有限会社 三九出版 - 七十代へのお願い


















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〔「輝け、男七十代」を読んで思うこと〕
                     七十代へのお願い

                           保坂 洋一(東京都葛飾区)

 最近,「過去20年間にわたっての高齢者の健康状態を比較した結果,現在の高齢者のほうが肉体的に10歳ほど若い」という新聞記事を目にした。私の印象でも,確かに20年前のお年寄りと現代のお年寄りとでは大きな変化がある。健康的でおしゃれで,さらに見た目だけではなく,物分りのよい方々が増えてきているような気がするし,地域社会においてのシニアの楽しみ方や役割も変わってきたように思う。そのため,昨今のような長寿社会では年齢という区切りはもう意味を成さなくなっているのではないかと思っていた。それが『輝け,男七十代』(本誌の臨時増刊号)を拝読して確信に変わった。将来への目標すら見つけられない若者が多いと言われる中で,しっかりと人生の目標を持たれ,使命感を達成させるべくそれに向かい行動しているシニアが多くおられることをとても心強く思い,さすが激動の時代を生き抜いた方々なのだと改めて悟った。
 確かに,「知能は70歳,80歳でも上達する」と言われているように,若い人達に混じってパソコンやスマートホンなどに夢中になっているシニアもいれば,老人会で同世代の方たちと一緒にニコニコと旅行に出かける方,汗にまみれてゲートボールやテニスに興じる方など,さまざまな趣味を持つシニアがずいぶんと増えた。(まあ,公共の場である電車やバス内で周りに目もくれず大きな声で話す方々も以前より増えたようだが……。)今,我々(私は五十代に入ったばかりであるが)やその家族たちが何の不自由もなく,食に飢えずに毎日暮らせる幸せは,戦後この国をここまで成長させてきた今のシニア世代のお陰でもある。高度経済成長期の代名詞でもある企業戦士や猛烈社員などという言葉のように仕事一筋に突き進んできた方たちと,その夫の留守を預かり何をも犠牲にして家庭を守ってきた方たちなのだから,今までできなかったのであろう自分の時間を精一杯楽しむのも当然のことである。(今では働き方の一つであるワークライフバランスを国が提唱している時代になった。これも時代変化がもたらした事象なのだと思う。)要するに,戦後の復興過程における時代や高度経済成長期の頃と比べてはるかに豊かになった現代の日本では,地域におけるシニアの役割,楽しみ方も変わってきたということであろう。
 しかし,このような変化の中で昔のように道徳を教えてくれる近所のお年寄りがほとんどいなくなったように見えるのは,私一人ではないと思う。このようになったことは大きな問題である。よく,最近の若者(特に小,中,高校生)の道徳意識が低下しているといわれるが,これは学校教育だけの問題ではないと思う。学校に対するクレーマーが増加していると報道されるが,教員の質の問題だけでなく親の質にも問題があるのではないか、いや,親どころか祖父母(最近は若い祖父母も多くなった)までもが若者に規範を示せなくなりつつあるのではないかと思う。我々以下の子育て世代では多様化する価値観に反して家庭内における教育力または質が低下していることにもその要因がある。少子高齢化が進む中で,地域コミュニティーの重要性が叫ばれている。然るにそのコミュニティーの中心となっている経験豊富なシニア層の方々の力を借りなければ若年者に対してまともな道徳教育など出来ないのが現実なのである。
 その時代や,その環境によって変化していくマナーなどとは違い,道徳意識というものは普遍なものである。文化,風習とともにそれを若い世代に伝えていくのがシニア層に求められている地域社会における使命の一つではないかと思うのである。優しくて話のわかるおじいちゃん,おばあちゃんも大事だと思うが,この国の将来を考えたとき,威厳を示せるお年寄りがもっともっと増えてほしいと願うものである。
 東日本大震災の際に,日本人は略奪や暴動などを起こすことなく,忍耐強くかつ冷静に行動した。その姿に世界からは民度が高いと評価されたことは記憶に新しいが,その一方で国内では道徳の崩壊が叫ばれている。このことが将来の日本に及ぼす影響は現在の社会に与えているそれより以上に深刻なものなのかもしれない。そう考えると,日本人たる道徳の維持のために、シニア層の方々にもう一肌も二肌も脱いでいただかなければならないと願うものである。
 「輝け、男七十代」の中には、同様のことを訴えられている方もおられて心強い思いもしたし,“生涯現役”を目指している方もおられてあおられる感じもした。 確かに,生涯現役という気概が、その人のモチベーションを高め,若さを保ち,結果としてそれが公共の福祉に貢献することにつながるであろう。
 同時に若い世代にとって“小うるさいシニア”の存在は将来の日本のためには無くてはならない貴重なものであると思うのである。



 
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