有限会社 三九出版 - 「 色 」の お 話


















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《自由広場》 

            「 色 」の お 話

             松井 洋治(東京都府中市) 

 毎週火曜日にお会いする講師仲間で「美術」ご担当の先生(元・小学校長)と,大学の食堂で昼食を共にすることが多いが,過日,食事をしながら「人物画」の話になり,私が「小学生の時,友達の顔を写生するのに,わざと肌色のクレパスを使わずに,まず薄く黄色を塗って,その上に茶色や赤や橙(だいだい)色などを重ねて描いたのですが…」と話し始めたところ,「あ,今はね,肌色という色はないんです。ないというより,使ってはいけないんです。差別用語ですから…」と言われ,びっくり。
しかし,考えてみれば確かに,例えば「楽天」で入団早々大活躍をした「オコエ君」のように,肌の色が違う人も大勢いる訳だから,これは素直に納得出来た。
 ところが, 更にその先生曰く「今は“みどり”という名の絵の具もありませんよ」と。「エッ! まさか,そんな!?」と驚くと,「いえ,本当なんです。来週,証拠をお持ちします」とのこと。
その日,帰宅後すぐに,手元の「新色名帖」(日本色彩社)をめくったが,「はだいろ」という色は確かに見つからず,最も近い色は「Pale Orangeうすだいだい」となっている。ただ「Green緑」という色はちゃんと出ているため,翌週、その「新色名帖」(昭和39年発行)を持参したところ,さっと「発行年」をご覧になり,「ああ,この当時には,まだあったんです。“みどり”という名の絵の具がなくなったのは,まだここ数年のことですから」と言いながら「絵の具」を2本お出しになって「これを見てください」と手渡された。
見ると,1本は「VIRIDIANビリジアン」,もう1本には「EMERALD GREENエメラルドグリーン」と書かれて(印刷されて)おり,どこにも「緑,みどり」とは書かれていないではないか。昭和39年(1964年)の「新色名帖」は,53年後,「旧色名帖」になってしまっていたという訳だ。後日,この話を友人に伝えたところ,わざわざ,お孫さんの絵の具をチェックし,その結果を報告してくれた。それによると,小学3年のお孫さんの方は,「“きみどり”はあるが“みどり”はなく,従来の“みどり”の絵の具には,他の色名が全部〈ひら仮名〉で書かれているのに,“ビリジアン”と〈カタカナ〉で表示されている。また,“きいろ”は,“きいろ”と“レモンいろ”と2色ある」とのこと。更に,中学2年生のお孫さんの絵の具については,「もっと難しく専門的で,“みどり”は,“ビリジャン”と書かれ,“イエロー”がつくものが,“イエローオーカー,イエローライト,イエローオレンジ”と3色もあり,“あか”は,“カーマイン,ライトレッド”に分かれている」らしい。
ただ,「幼稚園児向けで,およそ3年前のサクラクーピーペンシルには“みどり”の表示があり,なぜかホッとした。また,肌色は“うすだいだい”と,ちゃんとなっている。」とのご連絡を頂戴した。お蔭で色々と「色」の勉強が出来たと感謝している。
ところで, 「色のお話」とはいえ, 全然, 色っぽくなくて恐縮だが,私の大好きな「寄席」に行けば,色々な「色物」(いろもの,いろもん)に出会えることがある。
「色物」とは, 一般的には,「漫才,コント,漫談,マジック,曲芸、紙切り」など,「寄席芸の主軸である落語・講談以外の“いろどり”となる芸のこと」と言われているようだが,本来の意味(語源)は「出演芸人の番組表に,墨(黒字)ではなく朱墨(赤字=色のついた字)で名前が書かれている芸のこと」で,それらを演じる芸人を「色物さん」と呼んだそうである。
そう言えば, 「色物」の芸の一つに「声色(こわいろ)を真似る」という,今で言えば「モノマネ」的な芸がある。「声帯模写」などと呼ばれた時期もあったが,「歌舞伎役者の声」を真似る片岡鶴八(片岡鶴太郎の師匠)や「都々逸漫談」の柳家三亀松などは,それだけを見に(聞きに?)来るファンもいたらしい。「声のスタイルブック」というキャッチフレーズで,坂東妻三郎,勝新太郎,渥美清などの映画俳優から,三木武夫,田中角栄をはじめとする政治家,更には落語の三遊亭圓生や浪曲の広沢虎造まで,幅広く真似をした桜井長一郎は,まさに「声色」で一世を風靡したものだ。
また,ウグイスや虫の声の「動物ものまね」を得意とした江戸家猫八(三代目,そして子猫から猫八を継いで,これからという昨年3月に亡くなってしまった四代目)も忘れることができない。
「大道芸」に入るのかもしれないが,「ガマの油売り」,「バナナの叩き売り」,「サーカスの呼び込み」などの「声色」も,最近はほとんど聞かれなくなってしまった。
こうして見てくると,「絵の具」だけでなく,声にも「声色」という言葉のとおり「色」(声の調子や響き)があることを,改めて感じている。 
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