《自由広場》
たかが1グラム,されど1グラム
松井 洋治(東京都府中市)
去る2005年,当時の小泉純一郎総理が「郵政民営化の賛否を国民に問う」として衆議院を解散し,その年の9月の衆院選で自民党が圧勝,2007年に「日本郵政グループ」が発足してから,早くも8年が経過した。
しかし,その「民営化」の実態が,未だに自分でよく理解できていないこともあり,本稿を書くに当たって少しばかり調べてみた。
現在は,「日本郵政㈱」(JP日本郵政),「郵便事業㈱」(JP日本郵便),「郵便局㈱」(JP郵便局),「㈱ゆうちょ銀行」(JPゆうちょ銀行),「㈱かんぽ生命」(JPかんぽ生命)と「独立行政法人 郵便貯金・簡保生命保険管理機構」とに分かれており,それぞれに複雑な業務内容が記されていたが,その詳細を紹介するのが本稿の趣旨ではない。
お聞き戴きたいのは,先日,私以上に落語好きの友人に,NHK・BSプレミアムで放送された「夢のような まだ夢のような~落語家・桂枝雀七回忌~」(2005年放送分のアーカイブス)という貴重な番組を録画,早速DVDにダビングし,その他にも,自分で録画,ダビングした数枚の落語のDVDやCDも添えて,「郵送」した時のことである。
クッション付きの封筒に入れ,我が家の台所用のハカリ(数字で表示が出るタイプ)で量ると,ピタリ「150グラム」。もし1グラムでもオーバーしていて,受取り時点で彼に不足分を支払わせるのも失礼だと思い,近くの「郵便局」(郵便物受付の窓口だけで3ヶ所ある市内では一番大きな局)へ出掛け,番号札を取って,数分待たされた後,「自宅で量ると,150グラム丁度なんですが,ちゃんと量って戴けますか」と言いながら窓口へ封筒を差し出した。
すると,女性の担当者は「151グラムありますね。250円になります」と言うだけ。
私が「1グラムでもオーバーしていたら」とこだわったのは,消費税が8%になった時に郵便局で貰って来た「変更後の料金表」により,「定形外郵便物」は「150グラム以内205円」,「250グラム以内250円」ということを知っていたからである。
「もう一度量って戴けませんか」とも「あちらの別のハカリで量り直しても,同じでしょうか?」とも何も言わず,むしろその時は「友人に不足分45円の負担をさせずに済んで良かった」と思い,黙って250円を支払って来た。
事実関係は,ただそれだけのことである。
しかし,帰り道で,無性に腹が立ってきた。長年,民間のサービス産業に従事してきた身としては,俺だったら,多分,わずか1グラムのことでもあり,さりげなく「お宅のハカリは正確ですね。おっしゃるとおり150グラム丁度です。205円です」というか,そこまでいかなくとも,「ちょっと,別のハカリでも量ってみますね」くらいの対応をしたに違いないと思ったのだ。
「郵便局」にしてみれば,「たかが1グラム,されど1グラム」で,もし内部検査(があるかどうかも知らないが)で「1グラム,オーバーしているのに,45円不足の料金で受け付けた」と指摘されるよりは,「たとえ1グラムでも,厳正(?)に!」と教えているのかもしれない。
しかし,「たとえ1グラムでも,オーバーはオーバー。規則は規則。文句を言わずにちゃんと支払え!」では,民間の商売は成り立たない。成り立たないどころか,二度と客は,その店を使わないだろう。
グリコの「おまけ」とか,「おっちゃん,もっとマケてよ!」の「まけ」は,漢字で書けば「負け」と書く。即ち,売る側が「負けて」(折れて)のサービスのことを意味している。「負けるが勝ち」が商売の基本なのかもしれない。
「郵政民営化」とは「お役所仕事が,負けないまでも,民間並みに(親切に)なる」ことだと単純に思っていた自分が甘かったのか,そもそもの「民営化」の趣旨は,サービスレベルとは,全く無関係の話だったのかもしれない。
窓口の女性の対応には,何ら落ち度はないため,責めるつもりは毛頭ないが,ただ,もう少し人間らしい,血のかよった対応ができなかったのだろうか,普段から,そういう教育は誰もしていない(できない?)のだろうか…と思うと,今でも残念でならない。ただ,本稿を書く気になった動機が,「年金生活になって,急にカネに細かくなった」ということでないことだけは,是非ともご理解戴きたいが,世の中には(いや,この「本物語」の読者の中にも)そう思われる方がいても、それはそれで,やむを得ないと思っている。
たかが1グラム,されど1グラム
松井 洋治(東京都府中市)
去る2005年,当時の小泉純一郎総理が「郵政民営化の賛否を国民に問う」として衆議院を解散し,その年の9月の衆院選で自民党が圧勝,2007年に「日本郵政グループ」が発足してから,早くも8年が経過した。
しかし,その「民営化」の実態が,未だに自分でよく理解できていないこともあり,本稿を書くに当たって少しばかり調べてみた。
現在は,「日本郵政㈱」(JP日本郵政),「郵便事業㈱」(JP日本郵便),「郵便局㈱」(JP郵便局),「㈱ゆうちょ銀行」(JPゆうちょ銀行),「㈱かんぽ生命」(JPかんぽ生命)と「独立行政法人 郵便貯金・簡保生命保険管理機構」とに分かれており,それぞれに複雑な業務内容が記されていたが,その詳細を紹介するのが本稿の趣旨ではない。
お聞き戴きたいのは,先日,私以上に落語好きの友人に,NHK・BSプレミアムで放送された「夢のような まだ夢のような~落語家・桂枝雀七回忌~」(2005年放送分のアーカイブス)という貴重な番組を録画,早速DVDにダビングし,その他にも,自分で録画,ダビングした数枚の落語のDVDやCDも添えて,「郵送」した時のことである。
クッション付きの封筒に入れ,我が家の台所用のハカリ(数字で表示が出るタイプ)で量ると,ピタリ「150グラム」。もし1グラムでもオーバーしていて,受取り時点で彼に不足分を支払わせるのも失礼だと思い,近くの「郵便局」(郵便物受付の窓口だけで3ヶ所ある市内では一番大きな局)へ出掛け,番号札を取って,数分待たされた後,「自宅で量ると,150グラム丁度なんですが,ちゃんと量って戴けますか」と言いながら窓口へ封筒を差し出した。
すると,女性の担当者は「151グラムありますね。250円になります」と言うだけ。
私が「1グラムでもオーバーしていたら」とこだわったのは,消費税が8%になった時に郵便局で貰って来た「変更後の料金表」により,「定形外郵便物」は「150グラム以内205円」,「250グラム以内250円」ということを知っていたからである。
「もう一度量って戴けませんか」とも「あちらの別のハカリで量り直しても,同じでしょうか?」とも何も言わず,むしろその時は「友人に不足分45円の負担をさせずに済んで良かった」と思い,黙って250円を支払って来た。
事実関係は,ただそれだけのことである。
しかし,帰り道で,無性に腹が立ってきた。長年,民間のサービス産業に従事してきた身としては,俺だったら,多分,わずか1グラムのことでもあり,さりげなく「お宅のハカリは正確ですね。おっしゃるとおり150グラム丁度です。205円です」というか,そこまでいかなくとも,「ちょっと,別のハカリでも量ってみますね」くらいの対応をしたに違いないと思ったのだ。
「郵便局」にしてみれば,「たかが1グラム,されど1グラム」で,もし内部検査(があるかどうかも知らないが)で「1グラム,オーバーしているのに,45円不足の料金で受け付けた」と指摘されるよりは,「たとえ1グラムでも,厳正(?)に!」と教えているのかもしれない。
しかし,「たとえ1グラムでも,オーバーはオーバー。規則は規則。文句を言わずにちゃんと支払え!」では,民間の商売は成り立たない。成り立たないどころか,二度と客は,その店を使わないだろう。
グリコの「おまけ」とか,「おっちゃん,もっとマケてよ!」の「まけ」は,漢字で書けば「負け」と書く。即ち,売る側が「負けて」(折れて)のサービスのことを意味している。「負けるが勝ち」が商売の基本なのかもしれない。
「郵政民営化」とは「お役所仕事が,負けないまでも,民間並みに(親切に)なる」ことだと単純に思っていた自分が甘かったのか,そもそもの「民営化」の趣旨は,サービスレベルとは,全く無関係の話だったのかもしれない。
窓口の女性の対応には,何ら落ち度はないため,責めるつもりは毛頭ないが,ただ,もう少し人間らしい,血のかよった対応ができなかったのだろうか,普段から,そういう教育は誰もしていない(できない?)のだろうか…と思うと,今でも残念でならない。ただ,本稿を書く気になった動機が,「年金生活になって,急にカネに細かくなった」ということでないことだけは,是非ともご理解戴きたいが,世の中には(いや,この「本物語」の読者の中にも)そう思われる方がいても、それはそれで,やむを得ないと思っている。
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