有限会社 三九出版 - 〈花物語〉   曼珠沙華


















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                    〈花物語〉    曼珠沙華

                           小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)

 阿木燿子の作詞で山口百恵が歌う「曼珠沙華(マンジューシャカ)」は、つれ
ないおとこへの思いを断ち切れないおんなごころを歌ったものだが,そのなかに「マンジューシャカ 罪作り」という言葉がある。曼珠沙華にはどこか暗い翳がついてまわる。異名はたくさんあるが,彼岸花,死人花,幽霊花,捨て子花など,いずれもその形姿からは想像できない,不吉な呼び名がつけられている。嫌われものの花,といった按配である。
 でも,わたしはなぜかこの花が好きなのだ。その季節,わたしの両親が眠っているお寺さんの山門から本堂までの参道は曼珠沙華ではなやかに縁どられる。裏手にあるわが家の墓地までの道も真っ赤である。わたしはこの絢爛豪華な曼珠沙華の歓迎を受けたいばかりに墓参をするのではないかと,ときに「罪作り」な錯覚をすることがある。
 小学生のころ ―お彼岸の前後のころだったと思うが― 近所の寺の境内で,隣の家の桃子ちゃんと遊んでいたときに,わたしは何を思ったのか,彼女を仰向けに寝かせると,胸の上で腕を組ませ,その手に曼珠沙華の花を持たせた。理由はあった。大好きだった祖母を半年前に亡くしたわたしは,祖母を曼珠沙華で飾れなかった憾みを桃子ちゃんで果たしたのだ。 「むらがりていよいよ寂しひがんばな」 ― その桃子ちゃんは若くして亡くなったと,のちに風の便りに聞いた。



 ※「むらがりて……」(日野草城/『合本 俳句歳時記 新版』角川書店編)


               

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