有限会社 三九出版 - 老人の夢・目標の一つ


















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《自由広場》 ―銀次郎の日記―
                    老人の夢・目標の一つ

                           青江 由紀夫(千葉市高品町)

 1.もう一花咲かせることも不可能
 再就職してもう一花咲かすかと考えても,あと一年で75歳の後期高齢者では無理。
 平均余命表によると75歳の人は11.3歳ほどの余命。平均86歳あまりまでは生存するであろう,と推測可能。平均寿命ならば80歳あまり。74歳と半年の私は,残り5年半。または運がよければ86歳の残り11年半。
 しかし,心身共に健康でこの余命表の86歳まで生きられるか否かについては,何の保証もない。平均寿命や平均余命を一つの目安として,その辺りまでは元気で生きられると,とりあえず信じて生きる。
 無用の心配、杞憂は止めて,心身の健康も寿命も人事を尽くして天命を待つ心境。天命や神様におまかせする。元気で生きている今,今日一日の今を楽しむ。
 海外旅行が好きなら、次々と計画して行く。温泉めぐりが好きなら,これもやってみる。ラーメンが好きなら,有名ラーメン店を尋ねて全国めぐり。ゴルフが好きなら,毎週二回三回とプレーする。
 お金が心配になったら土地付き一戸建ての家を抵当に入れて,「リバースモーゲージ」を利用して銀行から老後の資金を調達する。子や孫には遺産を残そうと思わない。
 その時その時,その日その日が楽しければいい。あとのことはなるようになる。一種のケセラセラの生き方に徹する。
2.後世に自分の名を残すことも不可能
 『カルダーノ わが人生の書』(青木・榎本訳 教養文庫)。このカルダーノ(1501〜1576。75歳没)は,イタリアの数学者,医師,自然哲学者。
 この人は性器に問題があって21歳から31歳までは性的不能だった(同上書15頁)。正直に告白。
 「自分の名前を不滅なものにしようというもくろみと欲望は、きわめて早くに私の心に芽ばえて…省略…」(38頁)。「私の目的は富でも暇でも名誉や公職、権力でもなく、どんな仕方にしろ自分の名を不滅な者とすることであった」(42頁)とのこと。
 著書・論文も266点も書き残し,一覧できるように表示(201〜209頁)。そして,「最も美しい行為とは、善人が恩返しをしなければと感じるような恩恵を万人に施しつつ生きることである」(214頁)。
 この人は「ジェローム・カルダン」とも称される由。ルネサンスの万能の天才とも称すべき人物。さらに,静寂と孤独を尊重したらしい。結局,上述の自伝一冊で名を残した人物。「人との交際は仕事のためにならない。というのは、諸々の発見は、実験に基づくのと同様に、静けさと、落ち着いたしかも断えざる省察に基づくからである。すべては孤独から生まれるのであって、人々との交わりから生まれるのではない」(270頁)。友人とゴルフや囲碁将棋や麻雀で暇潰しや気晴らしをして晩酌とテレビを楽しむ我々庶民とは異なる人生を送った人らしい。しかし,この人のように若い時から自分の名を後世まで不滅のものとすることを唯一の目標に生きる生き方に徹する人物。こういう人物に私は生涯一度も出会っていない。
 たとえ東大,早慶大のような有名名門大学の学長になって,若干マスコミに登場したとしても,後世300年も500年もその人の名が残ることは,まずあり得ない。
 信長(1534〜1582。48歳没)と同時代のカルダーノさん。太田牛一(1527〜1610?83歳没)のような有能な右筆(秘書)がいて「信長公記」のような伝記を書き残してくれる。ナポレオン(1769〜1828。52歳没)のように口述筆記の回想録と部下の日記の残っている例。双方とも肖像画まで残っている。
3・墓石に院殿号の戒名で充分か否か
 我々庶民の場合は,土地付きの一戸建て住宅を新築して,子供たちの教育を大卒までにして,一人前に就職させて,結婚させる。
 そして,孫の顔をみる。菩提寺を定めて,墓地を求めて,高額のお金を出して院伝号の戒名を頂戴して,墓石に刻み込む。朱を入れた戒名で生前に墓石をも準備。
 この墓石がせいぜい孫や曾孫の世代までの子孫たちによってお彼岸にお花と蝋燭と線香が供えられることを想像し期待する。
これが我々庶民の一つの夢。
 後世に300年も500年,1000年も永く広く自分の名が残ることは期待できない。
 語り継がれるほどのエピソードもない生涯。
  (H25:2013−9.23(月)秋分の日)




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