☆【隠居の世迷言】
秋 日 雑 感
小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)
善公 ご隠居,何をご覧になっているんです?
隠居 朝日新聞の訂正記事です。ここにあるのは5月12日から9月15日までのもの。折にふれて切り抜いたものですが,なんと23回(28項目)あります。
善公 塵も積もれば山となる ― あまり褒められたことではありませんね。
隠居 新聞社も気になっていたようで, 8月5日「あすへの新聞審議会」(註1)という座談会の記事のなかで「訂正・おわび」を出す意味や意義を説明しています。
善公 たしか「訂正が頻繁に載るようになった。……記者教育やチェック体制の見直しはやっているのか」という〈読者の声〉も紹介されていましたね。
隠居 内容は単純ミス(月日や氏名の誤記)と検証ミス(内容の把握不十分)です。「訂正・おわび」を出すことになった意図を,新聞社側は「私たちは2014年秋の一連の問題(註2)を反省し、公正で正確な報道のために記事の間違いはすぐにただす」と説明しています。これは検証ミスが社会に与える影響の大きさに対する認識を示したものでしょう。
善公 たしかに新聞やテレビの報道はあっしらに大きな影響を与えます。
隠居 あたしの集めた訂正記事の中に,《5月30日付社会面「西原村、集団移転提案へ」の記事で、熊本県西原村が「被害の大きい7地区に集団移転を提案する方針を固めた」とあるのは、「被害の大きい地区を対象に集団移転の検討を固めた」の誤りでした。見出しの「集団移転提案へ」も、「集団移転を検討」の誤りでした。集団移転は住民の要望を受けて検討を始めたもので、村から提案するものではありませんでした》というのがありますが,これは検証ミスの一例です。とくに「集団移転は住民の要望を受けて検討を始めたもので、村から提案するものではありません」の部分 ― 移転についての提案主体がちがっていた点が気になります。先の座談会のなかで「記事の間違いはすぐにただす」といっていますが,記事の間違いを「ただす」ことも大切ですが,まず報道内容が正確かどうかの検証(俗にウラをとる)を疎かにしてはならないとおもいます。
善公 でも「訂正・おわび」を出すのも勇気が要りますぜ。
隠居 その勇気は評価します。でも手元にある訂正記事をみると,6・7月は ― これが全部だとして ― それぞれ7回(うち6月は7項目,7月は11項目)もあります。「訂正・おわび」は誠実の証しではありますが,それはあくまでも〈事後処理〉であって,ひとたび報道されると,ときにそれは間違いのまま人びとの脳裏に焼きつけられてしまうことがあります。
ところで検証といえば,豊洲市場の基礎工事部分に問題が発生しましたね。
善公 小池都知事の最初の大きな課題になりそうです。
隠居 築地市場の豊洲移転は最初から土壌汚染(発癌性物質のベンゼンを検出)が問題になっていました。都の委嘱を受けた専門家会議は,用地全体を地下2メートルまできれいな土壌に入れ替え,その上に2.5メートルの盛り土をするように提言していました。にもかかわらず,都はそれをコンクリートの空間に替え,「土壌は全て入れ替え、盛り土をした」といいつづけてきたそうです。一種の「情報隠し」と批判されてもしかたがありません。
善公 青果棟,水産卸売場棟,水産仲卸売場棟などの下の一部に,高さ4.5メートルの空間があることがテレビで放映されていました。そこには20センチほど水が溜まっている様子が映し出されていました。どこからきたものなのか,汚染されているのかどうか,今後の検査をまたなければならないそうです。豊洲移転派のひとも反対派のひとも怒り心頭といった感じでしたよ。
隠居 その怒りはもっともですが,現実問題として考えなければならないことがふたつあります。一つは,まず豊洲市場の土壌汚染の有無についての新規検証。もう一つは,もともと専門家会議が建設用地全体で行うよう提言した「盛り土」を,「いつ」「だれが」「どこで」変更したかの検証です。都側は議会で「土壌は全て入れ替え、盛り土をした」と答弁 ― つまり専門家会議の提言を無視しているうえに,誤った説明をしています。こうした大事業については工事契約書があるはずですから,それらを含めて徹底的な調査を行ってほしいものです。豊洲市場問題の〈根〉を瞭らかにすることは,小池都政の行方を占うことでもとても重要です。しかし「訂正・おわび」の問題も豊洲市場の問題も,結局は「検証」の不足という点で共通していることは,何か考えさせられます。
善公 ところでご隠居。茶箪笥のなかを検証させてもらえませんかね。
※資料:『朝日新聞』《2016.6.2/2016.8.5/2016.9.14/2016.9.15〔社説〕)
註1:「あすへの報道審議会」のメンバーは,読者代表のパブリックコメンテーター3名,ゲストコメンテーター1名,朝日新聞編集部門の幹部3名
註2:「慰安婦報道」を指すものとおもわれる。2014.12.23に「本社慰安婦報道 第三者委員会報告書(要約版)」の掲載あり。
秋 日 雑 感
小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)
善公 ご隠居,何をご覧になっているんです?
隠居 朝日新聞の訂正記事です。ここにあるのは5月12日から9月15日までのもの。折にふれて切り抜いたものですが,なんと23回(28項目)あります。
善公 塵も積もれば山となる ― あまり褒められたことではありませんね。
隠居 新聞社も気になっていたようで, 8月5日「あすへの新聞審議会」(註1)という座談会の記事のなかで「訂正・おわび」を出す意味や意義を説明しています。
善公 たしか「訂正が頻繁に載るようになった。……記者教育やチェック体制の見直しはやっているのか」という〈読者の声〉も紹介されていましたね。
隠居 内容は単純ミス(月日や氏名の誤記)と検証ミス(内容の把握不十分)です。「訂正・おわび」を出すことになった意図を,新聞社側は「私たちは2014年秋の一連の問題(註2)を反省し、公正で正確な報道のために記事の間違いはすぐにただす」と説明しています。これは検証ミスが社会に与える影響の大きさに対する認識を示したものでしょう。
善公 たしかに新聞やテレビの報道はあっしらに大きな影響を与えます。
隠居 あたしの集めた訂正記事の中に,《5月30日付社会面「西原村、集団移転提案へ」の記事で、熊本県西原村が「被害の大きい7地区に集団移転を提案する方針を固めた」とあるのは、「被害の大きい地区を対象に集団移転の検討を固めた」の誤りでした。見出しの「集団移転提案へ」も、「集団移転を検討」の誤りでした。集団移転は住民の要望を受けて検討を始めたもので、村から提案するものではありませんでした》というのがありますが,これは検証ミスの一例です。とくに「集団移転は住民の要望を受けて検討を始めたもので、村から提案するものではありません」の部分 ― 移転についての提案主体がちがっていた点が気になります。先の座談会のなかで「記事の間違いはすぐにただす」といっていますが,記事の間違いを「ただす」ことも大切ですが,まず報道内容が正確かどうかの検証(俗にウラをとる)を疎かにしてはならないとおもいます。
善公 でも「訂正・おわび」を出すのも勇気が要りますぜ。
隠居 その勇気は評価します。でも手元にある訂正記事をみると,6・7月は ― これが全部だとして ― それぞれ7回(うち6月は7項目,7月は11項目)もあります。「訂正・おわび」は誠実の証しではありますが,それはあくまでも〈事後処理〉であって,ひとたび報道されると,ときにそれは間違いのまま人びとの脳裏に焼きつけられてしまうことがあります。
ところで検証といえば,豊洲市場の基礎工事部分に問題が発生しましたね。
善公 小池都知事の最初の大きな課題になりそうです。
隠居 築地市場の豊洲移転は最初から土壌汚染(発癌性物質のベンゼンを検出)が問題になっていました。都の委嘱を受けた専門家会議は,用地全体を地下2メートルまできれいな土壌に入れ替え,その上に2.5メートルの盛り土をするように提言していました。にもかかわらず,都はそれをコンクリートの空間に替え,「土壌は全て入れ替え、盛り土をした」といいつづけてきたそうです。一種の「情報隠し」と批判されてもしかたがありません。
善公 青果棟,水産卸売場棟,水産仲卸売場棟などの下の一部に,高さ4.5メートルの空間があることがテレビで放映されていました。そこには20センチほど水が溜まっている様子が映し出されていました。どこからきたものなのか,汚染されているのかどうか,今後の検査をまたなければならないそうです。豊洲移転派のひとも反対派のひとも怒り心頭といった感じでしたよ。
隠居 その怒りはもっともですが,現実問題として考えなければならないことがふたつあります。一つは,まず豊洲市場の土壌汚染の有無についての新規検証。もう一つは,もともと専門家会議が建設用地全体で行うよう提言した「盛り土」を,「いつ」「だれが」「どこで」変更したかの検証です。都側は議会で「土壌は全て入れ替え、盛り土をした」と答弁 ― つまり専門家会議の提言を無視しているうえに,誤った説明をしています。こうした大事業については工事契約書があるはずですから,それらを含めて徹底的な調査を行ってほしいものです。豊洲市場問題の〈根〉を瞭らかにすることは,小池都政の行方を占うことでもとても重要です。しかし「訂正・おわび」の問題も豊洲市場の問題も,結局は「検証」の不足という点で共通していることは,何か考えさせられます。
善公 ところでご隠居。茶箪笥のなかを検証させてもらえませんかね。
※資料:『朝日新聞』《2016.6.2/2016.8.5/2016.9.14/2016.9.15〔社説〕)
註1:「あすへの報道審議会」のメンバーは,読者代表のパブリックコメンテーター3名,ゲストコメンテーター1名,朝日新聞編集部門の幹部3名
註2:「慰安婦報道」を指すものとおもわれる。2014.12.23に「本社慰安婦報道 第三者委員会報告書(要約版)」の掲載あり。
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