有限会社 三九出版 - 前期高齢者と後期高齢者


















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《自由広場》 
                    前期高齢者と後期高齢者

                            佐藤 芳博(宮城県多賀城市)

 後期高齢者(75歳以上)という表現は,政府作成文書で長年使われていたが,一般的に知られた言葉ではなかった。1992年に拙著『レンゲと福祉と人権と』を出版した直後,「高齢者の定義を明記しないと,読者には分からない」との指摘をマスコミ関係者から受けた。当時は,高齢者の医療・福祉などの政策で出てくる頻度が高くなりつつある言葉で,特に表現に対する苦情は,その後も聞こえてこなかった。しかし,公務員は,退職後最初の天下り先を断らなければ,健康でいる限り前期高齢者(65歳以上75歳未満)の間も働けるのが,小生が長年見てきた実情だ。
 2008年3月31日までの「老人保健法」の題名が,「高齢者の医療の確保に関する法律」に変わり,4月1日に制度施行されるのを目前にして,「後期高齢者」という表現に対して多くの批判が集まった。それまで,後期高齢者という表現を使っていた政治家や有識者まで,批判する側に回った。言葉は生きているのだから,表現の仕方がある程度変わるのは理解できるが,ことの本質に関する議論をそっちのけで,言葉狩りをするのは避けなければならない。
 国民の生活に関する政策は,暮す場所,家族構成,健康状態,働き方の経緯,年金制度などの多岐に亘る関係性を分析し,日本で生活している人々の多様性に十分な配慮をしたうえで立案すべきで,言葉の本来の意味を考えないポピュリズムに左右されてはならない。購読者数,視聴率を最優先する報道を続けていると,この国にとって必要な制度設計に大きなずれが出かねないことを,国民全てが肝に銘じるべきだ。
 この議論があった時期に,小生の考え方は言わずに,多くの方々の意見を聞いたが,制度改正で負担が少なくなったとの話が多かった。母親が亡くなり父親が健在の方は,「(北関東に住む)父は,以前よりも負担が少なくなったと言って制度改正を喜んでいる」と教えてくれた。住む地域と家族構成で,負担が異なる典型的な例だった。
 それ以来,年齢構成を念頭に考える癖がついた。そこで,参考として,平成25年9月20日総務省統計局発表の同年9月1日現在の人口推計(概算値)を引用する。
 総人口は,1億2727万人(女6538万人 男6189万人)で,前年同月比22万人(0.17%)減少。0〜14歳は1640万人12.9%(女800万人12.2% 男840万人13.6%),15〜64歳は7905万人62.1%(女3922万人60.0% 男3983万人64.4%),65歳以上3181万人25.0%(女1815万人27.8% 男1366万人22.1%)で,その内75歳以上1559万人12.2%(女961万人14.7% 男598万人9.7%)。
 日本では,男性が女性よりも多く生まれて,男性の方が早死にする率が高く,高齢者は女性が多くなる。高齢者から社会保障を維持するための負担を求めようとすると,消費税増税の次に,現在非課税の遺族年金(その多くが女性)から一定額の控除をして課税する制度改正が行われる可能性が極めて高い。遺族年金を収入とみなすと,国民健康保険税(料),介護保険税(料)の負担も増え,高齢者が公的年金から差し引かれる額も増える。
 介護保険制度が導入される前から,親族を施設に預け,殆ど面会に来ることなく,死亡すると預金通帳など資産価値のあるものを取りに来る子や孫がいることを各地で聞いてきた。それは,介護保険制度が導入されてからもあまり変わらないようだ。親族の面倒も見ずに預けっぱなしにしている人々の収入や暮らしぶりよりも,お年寄りの日々の生活を支えている職員の方々の給与がその仕事の内容に比べてかなり低いとの声が多い。お年寄りの中には,自分の遺産を終の棲家となった施設に遺言で寄付する方もおられ,それが,施設の運営に寄与しているとの話を聞いたこともある。
 そのようなこの国の実情を把握している行政関係者から相続税の課税強化の話が出てくるのは,行政や病院,社会福祉施設などに任せっぱなしの一部の国民の心得違いに起因しているが,親族で支え合った人々の中には,相続の際に世話になった人々への遺贈もふくめて相続税の算出基準を決めてほしいとの話も出てくる。
 要介護親族が認知症になり,資産の処分をするために成年後見制度の適用を受けようとすると,毎月一定額の支払いが必要になることもあり,それならその分を介護に充てたいと思う親族もいる。有資格者が現金の流れを管理するだけで定期的に一定の収入を得られる成年後見制度には,選挙権が喪失して違憲判決が出て制度改正につながったのと同等の問題があるが,政界からは見直しの声が聞こえてこない。
 税負担と給付は,一生に亘って公平な制度でなければならない。消費税増税,遺族年金課税となると,生活スタイルを変えざるを得ない。国民生活と消費に影響が少ない,資産的に余裕のある団体などに新たな税源を求めるのが先ではないか。



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