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☆《自由広場》 

             バ ス ク 追 想 

             山本 年樹(神奈川県川崎市) 

 スペインの北,フランスの南,ピレネー山脈をはさんでバスク地方と呼ばれるエリアがあります。私はザビエルの故郷である彼の地を4回訪れました。豊かな自然や興味深い歴史,そして地元の人々との交流から,すっかりバスクに魅せられました。旅の見所やトピックスをいくつか皆様にもご案内します。
(1)悲劇の町,ゲルニカ
バスク西端の工業都市ビルバオから車で1時間のところにゲルニカという小さな町があります。ここには毎年各地の代表者が集まり,シンボルとなっている樫の木(現在は4代目)の下で議会が開かれていました。バスクの人々の心のよりどころのような存在でした。ところが,スペイン内戦の時,フランコ将軍の命令により史上初の無差別爆撃が行われ,市民3千人が死傷しました。パリ万博の為に壁画を構想していたピカソは,この暴挙に対して憤怒をこめて一気に描いたのが有名な「ゲルニカ」でした。この絵はフランコ政権の要求を拒否してニューヨークで保管されていましたが,彼の死後にスペイン・マドリッドのソフィア王妃芸術センターで展示されています。しかし,バスクの人々は本来の地ゲルニカで保存すべきと主張しています。もっともな言い分と思いませんか?
(2)闘牛の町,パンプローナ
ヘミングウェイの名作「日はまた昇る」(原題は「祭り」)ではこの町が主題となっています。毎年7月の牛追い祭り(正式にはサン・フェルミン祭)では,闘牛場から放たれた猛牛の前を赤いマフラーの命知らずの若者が駆け抜けます。大勢の観光客がワインを飲みながらこのスペクタクルを見物します。この町はかつてのナバラ王国の首都として栄え,ザビエルの父ハッスはこの国の宰相として王宮に出仕していました。ザビエルは郊外のザビエル城で生まれ,その城は修復され現在も残っています。又,ザビエルの日本滞在が縁となって,山口市との間で姉妹都市となっています。市内には山口公園があり,その経緯を説明する標示板もあり,そばに東屋も建てられています。
(3)美食の町,サン・セバスチャン
フランス国境に近く,ビスケー湾に面した美しい海岸線が印象的です。毎年9月には国際映画祭が開かれます。ここは美食の町として世界中から注目されています。
ミシェランの星付きレストランは勿論のこと,いたるところに小皿料理ピンチョス(タパスとも)を出す店が密集しています。それぞれの店の得意ピンチョスをハシゴで楽しむ人も多いようです。又,美食クラブが各所にあり,料理自慢の男達がお気に入りの食材を持ち寄って調理し,地元のワインと共に楽しむというライフスタイルが何とも粋です。かつては女性厳禁でしたが,最近はOKのところもあるようです。
(4)巡礼の町,サン・ジャン・ピエ・ド・ポール
長い名前ですが,フランス側のピレネー山中にある景観の素晴らしい町です。キリスト教の有名な聖地,イベリア半島西端のサンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼拠点となっています。私がこの地を訪れた時も,日本人を含め大勢の巡礼の旅人が集まっていました。これから2ヵ月かけて,ほたて貝の目印(聖ヤコブのシンボル)と共に歩いていかれるとのことでした。実は,ザビエルの父方はこの町の出身であり,ピレネー越えをしてパンプローナへ移住してきました。ザビエルも血筋の冒険心を受け継いだのかもしれません。
(5)不思議な数式,4+3=1
旅先で見かけたこの数式には驚きました。どうやらバスクのスローガンのようでした。知り合った人から教えてもらったところ,4はスペイン側のバスク県の数,そして3はフランス側だというのです。かつては王国として栄えていたものゝ,16世紀初頭に2大国に併合されてしまいました。しかし,今でもバスクの人々は,自分たちのアイデンティティに強烈な自負心を持っています。この不思議な数式は,たとえ今は他国によって分断されているけれど7つの県は心は一つであり,将来は一つになりたいというバスク民族の意思表示だったのです。彼らはこのように言っています。「私たちは10万年も前からこの地に住んできた。フランス人やスペイン人は新参者である。これから千年もたてばフランスもスペインも消滅するだろう。しかし,私たちはこの地に住み続け,父祖の地を守っているだろう。」
バスクの町々を訪れると,道路標識は2段書きとなっています。例えばパンプローヤの上段にはイルニャン,サン・セバスチャンの上にはドノスティアといった具合です。人々がバスク語を大事にしているのが分ります。私も難解なバスク語に挑戦しています。いつか,彼の地でのロングステイを夢見ています。 
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