《自由広場》
大阪都構想と住民投票に思う
阪本 衛(大阪府大阪市)
本年5月17日,史上初の大阪市民による住民投票が行われた。予てより「決められる民主主義」を標榜していた橋下徹大阪市長の念願が実現したものであった。しかし彼が提起した「大阪都構想」は賛成694844票,反対705585票,10741票の差で実現せず,橋下氏はいわば敗者となった。そして彼は「反対派を潰すとまで言ったが,こちらが叩き潰された」という言葉を残し,政界引退の意向を表明した。
橋下氏は,2008年1月の大阪府知事選挙で政界にデビューして以来,日本で最も注目される地方自治体の首長の一つである府知事に就任するや,大阪府を倒産企業に例え,財政再建を目指した。自ら知事報酬をカットし拍手喝采を浴びた。またわずか数年で到底不可能と思われた大阪市営地下鉄の黒字化に成功。様々な補助金もカットし,さらに大阪市職員の給与も10%以上削減した。労働組合の大きな抵抗を受けながらもこの仕事をやり抜いたのである。バブル期に大阪市が1200億円かけて人工島に高層ビルを建設し,経営・運営に失敗したWTC(大阪ワールドトレードセンタービルディング)を府が買い取り,庁舎として再利用する計画を立てたが,これは府議会の猛反対により頓挫した。大阪はかつて東京と並び称される力を持っていた。しかし昭和45年に開催された日本万国博覧会を頂点に,大阪から東京に本社を移す大企業が相次ぎ,バブル経済崩壊を機に地盤沈下が進み,税収が伸びない中,生活保護受給者が政令都市トップとなり社会保障費をさらに逼迫させている。こうした現状を踏まえ,人口270万人の大阪市を廃止し,5つの特別区(北・湾岸・東・南・中央)に分け, それぞれ選挙で区長を選び, 区議会を設置し,教育や住民サービスを身近にする。大阪の成長戦略やインフラ整備は大阪都が担当する。そうしたことによって府市の二重行政からの脱却を目指すというのが大阪都構想であった。私は,この構想案に共鳴するとともに大いに期待した。しかしその期待は打ち砕かれたわけである。
現在放映中のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」に登場する,明治維新で新生日本のために大活躍した高杉晋作・伊藤博文・山県有朋等は吉田松陰(松下村塾)の門下生であるが,その吉田松陰の実家・杉家の血筋で,大阪商工会議所の第16代会頭・杉道助は,「大阪の復興は日本の経済発展,国力の回復に寄与するところが大きい」として
大阪国際空港や地下鉄網,幹線道路,港湾等の整備・重化学工業化を推進した。私は,松下村塾の門下生同様,橋下氏が「都構想」を皮切りに日本全土に改革を行う明治維新の再来を実現することを願い,期待したのであった。ところが,反対派の①メリットがわからない,②住民サービスが悪くなる,大阪市がなくなる,というような対案の無い,抽象的なネガティブキャンペーンが高齢者の不安を煽ったようで,高齢者票が圧倒的に都構想反対に投じられ、反対派の勝利につながった。本来なら二重行政,税金の無駄遣い等,以前の大阪市政を打破するために橋下氏を選出した多くの有権者がもっと橋下氏を支えるべきではなかったかと思うところもある。
それにしても,‟敗者”となった橋下市長は,「結果を重く受け止める。僕自身の力不足」との弁を述べていたが,その表情は明るかった。死力を尽くして戦ったアスリートを見るようで,むしろ清々しかった。一方,本来なら満面の笑みで勝利を誇るはずの勝者(都構想反対派)に笑顔はなかった。反対運動の中心を担ってきた柳本自民党市議団幹事長(公明・民主・共産支持)は,「大阪市の現状を変えたいという大阪維新の会の主張が多くの市民の心を揺さぶったのも事実。地に足のついた市政を心がけていきたい」というコメントが精いっぱいだった。この両者の違いは一体何を意味しているのだろうか。また,自民・共産が共同歩調をとったのも不可思議に映った。
昔,大坂の町衆はお金を出し合って「往来安全」の行燈を軒先に掲げ,夜中でも町中が昼間のように賑わったと言われている。これは江戸や京にもない風習で日本中を驚かせ,今も自治精神の象徴として語り継がれている。その自治精神で行政に頼らない経済大都市大阪を目指してほしいと願っている。幸いなことに大阪には,中国・台湾をはじめとしたアジア系観光客が,宿泊するホテルが足りないぐらい大挙して訪れている。アジアの人達の日本への玄関口として,今後大阪がビジネスチャンスを広げる可能性が高い。行政には都構想の代りとなる大阪市のグランドデザインを早急に提示してもらい,市民(住民)はそれについて徹底的に検証すること,市民不在の市政にならないように監視することが重要である。その点では,多くの若者と自民党支持者の40%が賛成したという今回の住民投票に一筋の光明を見出した思いもあるが。
“都構想”は,全国的に大きな注目を集めたことから,自治制度改革に影響力を持ち続けると思われたが,急速にしぼんだ感もある。その現状を憂えるとともに,橋下氏の国政への進出を期待してやまない。
大阪都構想と住民投票に思う
阪本 衛(大阪府大阪市)
本年5月17日,史上初の大阪市民による住民投票が行われた。予てより「決められる民主主義」を標榜していた橋下徹大阪市長の念願が実現したものであった。しかし彼が提起した「大阪都構想」は賛成694844票,反対705585票,10741票の差で実現せず,橋下氏はいわば敗者となった。そして彼は「反対派を潰すとまで言ったが,こちらが叩き潰された」という言葉を残し,政界引退の意向を表明した。
橋下氏は,2008年1月の大阪府知事選挙で政界にデビューして以来,日本で最も注目される地方自治体の首長の一つである府知事に就任するや,大阪府を倒産企業に例え,財政再建を目指した。自ら知事報酬をカットし拍手喝采を浴びた。またわずか数年で到底不可能と思われた大阪市営地下鉄の黒字化に成功。様々な補助金もカットし,さらに大阪市職員の給与も10%以上削減した。労働組合の大きな抵抗を受けながらもこの仕事をやり抜いたのである。バブル期に大阪市が1200億円かけて人工島に高層ビルを建設し,経営・運営に失敗したWTC(大阪ワールドトレードセンタービルディング)を府が買い取り,庁舎として再利用する計画を立てたが,これは府議会の猛反対により頓挫した。大阪はかつて東京と並び称される力を持っていた。しかし昭和45年に開催された日本万国博覧会を頂点に,大阪から東京に本社を移す大企業が相次ぎ,バブル経済崩壊を機に地盤沈下が進み,税収が伸びない中,生活保護受給者が政令都市トップとなり社会保障費をさらに逼迫させている。こうした現状を踏まえ,人口270万人の大阪市を廃止し,5つの特別区(北・湾岸・東・南・中央)に分け, それぞれ選挙で区長を選び, 区議会を設置し,教育や住民サービスを身近にする。大阪の成長戦略やインフラ整備は大阪都が担当する。そうしたことによって府市の二重行政からの脱却を目指すというのが大阪都構想であった。私は,この構想案に共鳴するとともに大いに期待した。しかしその期待は打ち砕かれたわけである。
現在放映中のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」に登場する,明治維新で新生日本のために大活躍した高杉晋作・伊藤博文・山県有朋等は吉田松陰(松下村塾)の門下生であるが,その吉田松陰の実家・杉家の血筋で,大阪商工会議所の第16代会頭・杉道助は,「大阪の復興は日本の経済発展,国力の回復に寄与するところが大きい」として
大阪国際空港や地下鉄網,幹線道路,港湾等の整備・重化学工業化を推進した。私は,松下村塾の門下生同様,橋下氏が「都構想」を皮切りに日本全土に改革を行う明治維新の再来を実現することを願い,期待したのであった。ところが,反対派の①メリットがわからない,②住民サービスが悪くなる,大阪市がなくなる,というような対案の無い,抽象的なネガティブキャンペーンが高齢者の不安を煽ったようで,高齢者票が圧倒的に都構想反対に投じられ、反対派の勝利につながった。本来なら二重行政,税金の無駄遣い等,以前の大阪市政を打破するために橋下氏を選出した多くの有権者がもっと橋下氏を支えるべきではなかったかと思うところもある。
それにしても,‟敗者”となった橋下市長は,「結果を重く受け止める。僕自身の力不足」との弁を述べていたが,その表情は明るかった。死力を尽くして戦ったアスリートを見るようで,むしろ清々しかった。一方,本来なら満面の笑みで勝利を誇るはずの勝者(都構想反対派)に笑顔はなかった。反対運動の中心を担ってきた柳本自民党市議団幹事長(公明・民主・共産支持)は,「大阪市の現状を変えたいという大阪維新の会の主張が多くの市民の心を揺さぶったのも事実。地に足のついた市政を心がけていきたい」というコメントが精いっぱいだった。この両者の違いは一体何を意味しているのだろうか。また,自民・共産が共同歩調をとったのも不可思議に映った。
昔,大坂の町衆はお金を出し合って「往来安全」の行燈を軒先に掲げ,夜中でも町中が昼間のように賑わったと言われている。これは江戸や京にもない風習で日本中を驚かせ,今も自治精神の象徴として語り継がれている。その自治精神で行政に頼らない経済大都市大阪を目指してほしいと願っている。幸いなことに大阪には,中国・台湾をはじめとしたアジア系観光客が,宿泊するホテルが足りないぐらい大挙して訪れている。アジアの人達の日本への玄関口として,今後大阪がビジネスチャンスを広げる可能性が高い。行政には都構想の代りとなる大阪市のグランドデザインを早急に提示してもらい,市民(住民)はそれについて徹底的に検証すること,市民不在の市政にならないように監視することが重要である。その点では,多くの若者と自民党支持者の40%が賛成したという今回の住民投票に一筋の光明を見出した思いもあるが。
“都構想”は,全国的に大きな注目を集めたことから,自治制度改革に影響力を持ち続けると思われたが,急速にしぼんだ感もある。その現状を憂えるとともに,橋下氏の国政への進出を期待してやまない。
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