「日本語」って不思議な言葉ですね!その3)
松井 洋治(東京都府中市)
当「本物語」第58号(2017.08.15)で,「とんでもない」を「とんでもありません」とか「とんでもございません」というのは,「とんでもない間違い」であることに触れた。それに関連して,毎回,拙論をお読みいただいている方から,歌謡曲「影を慕いて」(古賀政男作詞・作曲)の「月にやるせぬ」はおかしいのでは? というご意見が寄せられた。結論から申し上げれば,「やるせぬ」というのは,古賀政男の勘違いで,完全な間違い。「やるせない」は,「やるせがない」とも言うが,漢字表記すれば「遣る瀬」が「無い」,つまり「遣る瀬=気持ちを晴らす方法,手段」が「無い」のであって,「やるせぬ」という言い方は,「仕方ない」を「仕方ぬ」,「勿体無い」を「勿体ぬ」というのと同じで,絶対に「許せぬ」のだ。1932年(昭和7年)の歌であるから,80年以上,誰も気付かなかったのか,疑問に思っても「あの古賀政男が間違えるはずがない」という思い込みから,そのままにされて来たのかもしれない。
ところで,在日期間が二十数年になる外国人女性が「日本語では,敬語が特にむつかしい」と話していたが,彼女が、その時例に出したのは,日本人ですら迷ってしまう「お」と「ご」の使い分けである。漢字で書けばどちらも「御」であるが,この「お」や「ご」は,言語学的には「丁寧語」または「美化語」というらしいが,「お」を付けなくても意味は変わらないもの(例えば,「お正月」,「お米」,「お手紙」,「お金」,「お名前」など)と、「お」を付ける方が一般的なもの(例えば,「おかず」,「おでん」,「おしゃれ」など)とがある。外国人だけでなく,日本人の中にも「お」や「ご」を付ければ,どんな言葉でも「美しく丁寧になる」と勘違いしている向きもあるようだ。
しかし,無条件に「お」や「ご」を付ければ良いというものではなく, 「付けるべきもの」と「付けてはならないもの」とを,きちんとわきまえて使うことが大切だ。
しかも,同じ内容の言葉でも「お」と「ご」で,その後に来る言葉が変わるものもかなりある。それを,思い浮かぶままに並べてみよう。
・お知らせ=ご通知・ご連絡 ・お考え=ご意見・ご見解 ・お許し=ご許可
・お答え=ご返事・ご回答 ・お帰り=ご帰宅・ご帰国 ・お招き=ご招待
・お住まい=ご住所・ご自宅 ・お教え,お導き=ご教示,ご指導
・お力添え=ご協力 ・お葬式=ご葬儀 ・お分かり=ご理解・ご納得
以上から,「お」と「ご」の使い分けには, 一定の「原則」らしきものが読み取れる。即ち「訓読み」する言葉(=和語)には「お」を,「音読み」する言葉(=漢語)には「ご」を付けるという原則である。しかし,例外はある。
○「和語」に「ご」が付く例: 「ごゆっくり」「ごもっとも」(名詞は見当たらない)
○「漢語」に「お」が付く例: 「お写真」「お茶」「お行儀」「お掃除」
*「お」と「ご」を付けるケースについて,例を挙げながらまとめてみたい。
①「尊敬」の気持ちを表す場合:
・社長のお話 ・お客様のご到着 ・ご家族のご意見
②相手の「物」や「事柄」を表す場合:
・お客様のお荷物 ・お部屋でお食事をご希望でいらっしゃいますか
③「お」や「ご」を付けるのが一般的な場合:
・おはようございます ・お疲れ様でございます ・おやすみなさい
④「自分のことでも、「相手に関係する」場合:
・お電話させていただきます ・のちほど,ご返事申し上げます
⑤「丁寧語・女性語」として使う場合:
・お野菜 ・お肉 ・お酒 ・お惣菜 ・お粥 ・お漬物 ・おトイレ
・お美しいですね ・お綺麗ですね ・お暑う(お寒う)ございます
⑥「接頭語」の「お」「ご」と,「接尾語」(敬語)とが同時に付く場合:
・ご主人様 ・お母様 ・お子さま ・お嬢さま ・お客さま ・お星さま
⑦「お」と「ご」の「尊敬語」・「謙譲語」の場合:
(尊敬語)・ご利用いただく ・お元気のご様子 ・お電話を頂戴し
(謙譲語)・お構いも出来ませず・そろそろ「おいとま」をさせていただきます
⑧「お」と「ご」どちらも使われる場合:
・「お返事・ご返事」 ・「お誕生・ご誕生」 ・「お勉強・ご勉強」
・「お病気・ご病気」 ・「お手配・ご手配」
今回は「お」と「ご」だけについて考察したが,もう割り当て紙面がいっぱいになってしまった。改めて思う。「日本語って,本当に不思議で難しい言葉ですね!」と。
松井 洋治(東京都府中市)
当「本物語」第58号(2017.08.15)で,「とんでもない」を「とんでもありません」とか「とんでもございません」というのは,「とんでもない間違い」であることに触れた。それに関連して,毎回,拙論をお読みいただいている方から,歌謡曲「影を慕いて」(古賀政男作詞・作曲)の「月にやるせぬ」はおかしいのでは? というご意見が寄せられた。結論から申し上げれば,「やるせぬ」というのは,古賀政男の勘違いで,完全な間違い。「やるせない」は,「やるせがない」とも言うが,漢字表記すれば「遣る瀬」が「無い」,つまり「遣る瀬=気持ちを晴らす方法,手段」が「無い」のであって,「やるせぬ」という言い方は,「仕方ない」を「仕方ぬ」,「勿体無い」を「勿体ぬ」というのと同じで,絶対に「許せぬ」のだ。1932年(昭和7年)の歌であるから,80年以上,誰も気付かなかったのか,疑問に思っても「あの古賀政男が間違えるはずがない」という思い込みから,そのままにされて来たのかもしれない。
ところで,在日期間が二十数年になる外国人女性が「日本語では,敬語が特にむつかしい」と話していたが,彼女が、その時例に出したのは,日本人ですら迷ってしまう「お」と「ご」の使い分けである。漢字で書けばどちらも「御」であるが,この「お」や「ご」は,言語学的には「丁寧語」または「美化語」というらしいが,「お」を付けなくても意味は変わらないもの(例えば,「お正月」,「お米」,「お手紙」,「お金」,「お名前」など)と、「お」を付ける方が一般的なもの(例えば,「おかず」,「おでん」,「おしゃれ」など)とがある。外国人だけでなく,日本人の中にも「お」や「ご」を付ければ,どんな言葉でも「美しく丁寧になる」と勘違いしている向きもあるようだ。
しかし,無条件に「お」や「ご」を付ければ良いというものではなく, 「付けるべきもの」と「付けてはならないもの」とを,きちんとわきまえて使うことが大切だ。
しかも,同じ内容の言葉でも「お」と「ご」で,その後に来る言葉が変わるものもかなりある。それを,思い浮かぶままに並べてみよう。
・お知らせ=ご通知・ご連絡 ・お考え=ご意見・ご見解 ・お許し=ご許可
・お答え=ご返事・ご回答 ・お帰り=ご帰宅・ご帰国 ・お招き=ご招待
・お住まい=ご住所・ご自宅 ・お教え,お導き=ご教示,ご指導
・お力添え=ご協力 ・お葬式=ご葬儀 ・お分かり=ご理解・ご納得
以上から,「お」と「ご」の使い分けには, 一定の「原則」らしきものが読み取れる。即ち「訓読み」する言葉(=和語)には「お」を,「音読み」する言葉(=漢語)には「ご」を付けるという原則である。しかし,例外はある。
○「和語」に「ご」が付く例: 「ごゆっくり」「ごもっとも」(名詞は見当たらない)
○「漢語」に「お」が付く例: 「お写真」「お茶」「お行儀」「お掃除」
*「お」と「ご」を付けるケースについて,例を挙げながらまとめてみたい。
①「尊敬」の気持ちを表す場合:
・社長のお話 ・お客様のご到着 ・ご家族のご意見
②相手の「物」や「事柄」を表す場合:
・お客様のお荷物 ・お部屋でお食事をご希望でいらっしゃいますか
③「お」や「ご」を付けるのが一般的な場合:
・おはようございます ・お疲れ様でございます ・おやすみなさい
④「自分のことでも、「相手に関係する」場合:
・お電話させていただきます ・のちほど,ご返事申し上げます
⑤「丁寧語・女性語」として使う場合:
・お野菜 ・お肉 ・お酒 ・お惣菜 ・お粥 ・お漬物 ・おトイレ
・お美しいですね ・お綺麗ですね ・お暑う(お寒う)ございます
⑥「接頭語」の「お」「ご」と,「接尾語」(敬語)とが同時に付く場合:
・ご主人様 ・お母様 ・お子さま ・お嬢さま ・お客さま ・お星さま
⑦「お」と「ご」の「尊敬語」・「謙譲語」の場合:
(尊敬語)・ご利用いただく ・お元気のご様子 ・お電話を頂戴し
(謙譲語)・お構いも出来ませず・そろそろ「おいとま」をさせていただきます
⑧「お」と「ご」どちらも使われる場合:
・「お返事・ご返事」 ・「お誕生・ご誕生」 ・「お勉強・ご勉強」
・「お病気・ご病気」 ・「お手配・ご手配」
今回は「お」と「ご」だけについて考察したが,もう割り当て紙面がいっぱいになってしまった。改めて思う。「日本語って,本当に不思議で難しい言葉ですね!」と。
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