有限会社 三九出版 - 東日本大震災私は忘れない   映画「Fukushima 50」を見よう


















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      映画「Fukushima 50」を見よう
             吉岡 昌昭(埼玉県さいたま市)

 令和2年1月17日,広島高等裁判所は予て係争中の四国電力伊方原発3号機の再稼働(現在は定期点検中)について,原告側の言い分を認め“稼働中止”の判断を示した。現在わが国の原子炉は54基,その内動いているのは9基である。原子力発電については,東日本大震災による東京電力福島原子力発電所の事故が契機となり原子炉の安全基準が厳しくなった結果であるが,今回の広島高裁の判断は妥当と考える。
 本年は東日本大震災から9年目となるが,思い出すのは東京電力福島第一原子力発電所(以下F1,第二原電はF2と称する)の事故である。2011年3月11日午後2時46分,宮城県沖で発生したMG8.8(当初発表のもの。後に9.0に修正)の大地震は,F1,F2の発電所設備の冷却設備(電源,配管設備等)に損壊をもたらし,その時点で既に正常に作動できない状態にあったのではないかと思っている。
 地震発生の40分後,F1,F2を襲った大津波は所内に大量の海水を流入し,事態をさらに悪化させ,炉の制御ができない状況となってしまった。
TV各社は各地での津波による被害状況を放映し,同時に,F1,F2の惨状も放映したが素人には詳しいことは分からず,ただ原電の炉がメルトダウン,水素爆発という事態を目の当たりにして只心配するだけであった。
 そのころ,東京電力のトップは事故の大きさから手に負えないと思ったのか,F1から「撤退する」と言い出した。若し,そうなるとF1の炉(6基)は次々に爆発し,それこそチェルノブイリ原発事故の数倍の大惨事となり,日本列島は関東から東半分が壊滅(人が住めなくなる)する。当時の官邸は(首相は菅直人氏)必死になって事故の収拾にあたっていたが,情報が錯綜し混乱を極めていたから,菅直人元首相は血相を変えて東電を怒鳴っていたが,実際首相自身その恐ろしさに絶句したという。
 原子力発電所の炉内で異変が起こったら,その対策は冷すしかない。この冷す装置(冷却装置)が駄目になったらアウト(お手上げ)である。不幸にもF1の冷却設備は地震発生と同時に何らかの異変が起こり,電気系統が壊れたとしか思えない。津波はその後から発電所を襲い海水で水浸しにしてしまったのである。メディアは電源ストップの原因を津波の影響としているが,私は地震発生の時点で何らかの異常が起きていたと考えるのが自然であると思っている。
 吉田所長とそのスタッフは事態の深刻さを十分認識しており,ここで食い止めねば日本の東半分は駄目になるということが分かっていた。しかし,上層部の認識とは温度差があり東電の本店では「何とか片づくだろう……」という感じだったと思われる。このことは後日東電の上層部が地元を訪問,謝罪らしきことを言ったのだが,事故後しばらく経ってからであったことからうかがえる。
 しかし,現場ではF1所長吉田昌郎氏をはじめそのスタッフは危機を避けようと必死の作業を続けており,大惨事が起こらぬよう命がけで対策に当たっていた。この時のことを,ノンフィクション作家門田隆将氏は長期にわたり吉田所長から直接取材し,また当時現場で事態収拾に頑張ってくれた係員達からヒヤリングを行って書いた小説が「死の淵を見た男」である。これが映画化され,この3月6日に公開される。
  吉田昌郎とそのチームが一丸となって行った命がけの努力が最大の危機を救ったのである。その姿が映画化されるのであるから是非多くの人に見て頂き,原子力発電所の恐ろしさを分かってもらいたいと思う次第である。
 私はTVで放映されるストーリーは信じないが,現場で中継されている映像は目前の事実であるからその凄さには被災者には心底同情してやまない。本当にお気の毒である。F1,F2の事故では,原子力の専門家といわれる人達がテレビでもっともらしい発言をしていたが,彼らが今迄どれだけ国民を騙してきていたか(しかし,彼らには国民を騙しているという感覚はない。自ら正しいと思っているのだろう),彼らに良心とプライドがあるのかを疑いたい。
 映画「Fukushima 50」は,事故当日から現場で事故収拾に命がけで戦い,国を救った人々の姿である。国家と電力関係者たちは,長い間原子力発電の安全性を語っているうちに自分も「安全だ」と自己暗示にかかってしまっていたのだろうか? 原発の歴史は事故の歴史であり,その事故には安全対策の答えが入っている。しかし,事故は隠蔽され,オープンにされず,ただ,原発は安全というプロパカンダで「安全神話」は作られてきた。炉の安全対策だが,とにかく事故が起きたら「冷却し続ける」しか方法がないということを我々は知った。故に,現場では毎日朝礼時に炉の「冷却装置」が完全に動くかどうか,特に配管系統を重点に,毎日チェックし一次電源が駄目なら二次,三次,四次と安全対策を講じ,それが確実に動くよう常に留意すべきである。

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