有限会社 三九出版 - い ま が 岐 路


















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【隠居の世迷言】
                い ま が 岐 路

                    小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)

善公 ご隠居が国会中継をごらんになるとは,何かあったんですかい?
隠居 いやね,近ごろ「安保法制」というのが問題になってますな。隠居の身のあたしもこころ穏やかではないのです。
善公 安倍首相,いやに張り切っていますね。
隠居 その安倍首相の元気が問題です。ところで国民の関心は「安保法制」に向いていますが,いわゆる「文官統制」の改正も問題ですな。これ,ちょっと怖い。
善公 「文官統制」,それ何です?。
隠居 わかりやすく言えば,文民である防衛相が自衛隊を統制するのが「文民統制」で,その防衛相を政策の専門家である文官の背広組が支えるのが「文官統制」。つまり背広組(内局)が制服組(自衛官)を監督してきたわけです。今回の改正案では, 制服組が背広組と対等に防衛相を補佐できるようになることから,「安保法制」の具体的行使が必要になったときには,制服組の影響力が強くなることが予想されるというわけです。(※)
善公 「安保法制」と「文官統制」は,安倍首相がめざす日本の安全保障政策見直しの両輪というわけですね。
隠居 そう言っていいかもしれません。ところで,しばらく前の朝日新聞に,「自衛隊と邦人救出」というインタビュー記事が載っていました。(※※) 語るのは元陸上自衛隊陸将のおふたり。海外でテロに巻き込まれた日本人救出は「国として当然の責務」という安倍首相の発言を踏まえてのインタビューです。
善公 「軍人」さんのお考えはどうです?
隠居 記事の見出しとなっている「国内での活動前提 周到準備重ねても突発時は対応困難」「制約多い法体系、現場見ぬ期待論危険増やすだけ」 がおふたりの考えをうまく要約しています。 「自衛隊はあくまで警察権を基準として動くような法体系となっている。……警察力は警察官一人ひとりが判断を求められますが,軍事力は部隊の指揮官が判断し命令を下す。法制度の根本が違うのに、現状の自衛隊は警察力を超えられない」, (あるいは他国の軍隊と共同行動を起こしている時に)「手足を縛られた自衛隊に反対勢力からの攻撃が集中しかねない。そこから全体の防御が崩れ、各国の軍隊が背後から襲われる危険も出てくる」は,その具体的発言の一例。これは自衛隊の幹部であったおふたりのすなおな実感だろうとおもいます。その実態が, 「今後より困難な役割が加わるなら、敵対勢力にこちらの法的制約を逆用されて現場が窮地に陥らないようにすべきです。憲法改正を期待したいところです」や, 「戦後の民主主義を信じるのなら、その主義で育った自衛隊も信じて欲しい」という願いにもなっています。ここまでくればもはや「自衛隊の邦人救出」という荒唐無稽の事例をあげての解釈改憲などという小手先の操作はやめて,安倍首相は,自衛隊の存在そのもの,言い換えればいわゆる憲法第九条そのものの可否,つまり憲法改正の是非を真正面から国民に問うたらいいとおもうのですが。
善公 時の政権のご都合でずるずると憲法の内容が変えられ,ふたたび戦争が可能な国になるより,どんな結果になろうと,われわれみずからが国の行方をきめたいですよね。
隠居 ところで,いま「戦争」という言葉が出ましたが,先ほどの元自衛隊幹部のおふたりの生年が48年と49年ということにびっくりしました。第二次世界大戦後の生まれなんですね。ということは,戦争を知らない世代なんです。
善公 ご隠居の世代(81歳)だって,ドンパチ経験はありませんよね。
隠居 ありません。敗戦のときは小学校5年生。でもグラマン(戦闘機)の機銃掃射を浴びたことも,B29爆撃機の墜落現場を見たこともあります。戦争の怖さ・悲惨さは理解できる年齢でした。自衛隊幹部のおふたりの生年に目を留めたのは,戦争を知らない世代が国家・社会の中核をかたちづくっている,そしていま,その一部のひとたちに大きな変化が起こりつつあるという感慨をもったからです。その顕在化が「強い日本」への志向,あるいはヘイトスピーチという現象なのだとおもうのです。戦争を知らない幸せな時間を食べて飽満した脳ミソが,退屈のあまりに〈いつか歩いた道〉という危険な夢を見はじめたのかもしれません。これから「安保法制」がどうなるのかわかりませんが,それは日本にとっての大きな賭けになるでしょう。どんな賭けにも危険がともないます。どうせ賭けるなら,あたしは戦争の危険に賭けるより, 「戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認」を謳う憲法の保持に賭けたい。ごまめの歯軋りですかね……。
善公 あっしはジャンボ宝くじに賭けてみたいですがね。
※註/「朝日新聞」(※)2015.2.24/(※※)2015.4.21




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