少女が田んぼに行ってみると,田んぼはきれいに耕されて いて,男の児の手紙は行方知れず。その日で 少女の初恋は終わった。
※「春のはたけの…」(「寂しい春」竹久夢二)。杉本秀太郎『花ごよみ』(平凡社)収載の
「蓮華草」より引用。併せて本稿はその本文からヒントを得たことも記しておく。
小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)
「春のはたけのたにしの子/親はなくともそだつもの/たんきぽんき たんぽりん/(略)/あすからあの子とあそばない/花であたしをぶっ たもの/たんきぽんきたんぽりん/ひっそり春のゆふぐれに/とりのこ されたたにしの子/たんきぽんきたんぽりん」 ― 田螺のいる田んぼか ら水が抜かれると,やがて蓮華草の季節。蓮華草は「げんげ」ともいい, 晩春になると,紅紫色の小さな蝶形の花を輪状につけて田んぼを覆った ものである。
その季節,蓮華草の広がる田んぼは子供たちの遊び場。子供たちは三 つ編みの首飾りを作って遊んだ。男の児は好きな女の児に首飾りをあげ ることができれば,その日一日は幸せ。何かで拗ねた女の児がこれ見よ がしにほかの男の児から首飾りを受け取った日は,男の児は嫉妬で夕食 に大好きなコロッケが出ても箸をつけない。ほんとはコロッケを食べた くてたまらないはずなのに ― 。
ひとがまだ〈はにかみ〉という感情をもっていたころのお話。大好き な男の児からとても嬉しい手紙をもらったひとりの少女。嬉しさと小さ な秘密に三日三晩,手紙の隠し所にこころを痛めた。そして〈だれにも 見つかりませんように〉と,その手紙を油紙に包んで,蓮華草の花咲く 田んぼのひと隅にひそかに隠した。でも,もう一度その手紙を読みたい と,ある朝,少女が田んぼに行ってみると,田んぼはきれいに耕されて いて,男の児の手紙は行方知れず。その日で 少女の初恋は終わった。
※「春のはたけの…」(「寂しい春」竹久夢二)。杉本秀太郎『花ごよみ』(平凡社)収載の
「蓮華草」より引用。併せて本稿はその本文からヒントを得たことも記しておく。
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