有限会社 三九出版

『幸(しあ)　福(わせ)　感(かん)』

佐藤　静雄（北海道小樽市）

私の一生は政治と共にあった。学生時代（高崎経済大学）に，選挙区が高崎であった福田赴夫元総理の選挙のお手伝いをしたことが縁で，昭和42年に先生の秘書となった。そして8年間の秘書生活の後，郷里の北海道に家族で戻り，道議会議員（後志支庁管内）に初当選。３期目の途中で衆議院遠（旧北海道１区）に挑戦するも落選。４年近くの準備を経て次回に当選。途中，北海道知事選に自民党推薦で，横路知事２選目に挑戦したこともあったが，衆議院議員４期を務めて落選を機会に引退。現在は生まれ故郷のニセコ町で３haの農地を借り受け，「黒もちきび」の生産をしている。
黒もちきびはトウモロコシには違いないが，アントシアニンを豊富に含んだ紫色をしていて，モチモチとした食感からその名ができたものと思う。数千年前にペルー・アンデス地方で初めて野生種から食料として栽培され，アメリカを経由して日本に伝えられたものであるが，北海道には丁度200年前の1809（文化６）年に道南の松前藩が導入した。
北海道では昭和40年代に，現在のトウモロコシであるスイートコーンがアメリカから種が輸入され，コーン栽培が盛んになり，その後幾度かの改良を重ね，現在の甘いスイートコーンが出来上がった。
スイートコーン栽培が盛んになるにつれ，黒もちきびは，花粉が黄色のスイートコーンに悪影響を与え，商品価値が下がることから，栽培する農家がいなくなり，40年ほど前に完全に姿を消してしまった。
私はその頃中学生であったが，親類の農家から種用に乾燥した窯もちきびを教本もらい，いつか自分で植えてみようと考えていた。数年前，その存在を思い出し，小樽の自宅の10坪はどの細に植えてみた。何と，２週間ほどして芽が出てきたではないか。種子の生命力の強さに感動し，１本ごと添え木をして大切に育成した。秋になり，なつかしい黒もちきびを収穫し，50年ぶりに食べた時は感激であった。
その時私はこの黒もちきびを復活させることを思い立ち，その大半を種用として乾燥させ，翌年，広い農地を借りて種を増やすための耕作をした。そして平成20年0.5haを栽培し，２万本の黒もちきびを商品として初出荷した。今年平成21年には前述のように３haの農地を借り受け，約10万本を生産することができた。
数多くの黒もちきびを一度に販売することは不可能なので，収穫後商用冷蔵庫に預け，摂氏マイナス40度で急速冷凍することによって，取れたての味を全く失わないことに気づき，通年販売することにした。
販売の主力は，生産地ニセコでの直販店（ニセコ町有島・国道４号）と，楽天市場でのネット販売である。昔から札幌大通り公園の名物でもある「トウキビワゴン」にも，私の黒もちきびを加えてくれた。
アメリカで改良されたスイートコーンも，フルーツ化されて甘く，若い人には人気があるが，高齢者の方々にとって，トウモロコシ本来の味を持ち続ける黒もちきびの味は格別で，次第に人気が高まっている。
直販の面白さは，買い手と生産者との対話ができることである。黒もちきびの由来や栽培の苦労などを直接伝えることによって，新たな商品価値の拡大にもなる。時には「もう一生食べられないと思っていた」「復活させてくれてありがとう」と感謝の言葉を言ってくれるが，喜んでくださることへの幸福を感じる。
道外からの観光客はともかく，道内の人々はほとんど私の顔を知っているので，元国会議員が農業をやり，黒もちきびの直販店に立っていることで一様に驚かれる。

政治家の幸福は自分が実現したことで多くの人々に喜ばれることであるが，人生は，どんなに高い地位に就いても，どんなに大金持ちになっても，「幸福(しあわせ)感」の無いものは意味がない。幸福感とは，他人(ひと)に喜んでもらえることである。他人に幸福感を与えることができた
自分の存在を感じた時に，生きてきた意義を感じるのであると思う。

楽天市場で買われた方々が，全国から「懐かしい味をありがとう」「頑張って生産を続けてくださいね」と励ましのメールを度々くださるが，嬉しい限りである。
政治という虚業から農業という実業に転換したことに間違いはなかったと，つくづく感じ入っている。
………………　＊なお，「窯もちきび」については次のホームページをご覧ください。
く私のホームページ〉→ｈｔｔｐ：／／ＹＹＹ12．ｏｃｎ．ｎｅ．ｊｐ／〜ｄｒｅａｍ／
〈楽天市場（店名＝北海道ニセコトウモロコシ販売）ホームページ〉→
ｈｔｔｐ：／／Ｍ．ｒａｋｕｔｅｎ．ｃｏ．ｊｐ／ｊａｐａｎ−ｄｒｅａｍ／