有限会社 三九出版 - 東日本大震災と私


















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 ☆東日本大震災☆           東日本大震災と私

                           
                            藤原 純行(大阪府忠岡町)

 東日本大震災の当日,私は東京丸の内のビル9階事務所の応接室で来客の対応に当たっていた。その時巨大地震が勃発した。突然の激しい,しかも長い時間の揺れに驚愕した。落ち着いて,応接室のドアを開け,激しく揺れる額縁を手で抑えた。そして地震の収まるのを待った。
 窓外には東京駅前の東京三菱UFJ銀行の本社ビル,新東京ビル,三菱商事ビルや,建設中のJP(日本郵政)ビルが見える。JPビルの屋上に聳える大型クレーンが今にも落下しそうに大きく軋み揺れていた。
 揺れが収まってからは,街中が急に騒がしくなってきた。勿論エレベーターは止まった。歩いて階段を下りコンビニへの買出しが始まった。帰りの足を確保する者,宿泊場所を手配する者,無事を知らせる電話を掛ける者等,各人各様の行動を要領よくこなし,時間の経過とともに落ち着きを取り戻した。
 その後,テレビの放映で震源地の様子を見たが,“この世の風景とは思われない”光景が目に飛び込んできた。大津波に次から次へと家屋が,車が,飲み込まれていく様子を画面が映し出していた。“筆舌に尽くしがたい”とは正にこのことだろう。幸いにして深夜,地下鉄の乗り継ぎで帰宅することが出来た。我が家はマンションの7階にあったが,ガスが止まり,備品が倒れた程度で大きな損傷を免れることが出来た。
 あの地震から数日経過し,原子力発電の事故等もあり,私は単身赴任の形で住んでいた東京を離れる決意をした。当時は3社の顧問職を引き受けていたが,任期はその6月末であり,任期満了を機に退職を決意したのである。
 火山大国日本,地震大国日本,台風大国日本,どこにいても災害は付きまとう。これは日本列島に住む限り宿命であろう。私も過去に,台風,地震,津波,竜巻と,あらゆる災難に遭遇した。しかし,家族離れ離れになることが,もっと大きな二次悲劇を生むのではないかと考えた。
 私は早晩,大阪に帰る準備を始めた。マンションも売却して,早々と3か月余りで家族の住む終の棲家のある大阪に引き上げた。(しかし,関係各社のご厚意により大阪でもそのまま仕事を継続させて頂けたのは,身に余る光栄であり感謝に堪えない。)
 早いもので大震災から2年5か月余り経過した。発表された死者15,888人,行方不明者2,668人,今なお避難生活を余儀なくされている被災者315,000人(但し東京電力福島原子力発電事故による方々16万人を含む)とのことである。
 その後,経産省がまとめた,がれき処理の進捗率は岩手38.8%,宮城51.1%,福島30.9%,東北3県の平均で46%とのことである。
支援活動についても,震災から半年間に68.5%,半年から1年経過後40%,1年から2年後は31%となっているようである。だんだん数字が落ちつつあるのが寂しい限りである。
 大阪に戻った後も,大阪を拠点として東京への出張を繰り返して仕事に従事していたが,何かスッキリと心が晴れない毎日が続いていた。被災地への支援は募金,寄付をはじめ,救援物資輸送用の軽油の調達や,行方不明者の捜索,生活支援物資の供給等,自分の出来る範囲で続けさせていただいていたが……。そこで東京の仲間と「我々には何が出来るか?」を相談して,まずは一度被災地を訪ねてみようということになった。同じお金を使うのであれば被災地で使おうという結論に達したのである。
 昨年の5月中旬,宮城県仙台市および名取市を訪問した。仙台市内中心部から車で僅か30分。そこに見る被災地のあまりの悲惨さに言葉も出なかった。辺り一面,津波一過何も無し,僅かにガソリンスタンドと学校の残骸が残るのみ。学校は近隣から集められたオートバイの集積所と化していた。皮肉にも校舎中央の時計は震災時刻のまま止まっていた。近くには墓石の集積所もあった。ダンプが忙しく走り回っていたのが印象的であった。海岸線も見たが防波堤の残骸がどこまでも続いていた。反面,仙台の街は活気を取り戻していたのには驚くとともに,これぞ復興の力強い足跡かと安堵に似た気持ちになった。
 数日前,陸前高田市の7万本の松原からたった1本の松が大津波に堪え「奇跡の一本松」として蘇ったことが報道されていた。“希望と復興”のシンボルとして後世にいつまでも語り継がれることだろう。
 「普通の事が出来る幸せを感じよう」不幸にして震災に遭遇された方々には申し訳ないが,大震災の跡地を訪れ,そして今,普通の事が出来る喜びを感じている。復興への出来る限りの協力と日頃の備えの大切さをも実感しながら……。




 
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