有限会社 三九出版 - 初めての世界一周旅行記(その1・欧州編)


















トップ  >  本物語  >  初めての世界一周旅行記(その1・欧州編)
miniミニJIBUNSHI

☆超音波医学国際会議出席異聞(10)
                初めての世界一周旅行記(その1・欧州編)

                         和賀井 敏夫(神奈川県川崎市)

 1969年6月9日,ウィーンの豪華なホーフブルグ宮殿での国際会議(「本物語」46号に掲載)終了後,欧米10ヶ所の大学や病院からの招待講演実施のため,途中の観光も含め約1ヶ月の初めての世界一周の旅に出発した。ここでは一研究者が見た45年前当時の欧米の状況と日本の評価を,学術以外の面白い話を通じ紹介する。
○ユングフラウ(スイス)
 まずスイス・バーゼルを訪問する途中,スイスアルプスのユングフラウを訪ねた。グリンデルワルドに一泊,クライネシャイデックより眺めたアイガー北壁の威容に感激,クライネシャイデック駅よりアプト式の登山電車でアイガーの山腹をトンネルで登り,欧州最高の約3600メートルのユングフラウヨッホ駅に到着した。一寸した動悸に,岩壁に「slowly,slowly」の注意書きには,足元が滑るための注意と思ったが,これが高山病防止のためと知って驚いた。スフィンクステラスより眺めたアレッチ大氷河や,ユングフラウの華麗な姿には大感激だった。同時に,当時からすれば100年前に,アイガーの山中にこのような素晴らしいトンネルを掘削,登山鉄道を走らせた欧州の優れた技術に感心するとともに,日本の科学技術の底の浅さが思われた。
○バーゼル(スイス)
 世界的に有名な製薬会社のロッシェよりの招待に,なぜ専門外の私が招待をという疑問を持ちながら,バーゼル駅に到着した。出迎えの社員の案内でロッシェ社を訪問した。会社の幹部から,この会社でも医用電子装置開発の研究所を設立することになり,私に超音波医学の現状と将来について講義をして欲しいとのことで招待の目的が理解された。講演会には10人ほどの研究委員が出席したが,すべて理学系の技術者だっただけに,質問に窮することがあったが,よい勉強にもなった。講演後,研究所の責任者にライン川に面した素晴らしいレストランで夕食に招待された。このバーゼルは,丁度フランス,ドイツ,スイスの接点にあり,街中に国境があるなどに驚いた。また眼前の水量豊富なラインの大河に感心,オランダより大型船舶がここまで遡上するので,「内陸港」と呼ばれていることも理解された。
○ハイデルベルヒ(ドイツ)
 ベルギーのブリュッセル訪問の途中,旧制高校生憧れの「アルト・ハイデルベルヒ」を訪ねた。フランクフルトに宿泊,ハイデルベルヒ終日観光バスに乗った。ハイデルベルヒ城のテラスより眺めた静かな街のたたずまいや,悠然と流れるネッカー川の夢のような景色には感激の極みだった。街中では欧州最古と言われるハイデルベルヒ大学の威容と名高い学生監獄跡には感動し,当時学生が好んで集まったレストラン「赤い牛」で昼食を取り,満ち足りた気分でフランクフルトに帰還したのだった。
○ブリュッセル(ベルギー)
 ブリュッセル空港にレビー博士夫妻の出迎えを受けたのは嬉しかった。レビー先生は産婦人科医で数年前,私の研究室に留学しており,私はこの訪問を最も楽しみにしていた。早速,彼の勤務しているブルグマン大学病院に案内され,産婦人科主宰の講演会に出席した。講演会では司会のレビー先生が産婦人科以外の臨床科での超音波診断法の効用を説いていたのが嬉しかった。講演会後,大学病院を案内して頂いた。広い敷地内に,臨床各科が独立した2階建てくらいの建物に入っているのはドイツ式とのことだった。その後レビー先生に市内を案内して頂いた。「世界一美しい広場」と言われるグランプラス広場では,バロック調の市庁舎などの素晴らしい建築物や広場を取り巻くカフェテラスなどの近世の雰囲気には感動した。また日本でも有名な「小便小僧」が,思ったより小さく,広場の片隅の露地の角にひっそりと立っている姿は一寸期待はずれだった。因みに現地ではこの像の名前は「マネカンピス(裸の坊や)」で,日本では「小便小僧」と呼ばれていると話したら大笑いされた。翌日,レビー先生の運転で博士夫妻と一緒に,北方のブルージュを案内してもらった。中世の美しいお伽の如き街並が,多くの運河とともにそのままの姿で残っている風景は感動的だった。運河めぐりのクルーズに乗船,素晴らしい風景を堪能できた。また歩道に面して老婆が名物のレース編みを行っている風景はまさに一幅の絵画のようだった。
○パリ(フランス)
 英国に渡る前,これも世界的に有名な「花のパリ」に寄ってみた。世界最高の花のパリの市内観光バスに乗ると,6ヶ国語の通訳装置が付いており,日本語の選択もあったのには驚くと同時に何とも嬉しかった。想像していたより貫禄,歴史,伝統のある重厚なパリに感激しながらパリを後にして,初めての英国訪問に出発した。


投票数:54 平均点:10.00
前
私と3.11
カテゴリートップ
本物語
次
従兄の墓碑銘から

ログイン


ユーザー名:


パスワード:





パスワード紛失