有限会社 三九出版 - [還暦盛春駆ける夢]  『都内の交通機関での出会いに』


















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――[還暦盛春駆ける夢]――

        『都内の交通機関での出会いに』

          酒井 信明(東京都江戸川区)

 会社勤めを卒業し,ユックリした時間を過ごすつもりでいた。ところが,知人の依頼を受け,某会社の営業社員の育成支援をすることになった。私が育成支援を受け持ったのが都内23区であった。都内を担当する社員とスケジュールを事前に確認し,現場で落ち合う時間を見計らって鉄道を乗り継ぎ移動する。当初は,自宅の最寄りの地下鉄に乗っては車内の地下鉄路線図を見て,又,JRや私鉄の駅では,発券機に表示された路線図を見て予定の待ち合わせ駅に向かった。一定区間を行き交うことと違うため,鉄道を乗り継ぐ駅を見過ごすことが多く苦労した。そんな体験から,都内の鉄道を巧く乗り継ぐ術を習得する必要に駆られた。購入した文庫判「東京・都市図拡大図」が携帯に手ごろなサイズで,移動の電車時間を使ってページを手繰り,乗り継ぎ駅を記憶に留めた。ともあれ,参考本で得る情報のおかげで,都内の鉄道・バスの乗り継ぎに長けるようになった。ただ,参考本を見る度に感じることがある。東京都の人口は折りに触れ見聞きするが,東京都の面積を問われると直ぐには浮かばない。都内23区になるともっと分からない。東京都のホームページで確認すると,東京都の面積は2187平方キロで23区の面積は621平方キロ,人口830万余人が暮す人口密度の高さを誇る地域。その地域に地下鉄が地中の高低差で交差する路線の多いこと。東京メトロは開業順の略語表示○G○M○H○T○C○Y○Z○N○Fの9路線,都営地下鉄4路線を加えて13路線の地下鉄が毎日朝から夜半まで都内の地下を疾走し,通勤・通学に便利な交通機関を形成している。首都圏鉄道路線図の山手線内側の地下鉄路線では,地下断面は一体どんなのかと?また,地下の他の構造物との折合いはどうなのかと?「日本の地下鉄の父」と呼ばれる早川徳次氏にまつわるエピソードに「いつかきっと,東京中がクモの巣のように地下鉄が張り巡らされ日がくるだろう」(注:インターネット早川徳次「東京地下鉄道」)計らずも氏の予言は現実になる。驚きの発見である。
 日々利用するJRや私鉄の主なターミナル駅で眼にする光景を別の視点で見ると,百貨店の営業不振の広がりを耳にするのとは裏腹に,駅構内が巨大なショッピングモールに建て変わり,乗降客を逃がさず展開する店舗に寄り易くするための流れを巧く拵えていることだ。マーケッテングでいう顧客の囲い込み!
 以前は,都内の交通機関には乗ることで用事が済ませる想いが働いて,車窓に見える景色には意外に無頓着だった。今は仕事で都内の交通機関を乗り継ぐ機会が多く,私が乗る乗り物の種類も,路線も増えて車窓の景色の違いに寛ぎを覚える。路線バスでは,車窓からの目線が低いこともあり道路に面して連なる建物や公園等で止まってしまい,道路は覚えるが景色は余り記憶に残らない。一方,鉄道(地下鉄は除いて)では,道路・建物等と分離された鉄道会社所有地域を走るため,注目の景観や記憶に残る景色に出くわす。今話題の景観の一つに「東京スカイツリー」の建設現場がある。
 京成電鉄の西新井駅から曳舟駅で乗り換え押上駅に向かうと,電車の右手車窓に建設途中の「東京スカイツリー」が徐々に高さを蒿上げした威容を現す。東武伊勢崎線,京成押上線,地下鉄半蔵門線,都営地下鉄線の押上駅に囲まれた地域に建設中の「東京スカイツリー」がある。地下鉄半蔵門線押上駅から浅草通りに出ると,浅草橋通りに覆い被さるかのような,見上げる仕草が要る威容だ。現在も稼働中の「東京タワー」の周りは緑の領域や空間域が程よくあるのに比べ,「東京スカイツリー」の建設現場は平坦地で周辺の街並みに近接しているのか,「ツリー」の呼称が本当に合う設計だ。「東京スカイツリー」の完成は2011年12月の予定。完成時,最上部の高さは610m,第2展望台は450m,第1展望台は350m。因みに,横浜ランドマークタワースカイガーデンは273m,東京タワー特別展望台は250m。「建設中の東京スカイツリーの現在(2010年3月初,本稿の執筆時)の頂上部に設置された3台のクレーンが304m下の地上から建設資材を吊り上げている。これから高さを蒿上げしても3台のクレーンは自動的に上昇し,建設資材を吊り上げる」と近くの住民に聞いた。
 また,線路によっては都会で見られなくなった景色を車窓に見せてくれる。京成電鉄の金町駅から立石駅に至る区間,京急電鉄の梅屋敷駅から雑色駅に至る区間,東武亀戸線の曳舟駅から亀戸駅に至る区間では,線路に沿った住宅・街並みに何処かで出会った昭和の佇まいの光景を感じさせてくれる。都会の限られた面積では,地下と共に地上の活用が広がっている。国道等での「開かず踏切」の改善,効率的輸送等から鉄道の高架化工事の展開。地上を離れた駅前広場の広がり,等々。
 普段の生活活動に焦点を当て,視点を掘り下げて振り返ってみると意外に小さな発見があった。こんな見方もこれからの時間で得られる夢の一つかなとも感じた。
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