《自由広場》
入院を経験して―日本の医療を考えた
早坂 統行(神奈川県川崎市)
この2月初旬,約50日間の入院を経験し,“春とのふれあい”…高尾山登山,桜花見などを失ってしまった。過去2回,脳梗塞,心房細房(不整脈)で各2週間ほど入院したが,今回は手術ではなく,咽頭喉頭炎に肺炎を併発し,喉にマヒが生じたため,検査中心の治療に時間を要したことが入院を長引かせた。
入院期間中,夜眠られぬまま,ベッドの中で苦しむ患者の訴える声や叫び,時には寝言を聞きながら,看護師の気持ちにも思いを致し,患者と医師・看護師のチーム運営に大いなる矛盾を感じ,この矛盾を我々が高度経済成長時代に経験した「課題解決方法」で解決することが可能であるとしたら,これから先の高齢化社会時代を少しは明るく迎えられるのではなかろうかと考えた。――こんなこともあった。
私の隣のベッドの患者は盲目で,日常,日夜の区分けが明確ではない。真夜中、12時過ぎの点滴治療後眠りに入ったようだが、間もなく鼾,そして寝言を言う。それが終わってしばらく経つと会話のようなものが始まる。実はこれも寝言だったのだが,実にしっかりした口調なので,私には寝言には聞こえなかった。それが毎日続いた。
この頃の私は,体力の回復のために睡眠が求められており,夜の点滴はなかったのであるが,このような隣人の様子に寝不足が数日間続き,我慢の限界に達していた。実はこれは患者に対する病院側の「甘え」「無責任」の積み重ねが招いた結果でないかと思う。まだ暗い午前4時ごろ隣人は別室に移動した。
また数日後,同室内での患者と看護師のやり取りがあり,それを聞いていると,患者への看護師の対応が悪く,実に虚々として温かみがなく,患者は不安と欲求不満を訴えていた。あまりにも騒々しいので,私はつい「うるさい!!」と叫んでしまった。それとほぼ同時に隣の患者からも「やかましい!!」という叱責が出た。同室のほかの患者も我慢の限界を超えていたのではなかろうか。私は翌日,部屋替えに応じた。
今は大きな社会問題になっていないが,患者と医師・看護師との間には今後新たな“いじめ”のような大きな問題が山積みすることが予想される。これはモンスターのように広がる可能性があり,それを放置してよいはずがない。
そこでその原因はどこにあるのかを考えてみた。まず医師のプロ意識の欠落。自分が責任をもって患者を治すという意識が弱く,そのため患者の信頼を失っていると思う。また,入院計画,食事のレベルアップ計画,リハビリのステップアップ計画も示されないので患者は不安が増す。薬・食事(段階的にレベルアップが行われる)の変更が患者はおろか関係者にも伝わっていないようなのである。 次に看護師の技術不足。採血,点滴が下手で平気で2〜3回失敗する看護師もいる。患者は体が弱っているのだから注意深く対処し,看護師間で相互に話し合い,情報を共有して同じ誤りをしないようにしてもらいたい。同様に,医師間,医師と看護師間でもコミュニケーションの不足が目立った。私の10?の体重減やステロイドの副作用で生じた舌の白化現象は私が医師に質問してはじめて医師が判断するような状況であった。職場環境的にも疑問を感じた。加えて,病室の割振りや清掃にも問題があった。7〜8人の相部屋に重症患者・軽い患者,入院期間の違う患者が混在しており,お互いを理解し合って入院生活を続けることには無理がある。例えば食事時間帯に簡易トイレを利用する患者がいるなど,食事をすること自体に苦労している私などは食欲が出なくて困った。その上,夜中のトイレ掃除に目が届いてなく,きれいなトイレを探すのに苦労した。
これらの原因は全て「人手不足と多忙」「改善意欲と教育の不足」にあり,その解決策は多くの人が職場で積み重ねてきたはずの経験の中に求めることができるのではないかと考える。つまり⑴意思決定の支援,⑵組織化,⑶業績評価・内部統制,⑷体系化された研修制度,⑸小集団活動などで学んだ経験を,法制度の改正や教育改革に加えて体系化する。具体的には?医師・看護師・管理部門・事務部門が参画し,病院の組織,経営計画,戦術・戦略,評価・内部統制について検討し,問題点・疑問点を指摘し合い,改善を行う,?患者へのサービス向上策について小集団活動を通して各職場単位で議論し改善策を提案する,?リーダーシップ研修や自己洞察研修で自己を研き,活力ある組織作りに努めるようにして,常に課題の共有化を図りながら,これらを継続することである。加えて,職員の待遇改善にも労使ともに努力すれば,医師・看護師・リハビリ担当・薬局・事務部門の体質が改善するものと考える。
以上は私が入院した病院を見ての話であり,既に国や自治体,大学で改善策を講じていると思うが,まだ多くの病院が前述のような問題を抱えているものと思われる。一日も早い解決策を講じられることを願うものである。
入院を経験して―日本の医療を考えた
早坂 統行(神奈川県川崎市)
この2月初旬,約50日間の入院を経験し,“春とのふれあい”…高尾山登山,桜花見などを失ってしまった。過去2回,脳梗塞,心房細房(不整脈)で各2週間ほど入院したが,今回は手術ではなく,咽頭喉頭炎に肺炎を併発し,喉にマヒが生じたため,検査中心の治療に時間を要したことが入院を長引かせた。
入院期間中,夜眠られぬまま,ベッドの中で苦しむ患者の訴える声や叫び,時には寝言を聞きながら,看護師の気持ちにも思いを致し,患者と医師・看護師のチーム運営に大いなる矛盾を感じ,この矛盾を我々が高度経済成長時代に経験した「課題解決方法」で解決することが可能であるとしたら,これから先の高齢化社会時代を少しは明るく迎えられるのではなかろうかと考えた。――こんなこともあった。
私の隣のベッドの患者は盲目で,日常,日夜の区分けが明確ではない。真夜中、12時過ぎの点滴治療後眠りに入ったようだが、間もなく鼾,そして寝言を言う。それが終わってしばらく経つと会話のようなものが始まる。実はこれも寝言だったのだが,実にしっかりした口調なので,私には寝言には聞こえなかった。それが毎日続いた。
この頃の私は,体力の回復のために睡眠が求められており,夜の点滴はなかったのであるが,このような隣人の様子に寝不足が数日間続き,我慢の限界に達していた。実はこれは患者に対する病院側の「甘え」「無責任」の積み重ねが招いた結果でないかと思う。まだ暗い午前4時ごろ隣人は別室に移動した。
また数日後,同室内での患者と看護師のやり取りがあり,それを聞いていると,患者への看護師の対応が悪く,実に虚々として温かみがなく,患者は不安と欲求不満を訴えていた。あまりにも騒々しいので,私はつい「うるさい!!」と叫んでしまった。それとほぼ同時に隣の患者からも「やかましい!!」という叱責が出た。同室のほかの患者も我慢の限界を超えていたのではなかろうか。私は翌日,部屋替えに応じた。
今は大きな社会問題になっていないが,患者と医師・看護師との間には今後新たな“いじめ”のような大きな問題が山積みすることが予想される。これはモンスターのように広がる可能性があり,それを放置してよいはずがない。
そこでその原因はどこにあるのかを考えてみた。まず医師のプロ意識の欠落。自分が責任をもって患者を治すという意識が弱く,そのため患者の信頼を失っていると思う。また,入院計画,食事のレベルアップ計画,リハビリのステップアップ計画も示されないので患者は不安が増す。薬・食事(段階的にレベルアップが行われる)の変更が患者はおろか関係者にも伝わっていないようなのである。 次に看護師の技術不足。採血,点滴が下手で平気で2〜3回失敗する看護師もいる。患者は体が弱っているのだから注意深く対処し,看護師間で相互に話し合い,情報を共有して同じ誤りをしないようにしてもらいたい。同様に,医師間,医師と看護師間でもコミュニケーションの不足が目立った。私の10?の体重減やステロイドの副作用で生じた舌の白化現象は私が医師に質問してはじめて医師が判断するような状況であった。職場環境的にも疑問を感じた。加えて,病室の割振りや清掃にも問題があった。7〜8人の相部屋に重症患者・軽い患者,入院期間の違う患者が混在しており,お互いを理解し合って入院生活を続けることには無理がある。例えば食事時間帯に簡易トイレを利用する患者がいるなど,食事をすること自体に苦労している私などは食欲が出なくて困った。その上,夜中のトイレ掃除に目が届いてなく,きれいなトイレを探すのに苦労した。
これらの原因は全て「人手不足と多忙」「改善意欲と教育の不足」にあり,その解決策は多くの人が職場で積み重ねてきたはずの経験の中に求めることができるのではないかと考える。つまり⑴意思決定の支援,⑵組織化,⑶業績評価・内部統制,⑷体系化された研修制度,⑸小集団活動などで学んだ経験を,法制度の改正や教育改革に加えて体系化する。具体的には?医師・看護師・管理部門・事務部門が参画し,病院の組織,経営計画,戦術・戦略,評価・内部統制について検討し,問題点・疑問点を指摘し合い,改善を行う,?患者へのサービス向上策について小集団活動を通して各職場単位で議論し改善策を提案する,?リーダーシップ研修や自己洞察研修で自己を研き,活力ある組織作りに努めるようにして,常に課題の共有化を図りながら,これらを継続することである。加えて,職員の待遇改善にも労使ともに努力すれば,医師・看護師・リハビリ担当・薬局・事務部門の体質が改善するものと考える。
以上は私が入院した病院を見ての話であり,既に国や自治体,大学で改善策を講じていると思うが,まだ多くの病院が前述のような問題を抱えているものと思われる。一日も早い解決策を講じられることを願うものである。
投票数:40
平均点:10.00
円空―祈りのかたち |
本物語 |
「竹の子医者」の日々 その13 |