有限会社 三九出版 - 「日本語」って不思議な言葉ですね!(その2)


















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《自由広場》 

        「日本語」って不思議な言葉ですね!(その2) 

              松井 洋治(東京都府中市) 

 前回の当「本物語」(第58号)に大阪の山口康弘さんが寄せられた,外国からの留学生に教える「日本語教師」のお話を,大変興味深く読ませて戴いたが,今から数年前,私も某女子大学での授業終了後,韓国からの留学生に,「先生,“さんびゃくさんじゅうきゅうどのはい”って,何のことですか?」と訊かれたことがある。どなたか直ぐにお分かりになるだろうか」?
 一瞬「えっ?」と思ったが,幸い直ぐに気がついて,笑いながら,その学生に「日本の結婚式の本でも読んだのかい?」と尋ねると,「はい,ブライダルの雑誌に出ていた言葉ですが,全然分かりませんので」とのこと。もうお分かりであろう。私はボードに「三三九度の盃(杯)」と書きながら「これはね,“さんさんくどのさかずき”と読むんだよ。」と言って,その意味を説明したものだ。
 また,就活(就職活動)の時期が近づくと,毎年,授業とは直接関係ないが,学生たちの眠気覚まし(?)に,「面接など人前で,上がらぬ方法」の話をする。ある時,留学生がいるクラスで「日本語の“上がる”という言葉の意味が分かりますか?」と尋ねると,モンゴルからの留学生が手を挙げながら立ち上がり,足を踏み出して階段を上がる仕種をした。「よく知っているね!」と褒めてから,「実は日本語の“上がる”には,もう一つ別の意味があってね」と言いながら,人前に出ると心臓がドキドキしたり,口の中が乾いてしまったりして,自分の言いたいことが半分も言えなくなる状態も,「上がる」と言うことを伝えながら,ボードに「get nervous,lose myself」など,思いついた英語を書くと,やっとうなずいてくれて,本題の「上がらぬための具体的方法」の説明に入ったこともあるだけに,「日本語教師」のご苦労は十分に理解できるつもりである。
 ところで,数年来,日本人の私自身が気になっている幾つかの言葉遣いがある。具体的には「~の方(ほう)」,「~とか」,「~的には」,「~円から」,「~になります」などで,専門的(言語学的?)には「あいまい表現」とか「言葉の朧化(ろうか)現象」と呼ぶらしい。まず「~の方」だが,旅館に到着した際,出迎えた仲居さんから「お荷物の方(ほう),お持ちします」と言われる。荷物しか持っていないのに「お荷物の方」とは? レストランで「お食事後のお飲み物の方は?」と訊かれる。「お飲み物は?」だけで充分通じるのに,解せない。次は「~とか」である。「休み時間,何をしていたの?」「おしゃべりとかしていました」と答える。「AとかBとか」ではなく,おしゃべりだけをしていたんだろ? 解せない。「~的には」は一時「わたし的には」「ぼく的には」という言い方がはやった。「私(僕)は」だけでは駄目なのか? いまだによく分からない。「~円から」については,今や定着してしまって,文句を言う方が変人扱いされそうだ。コンビニやスーパーで(最近では一流デパートでも)精算時点でお札(さつ)を出すと「五千円から戴きます」「一万円からお預かりします」と言う。これはある大手スーパーが,高額紙幣を受け取った際は,確認の意味で,「○○円からお預かり致します」と言うべしと,接客マニュアルで従業員に徹底させ,これが一般化したらしい。「預かったのは俺からだろう?」と叫びたくなる。「お待たせしました。コーヒーになります」に至っては「一体,何がコーヒーになるの? “コーヒーでございます”が正しい日本語だろ?」と言いたくなる。しかし,ある言語学者の著書に「“言葉の乱れ”という考え方は,言語学にはない。言葉は絶え間なく変化するものだから」と書かれていた。「言葉は絶え間なく変化するもので,乱れている訳ではない!」と言いたいようだ。では,「メリクリ!,アケオメ!!,コトヨロ!」とだけ書かれた賀状が届いても,言語学者は驚かないとでも言うのだろうか? 最近の若者たちはメールでは,「メリークリスマス! 明けましておめでとう! ことしもよろしく!」を,こう表現するらしい。日本語も,もうオシマイだと思ってしまう。生活のために,日本語を真剣に学んでいる外国の方々には,日本語は,ますます不思議な言葉だと思われるに違いない。しかし,上記の言語学者からは,こんな反論が来そうである。「遠く(テレ)まで映像(ビジョン)を送るのだから,正しく書けば“テレ・ビジョン”なのに,それを妙な所で切って“テレビ”と言うじゃないですか!,アラサーとかアラフォーだって,最近はNHKでも使っていますよ」と。〈(注)「アラサー」=(around thirty)「30歳前後」〉 ロシアの大学の「日本語学科」で学んだロシアの青年に,美しく,懐かしい日本語を思い出させてもらったことがある。我が家で一緒に食事をした時,「ほっぺたが落ちそうに美味しいです」と言うではないか。それを聞いて私は,日本の若者たちは,残念ながら「超うめぇ!」としか言えないだろうと思ったものだ。 
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