『書けば海路の日和あり』
原田 健作(神奈川県秦野市)
私は昭和22年生まれの団塊世代の一人だ。定年は平成19年3月だった。以後,全く仕事をしていないし求職活動もしていない。しかし敢えて言いたい。「隠居をやって家に引きこもっているわけではない。夢に向かって一歩,一歩,歩いているつもりだ」と。私の夢はいたって簡単だ。『プロの作家になること』だから。50歳を過ぎてから山登りに目覚め,女房を誘ったら嫌がるどころか喜んだので,すんなり夫婦登山が始まり記録を残しておこうと簡単なコメントを書いているうちに,それでは飽き足らなくなって紀行文を書くことにした。これが書くほどに面白くなって,山歩きの本を自費出版の会社から上梓した。定年間際になると『作家になりたい病』がしきりに頭をもたげてきた。かつて『定年後の生き甲斐』について考えた時はああでもない,こうでもないといろんな思いが頭の中を駆け巡り,疲れて考えるのを止めることがしょっちゅうだったのに,定年の時には『退職後の生き甲斐探し』は既に済ませた気分になっていた。退職してからは,ひたすらに夢の実現に向かって邁進するだけだった。書きたいのは小説と紀行文(エッセイ)の二つだ。「出版社の新人賞に応募し,入選するのが一番確実で近道だろう。人生80年,落選しても70歳位までは何度でも挑戦しよう。最大の強みは失うものがないことで,負けのないギャンブルだと思うと気が楽だ。とにかく,よく読み,よく書くことから始めよう。これは家にいてはできない。図書館に行こう。家にいるとつい女房に『お茶,メシ』と全て頼るヤドリギオヤジになりかねない。定年後も山歩きを続けるためには自宅から図書館までの片道7?の道のりを往復とも歩いて体力の維持に努めよう」こんなことを自分に言い聞かせた。そんなわけで,朝,家を出て日中図書館で読書をし,夕方,帰宅するのが私の日課となった。図書館までの長距離を毎日歩けるかどうかによって私の『作家になりたい』という願望が本物か否かを判断しようと思った。三日坊主にならないで今まで続いているのはこの願望が強いという証だと改めて感じている。図書館通いだけをやっていると,他人と接触することのない単調でワンパターンの日常生活に陥りそうな気がして,カルチャースクール,学生時代の友人・知人,県や市主催の各種講演会などにアプローチしたりしている。とても自分の役に立っていると思われるのはカルチャースクールのカラオケ教室だ。生徒数は10人足らずのこじんまりした教室で,月2回のレッスンと月1回の発表会があり,先生が音符の通り歌えるように指導してくれる。レッスンが終わったら喫茶店で懇親会をやり,発表会の日は4〜5箇所の教室の生徒がカラオケ・スタジオに集合し,一人ずつステージに立って自分の練習曲をみんなの前で歌うのだ。終わると近くのファミレスで食事をしながら批評し合ったり,意見交換をしたりしている。カラオケ教室の生徒は女性ばかりで私は「黒一点」なのだが,悪びれずに女性群のカラオケに対する取り組み姿勢や歌い方のノウハウなどを拝聴している。先生が生徒にラジオの短波放送の歌番組出演を推奨するので,私もエントリーすることになり,歌った曲が放送された。自分で言うのもなんだが,なかなかひどい出来だったと記憶している。このようにカラオケ教室では多くの人と接触出来,刺激的な企画への参加もある。
この春,原稿用紙250枚の小説を書き終え,ある出版社の新人賞に応募したが落選だった。ここで腐ってはいられない。すぐ気持ちを切り替え,エッセイの新人賞を目指して山歩きと紀行文作成に精を出している。エッセイは山や風光明美な所に行けばすぐ執筆出来るが,小説は個性的で魅力のある主人公を登場させ,パフォーマンスさせねばならないし,斬新,ユニークな着想と審査員に予測のつかないような場面展開が必要だ。だから一作書き終えるとかなりエネルギーを消耗する。脳味噌が空っぽになってしまうからすぐに新しいものを書くことが出来ないし,書く気も起こらない。こういう時も紀行文(エッセイ)なら気分転換にもなって,かえって書ける。山はどんな山でもその山特有の魅力が必ずある。山それぞれの良さを如何に見つけるかも登山の楽しみ方の一つである。一山,一山,一生懸命登って一生懸命紀行文をしたためている。今年は山梨県の櫛形山,千頭星山その他に登った。また風光明美な所へも良く出掛ける。カネに糸目をつけなければならない身の上なので,マイカーを利用して大抵早朝出発,深夜帰宅の日帰りだ。今年は日本三大桜(山梨,岐阜,福島の各県にある),尾瀬の「水芭蕉」,足利の「藤」,ひたちなか市の「ネモフィラ」などを観賞した。このように図書館の休館日にはカラオケに精を出し,節目,節目に「山」と「花」と「山を愛する人々」に会いに出掛ける。そしていろいろの刺激を受けながらも思いは『プロの作家になること』に収斂していく。そう,書けば海路の日和ありだ。
原田 健作(神奈川県秦野市)
私は昭和22年生まれの団塊世代の一人だ。定年は平成19年3月だった。以後,全く仕事をしていないし求職活動もしていない。しかし敢えて言いたい。「隠居をやって家に引きこもっているわけではない。夢に向かって一歩,一歩,歩いているつもりだ」と。私の夢はいたって簡単だ。『プロの作家になること』だから。50歳を過ぎてから山登りに目覚め,女房を誘ったら嫌がるどころか喜んだので,すんなり夫婦登山が始まり記録を残しておこうと簡単なコメントを書いているうちに,それでは飽き足らなくなって紀行文を書くことにした。これが書くほどに面白くなって,山歩きの本を自費出版の会社から上梓した。定年間際になると『作家になりたい病』がしきりに頭をもたげてきた。かつて『定年後の生き甲斐』について考えた時はああでもない,こうでもないといろんな思いが頭の中を駆け巡り,疲れて考えるのを止めることがしょっちゅうだったのに,定年の時には『退職後の生き甲斐探し』は既に済ませた気分になっていた。退職してからは,ひたすらに夢の実現に向かって邁進するだけだった。書きたいのは小説と紀行文(エッセイ)の二つだ。「出版社の新人賞に応募し,入選するのが一番確実で近道だろう。人生80年,落選しても70歳位までは何度でも挑戦しよう。最大の強みは失うものがないことで,負けのないギャンブルだと思うと気が楽だ。とにかく,よく読み,よく書くことから始めよう。これは家にいてはできない。図書館に行こう。家にいるとつい女房に『お茶,メシ』と全て頼るヤドリギオヤジになりかねない。定年後も山歩きを続けるためには自宅から図書館までの片道7?の道のりを往復とも歩いて体力の維持に努めよう」こんなことを自分に言い聞かせた。そんなわけで,朝,家を出て日中図書館で読書をし,夕方,帰宅するのが私の日課となった。図書館までの長距離を毎日歩けるかどうかによって私の『作家になりたい』という願望が本物か否かを判断しようと思った。三日坊主にならないで今まで続いているのはこの願望が強いという証だと改めて感じている。図書館通いだけをやっていると,他人と接触することのない単調でワンパターンの日常生活に陥りそうな気がして,カルチャースクール,学生時代の友人・知人,県や市主催の各種講演会などにアプローチしたりしている。とても自分の役に立っていると思われるのはカルチャースクールのカラオケ教室だ。生徒数は10人足らずのこじんまりした教室で,月2回のレッスンと月1回の発表会があり,先生が音符の通り歌えるように指導してくれる。レッスンが終わったら喫茶店で懇親会をやり,発表会の日は4〜5箇所の教室の生徒がカラオケ・スタジオに集合し,一人ずつステージに立って自分の練習曲をみんなの前で歌うのだ。終わると近くのファミレスで食事をしながら批評し合ったり,意見交換をしたりしている。カラオケ教室の生徒は女性ばかりで私は「黒一点」なのだが,悪びれずに女性群のカラオケに対する取り組み姿勢や歌い方のノウハウなどを拝聴している。先生が生徒にラジオの短波放送の歌番組出演を推奨するので,私もエントリーすることになり,歌った曲が放送された。自分で言うのもなんだが,なかなかひどい出来だったと記憶している。このようにカラオケ教室では多くの人と接触出来,刺激的な企画への参加もある。
この春,原稿用紙250枚の小説を書き終え,ある出版社の新人賞に応募したが落選だった。ここで腐ってはいられない。すぐ気持ちを切り替え,エッセイの新人賞を目指して山歩きと紀行文作成に精を出している。エッセイは山や風光明美な所に行けばすぐ執筆出来るが,小説は個性的で魅力のある主人公を登場させ,パフォーマンスさせねばならないし,斬新,ユニークな着想と審査員に予測のつかないような場面展開が必要だ。だから一作書き終えるとかなりエネルギーを消耗する。脳味噌が空っぽになってしまうからすぐに新しいものを書くことが出来ないし,書く気も起こらない。こういう時も紀行文(エッセイ)なら気分転換にもなって,かえって書ける。山はどんな山でもその山特有の魅力が必ずある。山それぞれの良さを如何に見つけるかも登山の楽しみ方の一つである。一山,一山,一生懸命登って一生懸命紀行文をしたためている。今年は山梨県の櫛形山,千頭星山その他に登った。また風光明美な所へも良く出掛ける。カネに糸目をつけなければならない身の上なので,マイカーを利用して大抵早朝出発,深夜帰宅の日帰りだ。今年は日本三大桜(山梨,岐阜,福島の各県にある),尾瀬の「水芭蕉」,足利の「藤」,ひたちなか市の「ネモフィラ」などを観賞した。このように図書館の休館日にはカラオケに精を出し,節目,節目に「山」と「花」と「山を愛する人々」に会いに出掛ける。そしていろいろの刺激を受けながらも思いは『プロの作家になること』に収斂していく。そう,書けば海路の日和ありだ。
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――[還暦盛春駆ける夢]―― ☆銀次郎の日記から 『古希老人A氏の死後100年の夢』 |
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