有限会社 三九出版 - ☆ 東日本大震災私は忘れない


















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              七年半の思い 

             郡 芳一(福島県南相馬市) 

 2011年,原発事故時の放射能の数値は3.5シーベルト。今は0.10シーベルトまで下がってきました。事故以来,年2回,500㎡ごとに地図に起こし,測定を続けています。結果は予想以上に早く空気中の染量は下がってきています。
 8月から,空気中の放射能を秋と春の年2回,計り始めてから,予想以上に早く低くなり,我が家の近くでは現在0.01まで下がっています。
 稲作も,昨年試験的に8反,今年は約2町まで再開致しました。水を張り,田園が緑色になり,風に戦(そよ)ぐのを見ると,何かホッと安らぎを感じます。
 ホタルの舞うのを見ることが少なかったのですが,餌となるツブコが昨年作付けした田の中に見られるようになり,少しずつ自然が帰ってきているようで嬉しいです。
 ただ,私達の楽しみな山菜,特にきのこは2000~6000の放射能の数値があり,食することはできません。それができる様な里山が帰ってくるのはいつだろうかという思いです。
 また,稲作を再開してみたものの,7年間のブランクは大きく,農機具は全く使い物にならず,それに稲作に対するノウハウは無くなり,初歩からの出発です。苦労の割には風評被害もあり販売価格が安く,生活の糧にはならないこともあり,収穫の喜びは少ないのです。更には,米に対する国の方針が変わり,40%の減反が無くなり,休耕地や転作に対する奨励金も無くなって一度荒らした田畑を元に戻すことはいっそう難しくなりました。農家はますます生きづらくなってきます。津波に荒らされた田圃は大型の基盤整備により今持っている機械では耕作することができません。農業形態が変わり,離農が進むものと思うと農家の一員として寂しさを感じます。
私が7年半前まで一緒に働いていた人達の中の一人は孫と共に波に飲まれて未だに帰ってきません。もう一人は昨年の秋,自ら命を絶ちました。言葉に表せない悲しい思いでおります。自ら命を絶ったのは女性で,原発事故で生家を追われ,子供と孫は放射能から少しでも離れようとして遠くに避難先を選びました。彼女は両親と近くの仮設住宅暮らしをしておりましたが,不幸にして4年前相次いで両親を失いました。そして,それでも仮設仲間も出来て落ち着いた矢先に,国はオリンピックを開くにあたり「原発事故は終わった」とアピールするために仮設を閉じる政策を早めました。そのために,帰る条件も不充分な場所の自宅へ戻らざるを得ませんでした。子供達は避難先で家を建てて暮らし始めたので,彼女は大きな家で一人暮らしとなり,その寂しさに負けて命を絶ったのです。原発事故さえなければ家族は離れず暮らせたものをと悔やまれてなりません。
 昔から「水と空気はタダ」と云われていましたが,空気は汚れ,生活水にしているダムの底には26万ベクトルの汚泥があると云います。その水をいくら浄水して検査もしていると云われても飲む気にはなれず,殆んどの家庭では飲み水はメーカーの水を買って飲んでいます。
 それから次のようなこともあります。原発事故前までは仲良く暮らしていた集落で,根拠のない線引きにより補償金に格差が起き,住民どうしが修復のできないくらい険悪な関係になっている処も出てきています。
 避難先から,若者は戻らず,故郷へ帰るのは高齢者だけ。その生活環境は十分とは言えず,いろいろな面で不便さがあります。
 除染土の入った袋は山積みされ,いつ運び出すのかも分からず,第一原発の汚染水は満杯となり海へ流すことを検討されています。
 あの大災害後七年半,今こうして書き出しますと不満が先立ちます。しかし一方で,風評被害はあるものの一部を除き農産物や海産物も生産を再開し,昔の生活に少しずつ戻りつつあります。また,世界でも類のない放射能事故の中へ勇気を出して応援に駆けつけてくれた多くのボランティアの人達と親しくつき合うようになり,お陰様で全国に沢山の友達が出来ました。その友達は今も時折顔を見せに来てくれて,この9月11日にはそのボランティア―の人達の応援もあり,南相馬市で7回目の「祈りと出合展」を開き,関連死を含めた1121個の燈明を焚きました。ありがたいことです。
大災害を経験した私達は今,全国各地で起きている災害の痛みをわがことのように思っております。そして少しでも恩を返したいと思い,仲間を募って新潟,熊本,三陸,西日本へと出向いております。その折に私達の被災地に来てくださった人に出会ったこともありましたが,そんな時は天にも昇るような嬉しさでいっぱいになります。
 災害とそれに関連した悲惨な出来事,そして助け合う心を,私は決して忘れません。 



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