有限会社 三九出版 - 〈花物語〉 白 木 蓮


















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                     〈花物語〉 白 木 蓮

                           小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)

 白木蓮は豪奢な花だ。遠くから古い民家の,手入れの行き届いた庭の垣根越しに咲いている白木蓮を見ると,大きな白い綿飴がほっこりと空中に浮いているようで,いまでもわたしは故なく胸がおどる。
 わたしがまだ小学生のころの話である。母親に連れられてキリスト教会の日曜学校へ通っていたわたしは,ひとりの少女に恋をした。牧師の説教のときには隣に座りたい,クリスマス劇では相手役になりたい ― 幼い欲望だったが,その激しさはまさに〈恋〉そのものだった。
 春の一日,日曜学校へ行くと,母親に連れられた少女がはにかみながら,祈りの手のような花の蕾ひとつつけた白木蓮の小枝をわたしにくれた。少女の贈り物である。白木蓮は少女の化身 ― 朝な夕なわたしはそれを眺めては少女のことを考え,日曜学校で白木蓮の様子を少女に告げるのが愉しみだった。だが少女はいつの間にか,わたしの話に興味をしめさなくなり,わたしとの話も避けるようになった(幼い恋のおわり)。
 ある朝,白木蓮の花びらはすっかり散り落ちた。日曜学校では,少女はほかの男の子と仲よしになり,わたしは少女を失った。祈りの手が白木蓮を思い出させるのに耐えられなくなったわたしは,いつしか日曜学校への関心 ― というより信仰そのものも失った。いまでも白木蓮の季節には何かを失うという不安におののく自分がい
る。

                

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