有限会社 三九出版 - 散策雑感―川・海


















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《自由広場》 
                散策雑感―川・海

                    新川 宣明(東京都江戸川区)

 ウォーキングに励む日々。平坦なルートを選び,いい汗をかける距離,7~8㎞ほど(8000歩~9000歩)を日課にしている。コースは荒川の土手にあり,健康の道という看板もあって週末,早朝や夕方頃には多くの人々がウォーキング等に励んでいる。コースを進むと東京湾の景観が眼に入ってくる。お台場地区あるいは都心中央地区のビル群,新しい景観のゲートブリッジやスカイツリー,富士山の威容等が現れてくる。
 2020年の東京オリンピックでは東京ベイエリアを中心に選手村や諸々の競技施設が建設されるとのこと。このコースの先にはカヌー競技場が予定と報道で聞く。暫くすると工事の騒音も忙しくなり,落ち着いた遠景を眺める時間も少なくなってくるだろう。
 水質改善も進み東京湾内に「海」が再び戻ってきたという朗報、「都心に半世紀ぶりに海水浴場」の記事が載っていた。「海」に関わる競技がお台場周辺で予定されることは,「江戸前の海」が世界の脚光を浴びる舞台になり楽しみが増えた。昨今寿司をはじめとして「日本料理」が世界遺産に登録され,「江戸前」という言葉が快く響いてくるように感じる。“「江戸」は「入り江の入り口(門戸)」という意味に由来しているそうだ。隅田川の河口の西部に位置し,現在の日比谷の辺りまで入り江になっていた”という(注1)。また,“江戸城下から櫓で漕ぎ出した船で漁をして陽の明るいうちに戻ってこられる海…それが本来の「江戸前の海」であろう。おおむねの範囲は多摩川の河口から江戸川の河口を結んだ海域である”(注2)。高度経済成長の下に東京湾岸工業地帯の拡張に伴う湾内の埋め立てにより,中世の江戸の地図等に見られる「江戸前の海」は現在の湾内地図とは相当の変容になっている。
 ウォーキングの折に立ち寄る図書館で知る地域の史実を少し進めてみる。東京湾に流入する主な河川は江戸川,中川,荒川,隅田川そして多摩川とある。荒川は“かつては「荒れ川」とも呼ばれ,夏から秋に度々大洪水を引き起こしていた。1911年,荒川の岩淵(現在・北区)から東京湾に向けて川幅500m,全長22㎞の放水路の開削を政府は決定した。1924年(大正13年)放水路に水が通され,1930年(昭和5年)工事はすべて完了した。1965年(昭和40年),荒川放水路は「荒川」と呼ばれ岩淵水門より下流の荒川は「隅田川」と呼ばれることになる”(注3)。
 都市の広がりと河川の繋がりは深く結び付き,発展してきている歴史を書物から聞かされる。東京湾に流入する河川は時代の要請に伴い,塩の道,舟運,生活船等に変遷してきたと記されている。ウォーキングコースの先には「塩の道」の史実を伝える,時代小説等にも登場する「小名木川」散策路がある。“江戸に入った家康は~行徳の塩を江戸へ運ぶために小名木川(江東区)や新川(江戸川区)を造り,江戸の地位を確かなものにしていった。~当時の行徳は関東最大の製塩地として知られ,西の瀬戸内海の塩に対して,東の塩と呼ばれていた。家康は,この戦略物資である塩を,天候に左右されにくい内陸水路を経由して江戸城へ運ぶ安全なルートを造ったのである”(注4)。小名木川散策路には旧中川と交差する川岸に,江戸幕府が設けた船番所跡に今日的な建物がある。近くに「中川船番所資料館」もある。
 図書館で気になる書物に出会った。「トイレの話をしよう」,ローズ・ジョージ著の訳本で今日的には「上水」「中水」「下水」,所謂「水回り」についてです。この書物の表題に惹かれた。“世界の26億人がトイレをもっていない”(注5)。この書物に触れるまでは余り関心がなく生活上当然のように思えることが,一歩国外に出ると地域により状況が一変することを知らされた。日本のトイレ革命に触れながら各国・地域についていろいろな視点からの調査・分析等実情を捉えた内容に興味を覚えた。内容は話題になりにくいが,この書物に会い都市生活の脆さを教えられた気がする。4年前の3月に起きた東日本大震災で知人の自宅周辺が液状化に晒され,その後の生活が一変したこと等を想い起こした。地震の脅威は東日本大震災で十分教えられた。地震後に生じた地下部分の「下水管・道」の破損は復旧まで,日々の生活対応が大変であったと聞く。地方自治体に関わり依存する分野であり,被害に遭遇した地域住民は当局からの対応を待つことになると聞く。震災後等では「上水」は比較的早い時間に公的機関等が対応するが,「下水管・道」の破損は都市生活では考えさせられる。
 数多くの生活をのせた河川がユックリと滑り込む先,そんな「東京湾」が日々の変化を見せながらウォーキングの前に現れてくるのを楽しんでいる。
※(注1・2):「大都市TOKYOはいかにしてつくられたか」(津川康彦著・実業之日本社刊)
 (注3・4):「“川”が語る東京・東京の川研究会」(代表 松井吉昭著・出川出版社刊)
( 注5):「トイレの話をしよう」(ローズ・ジョージ著・日本放送出版協会刊)



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