有限会社 三九出版 - 「日本語」って不思議な言葉ですね!(その1)


















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☆《自由広場》 

        「日本語」って不思議な言葉ですね!(その1) 

             松井 洋治(東京都府中市) 

 先日,友人からのメールに「何とも忙しない毎日の連続で」という一文があった。「忙しない」は、勿論「せわしない」と読むのだが,「忙しい」と書けば「せわしい」とも読むし,「いそがしい」とも読む。本を余り読まなくなってしまった最近の若者たちは「いそがしい」はともかく,「せわしい」という言葉自体を知らずに「いそがしない」と読んでしまう可能性すらありそうだ。
 「せわしい」を知らなければ「せわしない」という言葉も知らず,「せわしない」と言って漢字で書かせれば「世話しない」と書いてしまうかもしれない。
 ところで,普通は「ない」が付けば「否定」の意味を思い浮かべがちだが、この「忙しない」の意味は,言うまでもなく「忙しい,用事が多くて暇がない,気持ちが落ち着かない」などで,「いそがしい」と同じ意味,あるいは「もっと,忙しい」ことを表す言葉であり,日本語を学ぶ外国の人には〝不思議〟に思える表現であるに違いない。
 そこで, 「ない」が付いても「否定の意味としては使われない」言葉を,思いつくままに並べてみると,「あどけない」「いたいけ(いとけ=幼け)ない」,「きわまり(=極まり)ない」,「せつ(=切)ない」,「はした(=端)ない」,「まんべん(=満遍)ない」,「みっともない」,「めっそう(=滅相)もない」,「もったい(=勿体)ない」などがある。
 これらに共通しているのは,「忙しない」で見たとおり,「ない」が,前の言葉「忙し」の意味を打ち消すのではなく「より強調している」点である。言語学者に尋ねれば,恐らく,これら「ない」の大半が,「意味を打ち消す助動詞・形容詞」ではなく,「前の言葉の意味を強める接尾語」だという答えが返って来るのであろう。
 「満遍ない」にしても,「満遍」だけで,「残りなく全体に等しく行き渡ること」(大辞林)であり,「全体・全般・平均・平等」を表す言葉であるが,「墨で満遍なく塗りつぶす」のように「満遍なく」と否定形にした方が,「行き届かないところがないように隅から隅まで」と「満遍」の範囲を,更に広く感じさせる。
ただ,「極まりない」については,「感極まって」などと使われるように,これは「極まり(極限)」を「ない」で否定して出来た言葉だと思われる。しかし「危険極まる話」と言えば「これ以上危険な話はない」の意だが,「危険極まりない話」と言えば,意味は逆転するどころか,「もっと危険度が高い」感じの言葉として使われている。
 「もったいない」の「勿体」は,「勿体ぶる」とか「勿体を付ける」のように,「態度などが重々しい。威厳がある」の意(大辞林)だが,これに否定の「ない」が付いた「勿体無い」は,「(有用な人間や物事が)粗末に扱われて惜しい。有効に生かされず残念だ」(大辞林)の意で使われている。
 ところで,「~ない」の付く言葉の中で,「明らかな誤用」であるにもかかわらず、あたかも「市民権」を得たかのように,抵抗なく使われている言葉がある。テレビドラマや小説などの影響だけとも言えないほど,多用されている。
 それは「とんでもない」という言葉である。これは「とんでも無い」ではなく,先の「忙しない」,「切ない」などと同様「とんでもない」で〝一語〟なのだ。
 意味は「思いもかけない。取り返しのつかない。道理を外れている。法外である」(角川・国語辞典)であるが,どちらかといえば,女性に多い気がするが,何の疑いも無く,「とんでもありません」とか「とんでもございません」と言っている。
 正しくは「とんでもないことです」,「とんでもないことでございます」,「とんでものうございます」である。中学時代に覚えたダジャレで「跳んでも8分,歩いて15分」があるが,これはともかくとして,上記下線部分だけは不動・不変だと,今でも思っているが,言葉の専門家のアナウンサーや言語学者でも,案外気付かずに使っているような気がする。
 ところが,ある友人から「とんでもありません(ございません)」は間違いではないという説があるという情報を得た。早速調べてみると「文部科学省」管轄の「文化庁」の「文化審議会」が「国語世論調査」の結果を得て,平成19年に発表した答申「敬語の指針」には,ある特別な事例を挙げて「こうした状況で使うことは問題がない」と書かれている。正しい日本語を守るべき立場の文化庁までが,「言葉は生き物だから」とばかり,無理に特殊な例を挙げてまで「とんでもございません」を正当化しようとする態度が許せない。
 そんなことだから,「お座敷小唄」の「雪に変わりがないじゃなし。とけて流れりゃみな同じ」という不思議な歌詞の日本語が,未だに修正されないままなのだろう。 
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