有限会社 三九出版 - 満洲国は独立国だった 


















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☆《自由広場》
             満洲国は独立国だった  

              坂本 進一郎(秋田県大潟村) 

 9月19日頃早瀬利之さんから手紙を貰って,そこには「坂本さんのこの本(『満洲国と興農合作社』)を読んでいますと、なかなか立派な共同体が出来ているのに気がつきます。満洲国が独立国家だった証拠です」とあるのをふと思い出して,そう言えば興農合作社,協和会,満洲国政府の三位一体でそれなりに「満洲国民」が誕生しつつあったことに気がついてきた。
 というのは,協和会は石原莞爾の五族協和運動達成という思惑とはかけ離れたが,それでも協和会は毎年一回新京で総会を開き,満洲国の抱える問題を討議していた。つまり協和会という満洲国独特の組織はそれなりに機能し,満洲国らしい刻印を刻んでいたのである。また,興農合作社は満洲農業の近代化を図る運動の中で,滿洲農業近代化運動のバックボーンとして満洲国共同体運動の柱となり,その役割を十二分に果たした。関東軍の「内面指導」は満洲国の汚点であり,さらに日本人の総務長官が絶大な権限を持ち,その総務長官職を関東軍が握るという破行性が,満洲国傀儡のイメージを植え付けた。しかし,滿洲国は日本とも中国とも切り離して独立国として創出されたので,満洲国政府は,新国家の統治にそれなりの力を発揮した。台湾統治も台湾人同士が初めは人治主義であったが,日本の指導で法治主義に変わり,それが今日の近代化を促す力になった。満洲国はたった13年しか存在しなかったので,中途半端に終わったが50年とか統治していれば違った結果が出ていたであろう。
満洲国は日本人の潔癖さもあって二重国籍を嫌った。そのため,合作社OBに聞くと自分の所属する興農合作社の番地に寄留していいということであった。やはり,昭和20年生まれの次弟博(故人)の戸籍(『興農満州』見開きの写真参照)を見ると満洲国の文字は見えない。やはり興農合作社の寄留番地で日本内地人という戸籍簿になっている。複雑な民族構成。五族協和の扱いに困惑したまま日本政府も国籍について結論を出せないまま終わったようだ。もちろん日本の戸籍でもことさら日本国という文字は見えない。ちなみに言えば,小生の台湾の伯父は台湾国籍と日本国籍を二重に持っていて,日本国籍は日本統治時代に取得し,台湾国籍は戦後取得し外国人扱いであったらしい。そこで台湾の伯父から台湾に住んでいるので,見苦しいので日本国籍を抹消したいからと言って台湾の戸籍簿と申立書を送ってきたので役場に提出した。法務省の回答は日本のメンツもあるので,伯父死亡を待って戸籍から抹消するとのこと。
 満洲国建国が可能となったのは,滿洲居住三千万民衆が各国や軍閥の侵略から解放されることを期待して独立を支持したからであった。一方,盧溝橋事件の場合,無目的に戦争を拡大していった。当時軍部は盧溝橋事件を軽く見ていた。一撃すれば中国は降参すると思ったのである。そして一撃一撃と対処療法的に戦争をしているうちに戦争が一人歩きしてしまった。梅津陸軍事務次官をはじめ,軍人も日和見主義であった。戦争拡大を唱えていれば左遷がなく安泰であったばかりでなく,事変を成功させれば階級や給料が上がるかもしれないという,成功報酬を期待したこともあった。
 逆に石原莞爾は,盧溝橋事件は満洲国存亡の危機を招く重大事件の公算大とみていた。満農も康徳4年の事件(盧溝橋事件のこと)で,「父(日本)と母(中国)が戦争を始めてしまって」と暗い表情をしたと,合作社OBは語っている。作家島木健作は『満洲紀行』で言う。「協和会と農事(興農)合作社を訪ねるということは必要であ
る。若い満洲国の最も魅力ある世界がここにある。ここには日本には見られぬ人間,満洲国ならでは見得ない人間のタイプがある。私などは、満洲に旅した甲斐があったと感じたのである」
 島木健作は農本主義者であったと思う。合作社職員も農業の近代化を図るため実際に農民に寄り添って仕事をした。合作社OBはこう語っている。「純朴そのものの農民と、春先は生ネギに生味噌をつけて食べる貧困という、本当の満洲に触れてみて「五族協和」による「王道楽土」の理想郷を築こうとしたことに、いささかの誤りも感ぜず、むしろそれに携わることに大きな誇りを感じていた」「今にして思うとあんなに大きな夢と純粋な情熱を傾けたのは夢駆ける話であった」確かに,満洲に合理的思考の農本主義者がもっと多ければ,権益思想の跋扈を阻止できたかもしれない。しかし,満洲国は統治機構も整ってきて,その結果早瀬さんの言う「共同体」とは「満洲国民」と置き換えてもいいようになったと思う。満洲国を見る新しい視点に気がつかされ,早瀬さんに感謝したい。 
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