有限会社 三九出版 - 初 め て の 出 版


















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                    初 め て の 出 版

                           布施 康二郎(宮城県仙台市)

 今まで人様の書いた本は少なからず読んだ。そのほとんどは,県庁という公務に携わり2〜3年で勤務箇所が変わり,それに伴い仕事に係わる著作物を読まざるを得なくて読んだものがほとんどである。その数は暮れに本屋さんから御歳暮を貰う程で,安月給の身では大きな負担であり,女房殿からひんしゅくをかうものであった。
 購読しなくても仕事は出来るのだが,何故か自分の異動箇所は公務員特有の前例踏襲やマニュアルに従って行う仕事ではなく,どうも公務員離れした仕事が多かったのである。こうなるとどうしても仕事に関連する未知の情報を仕込みたくなり多額の本の購入となるのであった。このほかに,特異な読書としては,小学校時代に4人の男兄弟でカバヤキャラメルを購入してポイントを集めて「カバヤ文庫」で多分文学全集とおぼしき読書をした記憶がある。 また,高校時代に胸を患って11カ月の入院生活をした折,カソリック系の病院だったので,その教典の類いや,何故かヘルマン・ヘッセや倉田百三や芹沢光治良の作品の数々を読んでいた。
 それはともかく,退職して全く県庁とのしがらみがなくなってから,宗教書や健康に係わるものや随筆などをやっと読むようになった。また,知人や先輩諸兄が身のまわりのことなどを綴ったいわゆる自費出版の類いとの出会いも多くなってきた。
 自分の長いサラリーマン生活は特異な経験を多々してきたと勝手に思っているし,公務員生活でも意に反する仕事や後輩にどうしても書き残しておきたい事柄もあったので,サラリーマン生活に終止符を打つ時いつかはきっと,そのような事柄を書いたものを出版することを,最後の職場を退職にあたっての挨拶状に認めたものである。
 ところが,自由の身になってから早いもので8年余を過ぎ,その思いを形にすることなく無為に過ごしてしまった。もはや齢が70過ぎになると友人知人の訃報に接する機会が増え,自分自身の余命も幾ばくかと思うようになった。
 そんなこんなでやっと重い腰をあげて身辺整理を始めたところである。数多くのメモや手帳などを整理したところ,今までに「折々に認めたもの」が多数出てきたのでこれだけでもまとめればそれなりの出版物になるのではないかと思い,自叙伝の第一弾としてとりまとめることにした。題して「折々に認めたもの」という三九出版にお世話になった代物である。
 出版を思いついてから完成までの懐妊期間が意外と長く,3カ月を要した。編集やら校正やら,はたまた今まで考えてもいなかった新聞社の記事や写真などの利用にあたっての著作物利用許可や初出の発行元の同意などに思わぬ時間を要した。これらの諸般のことはそれなりの諸手続きをすれば時間が解決してくれるが,最も心配だったことは,出版経費がいくらかかるかであった。これについては,自分は退職時から出版することを考えていたので退職金からまとまった金額を確保しており,その想定内に納まったので一安心したところである。蛇足であるが,この資金を株に投資して少しでも増やそうとしたが,これは見事に失敗した。皆さんもご用心の程を。
 かつては,出版をするとその記念パーティーが開かれ,「1万円会費」でそのお知らせがあり出席したものである。あの当時は,本を出した上にパーティーを開いてもらい,金まで集めるとは何事かと思っていたが,今回出版してみてその必要性を身にしみて味わったものである。やはり出版には多額の金がかかり,その一部の負担を担おうという気持ちでのお祝いパーティーであったことを今になって理解したところである。今まで,自費出版したものを頂いた折には,読後感などを認めお礼状を出していたところであるが,カンパ等をしておけば良かったものと思い知らされている。
 なにはともあれ,自叙伝の第一弾は刊行出来た。
 高校の同期会で東日本大震災の記録「我ら歴史の生き証人・その時私は……」が仲間のカンパで平成24年に出版されている。「生き証人」とはよく表現したもので,生きているうちは,話も出来るし,書き残すことも出来る。このような作為がなければ生き証人は活きてこないのである。 話し聞かせることは聞き手の時間とのかねあいや,どうも話すこと自体がこそばゆい感じでなかなか出来るものではない。やはり,生き証人は書き残すことが至上命題である。書き残すことは,本当に今となれば時間との闘いであり,記憶力を試される試練の時でもある。この正しい記憶と思っていることの裏付け調査にも相当の時間と労力が必要である。
 これから本格的に長編の書き下ろしの「自叙伝」の執筆にとりかかる。 取りあえず,机の周辺を大幅に模様替えして参考資料の閲覧が容易なものにしよう。さーガンバレと自分に叱咤激励しながら。



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