有限会社 三九出版 - 〈花物語〉い ち ご


















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            〈花物語〉い ち ご

          小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)

「莓」と「苺」 ― ともにイチゴ。莓は「木莓」,苺は「草苺」にあてる。どちらも山野に自生するが,木莓は「茎は叢生し、高さは1~2メートル。茎・葉にとげがあり、葉はモミジに似る。白色の花が咲く。果実は集合果で、黄色あるいは紅色」である。一方,草苺は「茎は蔓状で地を這い、軟毛ととげをもつ。葉は楕円形で、白色の花をつける。果実は赤色」である。どちらもバラ科植物で,果実は食べられる。
むかし,近江の国日野の里に,美しい双子の姉妹がいた。この姉妹,その性格はすべてにおいて陰と陽 ― 趣味嗜好,一喜一憂の対象ことごとに異なった。年ごろになって,姉は湖北の漁師の家に,妹は湖東の近江八幡の商家に嫁いだ。姉は,嫁いですぐに夫を時化でなくしたが,そのまま年老いた舅姑に仕えた。舅姑は,そんな嫁をお仏(ぶつ)さんとよんで,終生こころの中で両手合わせていた。舅姑の死後,姉は墓守りをして,一生を終えた。
一方,妹は,商売上手な夫に恵まれて,商家の嫁として一生を終えた。終生,夫に内緒の役者狂いはやまなかったが,夫との閨(ねや)のつとめも疎かにせず,子どもたちにも年不相応の華やかさを見せた。家をみごとに治めた “おおごっしょ(大御所)さん”は,ある朝,「みんな、おおきに。今日もお気張りや」のひと言をのこして,ストンと死んだ。莓と苺は同義にして異字。双子の姉妹の〈陰〉と〈陽〉の一生 ― はたしてどちらが倖せだったか。それはだれにもわからない。
※資料:「広辞苑 第六版」(岩波書店)/「日本国語大辞典 
第一版」(小学館) 
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