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 【特別寄稿】    東北,そして日本の力

                           
                             庄司 昊明(東京都文京区)

 ※本稿は筆者(リンテック株式会社名誉会長)にお願いし,次の2篇を同社発行の
『LITEC』から転載させていただいたものです。 / 三九出版

○奥州平泉から平和発信○(2012年 Winter 『LINTEC』から転載)
 奥州平泉が世界遺産に登録された。有史以来,中央政権からの侵略に泣かされ,今日(こんにち)また大災害に見舞われている陸奥(みちのく)だが,かつてここを基点として日本中に輝きを放った時代があることを思い起こし,大いに誇りとしてほしい。
 奇跡とも言える藤原基衡(もとひら)の強運。彼は陸奥の支配を確立するや,スケールの大きい経済・文化の発展を図った。その要となったのが奥大道(おくだいどう)の整備・開発だ。平泉を中心に,福島の白河と青森の外ヶ浜(そとがはま)を結ぶ大動脈である。この道は海路を通じ,北海道はもちろん,博多へそして中国へとつながるネットワークを形成していたことが,最近の研究で実証されている。
 全盛時代の平泉は,単に陸奥の中心というだけではなく,日本を主導する都市の一つであった。国内外から高僧千人を平泉に集め,大法会千僧供(せんそうぐ)(〔注〕参照)をたびたび開いていたことでもその力が分かる。藤原3代は万人平等,戦いのない平和な国造り,いわゆる浄土思想で民衆を治めた。かの有名な中尊寺金色堂も,豊かで平和だった陸奥の象徴である。夢のような浄土世界が実現し,100年もの間,民衆も一緒に豊かさと平和を享受したのは世界でも稀なこと。当時野望に燃えていた源氏や平氏も,何とか味方にしようとしたが動くことはなかった。もし強力無比の藤原軍団が動いていれば,日本の歴史も大きく変わっていたかもしれない。
平泉王国の終焉はまことに惜しんでも余りある。4代目泰衡が,陸奥人の苦手とする外交・諜略戦に敗れたのだ。源義経を長として一戦やむなし,という父・秀衡の遺言を守らず,武力なき永世中立,友愛の海など,どこかの党首が言うのと同じような甘い考えから,王国を崩壊に導いてしまった。陸奥の民衆にとっては耐えがたい苦痛であったと思う。しかし,このたびの世界遺産・平泉の出現は,悲しい歴史と東日本大震災という悲劇をエネルギーに変え,どこよりも強い力で“平和”を発信する地となることは疑いない。
〔注〕千僧供:千人の僧を招いて法要を行うこと。極めて功徳が大きいとされる。千僧供養,千僧会(え)ともいう。

○2013年を彩る新しい東京駅○(2013年 Winter 『LINTEC』から転載)
 明治維新における政治家たちの,国家改造への意気込みはすごい。国力を増し,日清・日露の戦いで幸運にも勝利し,一等国への仲間入りを目指してまっしぐらに突き進んだ。その上昇気運の中,今から約100年前の1914年(大正3年),日本の玄関口として6年かけて東京駅を完成させた。一等国であるからには首都東京が一流であらねばならない。その象徴の一つが豪壮で華麗な東京駅であった。当時の財政事情を考えると国民にとっても大きな負担であったが,明治・大正人の心意気はそれを上回った。政府・国民一丸となって志を貫いたその時代に敬服する以外はない。そして100年後の今日,その駅舎を原型に近い形で復元するという大事業を完工させた。内憂外患の日本。政治の劣化が国力減退に拍車をかけている中での快挙である。今日の日本が最も必要とする明治・大正魂への回帰と庶民の国造りへの参加意識,この二つを強く訴えたものと受け止めたい。
 先に丸ビル,新丸ビルなどの再建で環境を整備し,最後に赤レンガの東京駅という目玉を入れた。明治・大正人の宿願であった豪華な芸術を含む歴史と文化の再現を,日常の膨大な鉄道業務にいささかも支障を与えずに遂行したことは,わが国の総合力があればこそ。1920年(大正9年)に竣工した丸の内の日本工業倶楽部会館も10年ほど前にリニューアルしたが,創建時と全く変わらない姿で完成させ,外国人から大いに称賛されたことは記憶に新しい。
 2013年は,この駅舎におびただしい数の人が訪れ,この年の景気づけに大きな牽引車となるだろう。経済の活性化や国民のやる気は今すぐにでも必要。そのためには,明治・大正人への理解と尊敬を取り戻すことが,我々子孫にとっての大きな手掛かりとなる。政治家を含め,国の再建を考えない国籍不明の日本人はもう要らない。国家意識,すなわち愛国心のある日本人が団結して,この国を崩壊から救うしかない。




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