☆《自由広場》
「日本語」って不思議な言葉ですね!(その4)
松井 洋治(東京都府中市)
前回(第60号)の「お」と「ご」の使い分けについての拙文をお読みくださった方から,“中学時代の国語の時間に「おみおつけ」は本来「つけ」に「御」が三回ついたものだと習って,大いに感心したことを思い出しました。”というメールを頂戴した。
つまり「御御御付け」となり,私も同じように覚えていたが,調べてみると「御付け(おつけ)」の「つけ」は動詞「付ける」の連用形で「本膳で飯に並べて付ける」意から生まれた女性語で「吸い物の汁、おつゆ」のこと。また,「おみ」は「味噌」を丁寧に言う女性語から…という説もあるらしく「御味御付け」の可能性もあるようだ。
今日は五月中旬,「目には青葉山ほととぎすはつ松魚(かつお)」(素堂)の季節である。そこで今回は「ほととぎす」からの連想で,日本語の「聞きなし」(聞き做し)について触れてみたい。「聞き做し」とは,「動物の鳴き声(鳥のさえずりなど)を,人間の言葉や,時には,意味ある言語の言葉やフレーズに当てはめて,覚えやすくしたもの」(動詞は「聞き做す」)とでも定義しておこう。下手な説明より,わが国で言い習わされてきた下記の「聞き做し」の例をご覧いただければ,すぐにお分かり戴けるはず。
ホトトギス ・・・・・・・・・ 「てっぺんかけたか」
ウグイス ・・・・・・・・・ 「ほう,ほけきょう(法、法華経)」
ホオジロ ・・・・・・・・・ 「一筆啓上」
コジュケイ ・・・・・・・・・ 「ちょっと来い,ちょっと来い」
コノハズク ・・・・・・・・・ 「ぶっぽうそう(仏法僧)」
在日のイギリスの方に教えて戴いた「イギリスでのコジュケイの聞き做し」は,“People pray People pray”(みんな祈る みんな祈る)だそうである。
「鳥の鳴き声」のついでに,これまで私が,各種の資料から集めた「動物の鳴き声」の「国際比較」をご紹介しよう。
<犬> 日本:ワンワン(WAN) アメリカ:バウワウ(BOWWAW)
韓国:モンモン(MONG) イギリス:ウーッウーッ(WOOF)
中国:ウォンウォン(WONG) オランダ:ブラフブラフ(BLAF)
フランス:ウワウワ(OUAH) イタリア:バウバウ(BAU)
ロシア:ガフガフ(GAV) インドネシア:グッグッ(GUK)
<猫> 日本:ニャーニャー アメリカ:ミューミュー
韓国:ヤオンヤオン イギリス:ミャウミャウ
中国:ミャーオミャーオ ロシア:ミャウミャウ
イタリア:ミアオミアオ フランス:ミャオミャオ
<鶏> 日本:コケコッコー アメリカ:コッカドゥードゥルドゥー
韓国:コッキオー 北朝鮮:コッキョクゥクゥコーコ
中国:コーコーケー ロシア:クカレクー
「鶏」については,日本国内でも,「カッケロコー」(青森),「コケノコー」(山形),「ケッケロー」(岩手),「ケケコー」(三重),「コカコ」(大阪),「ケケコーロ」(愛媛),「コッケラ」(山口)など,実に多種多様であり,外国での「動物の鳴き声」も,その国の地方・地域によって,ここに紹介した数倍の珍しいものがあるに違いない。
日本語の「聞き做し」から少々脱線してしまったが,有名な宗教学者の山折哲雄氏は,その著『こころの作法』(中公新書)の中で,知人の作らしいが「鐘の音」の「聞き做し」的な,次のようなジョークを紹介している。“教会の鐘は「カーン、カーン(come=来る)」と鳴り、お寺の鐘は「ゴーン、ゴーン(gone=去りぬ)」と鳴る”とした上で,同氏らしく“日本人の無常観は鐘の響き「ゴーン」と深い関係がありはしないか”とまで書いている。
最後に,「聞き做し」で忘れてならないのは,六代目・三遊亭圓生が得意とした落語「紀州」(別名「槌の音」)である。
徳川八代将軍を決める朝,尾州公には鍛冶屋の打つ槌(つち)の音が「天下取る、天下取る」と聞こえた。しかし,うっかり辞退を口にしたため,将軍職を紀州公(吉宗)に取られてしまった。がっかりして下城して来たが,槌の音はやはり「天下取る」としか聞こえない。「そうか、紀州は城では将軍を受けあったが、きっと尾州公よろしく頼むと、使者を通じて頼みに来るであろう」と思わず顔に笑みを浮かべて,鍛冶屋の店をひょいとのぞくと,親方が,丁度,真っ赤に焼けた鉄を水にずぶりと突っ込んだ。「きしゅうーっ」。何度聞いても,本当に良くできた噺である。
この落語ひとつをとってみても,日本語って,不思議なほど面白い言葉である。
「日本語」って不思議な言葉ですね!(その4)
松井 洋治(東京都府中市)
前回(第60号)の「お」と「ご」の使い分けについての拙文をお読みくださった方から,“中学時代の国語の時間に「おみおつけ」は本来「つけ」に「御」が三回ついたものだと習って,大いに感心したことを思い出しました。”というメールを頂戴した。
つまり「御御御付け」となり,私も同じように覚えていたが,調べてみると「御付け(おつけ)」の「つけ」は動詞「付ける」の連用形で「本膳で飯に並べて付ける」意から生まれた女性語で「吸い物の汁、おつゆ」のこと。また,「おみ」は「味噌」を丁寧に言う女性語から…という説もあるらしく「御味御付け」の可能性もあるようだ。
今日は五月中旬,「目には青葉山ほととぎすはつ松魚(かつお)」(素堂)の季節である。そこで今回は「ほととぎす」からの連想で,日本語の「聞きなし」(聞き做し)について触れてみたい。「聞き做し」とは,「動物の鳴き声(鳥のさえずりなど)を,人間の言葉や,時には,意味ある言語の言葉やフレーズに当てはめて,覚えやすくしたもの」(動詞は「聞き做す」)とでも定義しておこう。下手な説明より,わが国で言い習わされてきた下記の「聞き做し」の例をご覧いただければ,すぐにお分かり戴けるはず。
ホトトギス ・・・・・・・・・ 「てっぺんかけたか」
ウグイス ・・・・・・・・・ 「ほう,ほけきょう(法、法華経)」
ホオジロ ・・・・・・・・・ 「一筆啓上」
コジュケイ ・・・・・・・・・ 「ちょっと来い,ちょっと来い」
コノハズク ・・・・・・・・・ 「ぶっぽうそう(仏法僧)」
在日のイギリスの方に教えて戴いた「イギリスでのコジュケイの聞き做し」は,“People pray People pray”(みんな祈る みんな祈る)だそうである。
「鳥の鳴き声」のついでに,これまで私が,各種の資料から集めた「動物の鳴き声」の「国際比較」をご紹介しよう。
<犬> 日本:ワンワン(WAN) アメリカ:バウワウ(BOWWAW)
韓国:モンモン(MONG) イギリス:ウーッウーッ(WOOF)
中国:ウォンウォン(WONG) オランダ:ブラフブラフ(BLAF)
フランス:ウワウワ(OUAH) イタリア:バウバウ(BAU)
ロシア:ガフガフ(GAV) インドネシア:グッグッ(GUK)
<猫> 日本:ニャーニャー アメリカ:ミューミュー
韓国:ヤオンヤオン イギリス:ミャウミャウ
中国:ミャーオミャーオ ロシア:ミャウミャウ
イタリア:ミアオミアオ フランス:ミャオミャオ
<鶏> 日本:コケコッコー アメリカ:コッカドゥードゥルドゥー
韓国:コッキオー 北朝鮮:コッキョクゥクゥコーコ
中国:コーコーケー ロシア:クカレクー
「鶏」については,日本国内でも,「カッケロコー」(青森),「コケノコー」(山形),「ケッケロー」(岩手),「ケケコー」(三重),「コカコ」(大阪),「ケケコーロ」(愛媛),「コッケラ」(山口)など,実に多種多様であり,外国での「動物の鳴き声」も,その国の地方・地域によって,ここに紹介した数倍の珍しいものがあるに違いない。
日本語の「聞き做し」から少々脱線してしまったが,有名な宗教学者の山折哲雄氏は,その著『こころの作法』(中公新書)の中で,知人の作らしいが「鐘の音」の「聞き做し」的な,次のようなジョークを紹介している。“教会の鐘は「カーン、カーン(come=来る)」と鳴り、お寺の鐘は「ゴーン、ゴーン(gone=去りぬ)」と鳴る”とした上で,同氏らしく“日本人の無常観は鐘の響き「ゴーン」と深い関係がありはしないか”とまで書いている。
最後に,「聞き做し」で忘れてならないのは,六代目・三遊亭圓生が得意とした落語「紀州」(別名「槌の音」)である。
徳川八代将軍を決める朝,尾州公には鍛冶屋の打つ槌(つち)の音が「天下取る、天下取る」と聞こえた。しかし,うっかり辞退を口にしたため,将軍職を紀州公(吉宗)に取られてしまった。がっかりして下城して来たが,槌の音はやはり「天下取る」としか聞こえない。「そうか、紀州は城では将軍を受けあったが、きっと尾州公よろしく頼むと、使者を通じて頼みに来るであろう」と思わず顔に笑みを浮かべて,鍛冶屋の店をひょいとのぞくと,親方が,丁度,真っ赤に焼けた鉄を水にずぶりと突っ込んだ。「きしゅうーっ」。何度聞いても,本当に良くできた噺である。
この落語ひとつをとってみても,日本語って,不思議なほど面白い言葉である。
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