有限会社 三九出版 - 「フォーユー」ではなく「ウィズユー」


















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☆〔新作●現代ことわざ〕

            「フォーユー」ではなく「ウィズユー」

              松井 洋治(東京都府中市)

今から数年前の夏,NHKラジオの「夏休み子ども科学電話相談」という番組を聴いていた時のことである。主に小中学生からの「科学に関する疑問」に対し,スタジオにスタンバイした分野別の科学者たちが答えるという長寿番組で,今でも楽しみにしながら聴いているが,小学5年生くらいの男の子が「宇宙って何ですか?」と訊いたのに対し,ある男性の宇宙学者が「それはねえ、いま君が立っている周り全部のことだよ」と答えると,その子は「そんなことは知っています。宇宙って言葉はどうして出来たんですか? 宇宙って、結局、何ですか?」と重ねて尋ねると「私は言語学者じゃないから、そんなことは分からないよ」との答え。私も一瞬唖然としたが,同席していた別の女性の科学者が「宇宙の“宇”は、前後左右上下、つまり空間のこと、“宙”は過去と現在、つまり時間を表す文字だそうですから、宇宙とは、君の周り全部と、過去と現在とが同居している世界なのね。もっと分かりやすく言えば、アンドロメダ星雲というのがあるんだけれど、地球からの距離が約190万光年、つまり光の速さで計算しても190万年前に出た光が、やっと今、地球で見えている訳で、ひょっとしたら、もうアンドロメダ星雲は消滅してしまっているかもしれない。つまり過去と現在が同居してるのね。 これで分かって貰えたかしら?」と訊くと, その生徒は「すっごく良く分かりました。有難うございました!」と喜んでいた。聴いていた私もすっかり感動すると同時に「相手に分かる言葉で,相手を納得させられて初めて教壇に立てるのだ」と痛感させられた。全く未知の「教育」の世界に18年前から携わり,74歳の現在も某女子大学で,週に2科目,計180分だけの授業を担当させていただいている私にとって,その放送を聴いてからというもの,授業に臨む姿勢がかなり変わったと思っている。講義や講演だけでなく,日常会話でも,やたら横文字言葉や専門用語を入れる人がいるが,それは同レベル・同分野の人との間でのみ許されることであり,あの女性科学者のように,小学5年生になりきって,その生徒を納得,感動させられるのが本当の「教育」であり,「教え育てる,教え育む」のではなく「共に育つ,共に学ぶ」,つまり「for you」ではなく「with you」こそ,「教える立場に立つ人」の,部下や,学生,生徒に接するときの姿勢であるべきだと思っている。
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