《自由広場》
「竹の子医者」の日々 その9
星 康夫(東京都世田谷区)
○異物摘出に悪戦苦闘○……前回では「咬まれた,刺された」の傷について書きました。今回は「異物」について書いてみましょう。足の裏の異物には,単純にガラスを踏んでとか,木のトゲをとか。一番苦労したのは「ウニ」のトゲでした。南の海で足から飛び込んだら海底がウニだらけだったと。足底の厚い皮膚に無数に突き刺さったトゲ,摘出は大変でした。最終的には鶏眼(魚の目)の治療に用いる軟膏で軟化して剥り取りました。ノドにひっかかった魚の骨,摘出困難で,耳鼻咽喉科の医師や内視鏡科の医師の応援を頂き, やっと摘出した事もあります。白血病の患者さんのお腹の膿瘍から,鯛の骨が出てきたのは,びっくりしました。腸の壁を破りお腹の壁を破り出て来たのです。深夜の外来では,とんでもない物を異物として取り出すことがあります。体温計,ボールペン,食塩のガラスビン,痔の治療に使う軟膏のチューブ。部位はどこ?と思われる方は,私から言わせてもらうと,とっても初(うぶ)な方です。「直腸や○○や××」と記せば,「そうか,そうか,そうなんだ」とお分かり頂けると思います。それ以外に摘出に苦労したのは散弾銃の弾です。数も多いのですが,それ以上に苦労するのは皮膚から入った部分と弾の位置とが全く離れているのです。いわば豆腐の中から小さな豆粒を探し出す様なもので,切りきざむ訳にもいかず,レントゲンの透視下で重い鉛の入った防護衣を着用して,長時間の悪戦苦闘でした。
○カワウソ酔語○……最近のニュースで「絶滅危惧種」だった「日本カワウソ」が「絶滅種」に編入されたと。30年間その姿が確認されていないそうです。そう言えば30年前の新聞に,高知県でカワウソらしき動物の姿が目撃され,その糞が見つかったと書いてあったのを思い出しました。愛らしい動物がまた1つ消えてしまったのです。ところで寿司屋さんで「獺祭(ダッサイ)」という日本酒を見かけました。「獺」はカワウソの事で「獺祭」の意味は「カワウソが多く捕獲した魚を食べる前に並べておくのを,俗に魚を祭るのにたとえていう語」と『広辞苑』にありました。とすると,ご自慢の魚を目の前に並べている「寿司屋の大将」貴方は「カワウソ」なのですね。
○様にならないmiss○……『本物語』30号に初めて「竹の子医者の日々」を書きました時に,「ミス・インターナショナル・クィーン」について書きましたが,「ミス・ユニバース」「ミス○○」「ミス××」と色々と沢山のミス・コンテストがあります。
過日,印刷業を経営する友人が「我々の業界でもミス・コンテストを開こうかと話があったのだが,実現しなかった」と。「だってミスプリントではどうしようもないからね」と。 ふと考えてみました,私達の業界?ではどうだろうか。名付けるとすると「ミス・医療」か。「医療ミス」では全く様になりませんヨネ。
○病を治すのは…○……「梅ちゃん先生」というNHKの朝のドラマが最近話題になっています。臨床医としての「梅ちゃん先生」,基礎医学・研究者としての先生方,医療にはこの両輪が必要です。特に臨床医には,患者さん(最近よく使われる患者様という呼び方を私は使いません)に対する梅ちゃん先生の様な「優しさ」は,一番大切です。「病気を診ずして,病人を診よ」は私の卒業した大学の創立者の言葉です。私もそれに従い,又「病気を治すのは患者さん,医者はそのお手伝いをするだけ」と言い聞かせ,医師として働いてきました。勿論,医療費を支払って頂かねば,生活は成り立ちません。ドイツの医療に関することわざに「病は神様が治し,報酬は医者が取る」というのがあるそうです。これは大変な皮肉ですが,一理あります。
○希望はピンピン・コロリ…だが○……今日は9月17日「敬老の日」です。厚労省の発表によりますと,百歳以上の方が5万人を超えたと。しかし東日本大震災の人的被害により,平均寿命世界一の座は維持出来なかったとの事。最近はこの「平均寿命」の他に「健康寿命」という言葉が用いられる様になりました。これは介護や病気の看護等で他人の世話にならずに過ごせる年齢の事で,女性は73.6歳,男性は70.4歳です。この「健康年齢」と「平均寿命」との差の期間が「不健康な期間」。これが女性で12.8年,男性で9.2年となります。私も今年で71歳となりました。幸せな事にまだ現役で診療に当っています。しかし今後来たるべき「不健康な期間」を如何に周囲に迷惑をかけずに過ごしていくか。「ピンピン・コロリ」等と希望しても,世の中そうはうまくは行きません。趣味らしい趣味も持たない私としては大変心配です。これも「梅ちゃん先生」から引用させて頂きますが,お父さんの教授曰く「梅は決して一番下の位という意味ではない」と。しかしやはり一般的には「松・竹・梅」は「上・中・下」の意味がありますヨネ。とすると,私の人生の最後のセレモニーは「松」でなくてよいから,せめて「竹」でお願いしようかな。よろしく。
「竹の子医者」の日々 その9
星 康夫(東京都世田谷区)
○異物摘出に悪戦苦闘○……前回では「咬まれた,刺された」の傷について書きました。今回は「異物」について書いてみましょう。足の裏の異物には,単純にガラスを踏んでとか,木のトゲをとか。一番苦労したのは「ウニ」のトゲでした。南の海で足から飛び込んだら海底がウニだらけだったと。足底の厚い皮膚に無数に突き刺さったトゲ,摘出は大変でした。最終的には鶏眼(魚の目)の治療に用いる軟膏で軟化して剥り取りました。ノドにひっかかった魚の骨,摘出困難で,耳鼻咽喉科の医師や内視鏡科の医師の応援を頂き, やっと摘出した事もあります。白血病の患者さんのお腹の膿瘍から,鯛の骨が出てきたのは,びっくりしました。腸の壁を破りお腹の壁を破り出て来たのです。深夜の外来では,とんでもない物を異物として取り出すことがあります。体温計,ボールペン,食塩のガラスビン,痔の治療に使う軟膏のチューブ。部位はどこ?と思われる方は,私から言わせてもらうと,とっても初(うぶ)な方です。「直腸や○○や××」と記せば,「そうか,そうか,そうなんだ」とお分かり頂けると思います。それ以外に摘出に苦労したのは散弾銃の弾です。数も多いのですが,それ以上に苦労するのは皮膚から入った部分と弾の位置とが全く離れているのです。いわば豆腐の中から小さな豆粒を探し出す様なもので,切りきざむ訳にもいかず,レントゲンの透視下で重い鉛の入った防護衣を着用して,長時間の悪戦苦闘でした。
○カワウソ酔語○……最近のニュースで「絶滅危惧種」だった「日本カワウソ」が「絶滅種」に編入されたと。30年間その姿が確認されていないそうです。そう言えば30年前の新聞に,高知県でカワウソらしき動物の姿が目撃され,その糞が見つかったと書いてあったのを思い出しました。愛らしい動物がまた1つ消えてしまったのです。ところで寿司屋さんで「獺祭(ダッサイ)」という日本酒を見かけました。「獺」はカワウソの事で「獺祭」の意味は「カワウソが多く捕獲した魚を食べる前に並べておくのを,俗に魚を祭るのにたとえていう語」と『広辞苑』にありました。とすると,ご自慢の魚を目の前に並べている「寿司屋の大将」貴方は「カワウソ」なのですね。
○様にならないmiss○……『本物語』30号に初めて「竹の子医者の日々」を書きました時に,「ミス・インターナショナル・クィーン」について書きましたが,「ミス・ユニバース」「ミス○○」「ミス××」と色々と沢山のミス・コンテストがあります。
過日,印刷業を経営する友人が「我々の業界でもミス・コンテストを開こうかと話があったのだが,実現しなかった」と。「だってミスプリントではどうしようもないからね」と。 ふと考えてみました,私達の業界?ではどうだろうか。名付けるとすると「ミス・医療」か。「医療ミス」では全く様になりませんヨネ。
○病を治すのは…○……「梅ちゃん先生」というNHKの朝のドラマが最近話題になっています。臨床医としての「梅ちゃん先生」,基礎医学・研究者としての先生方,医療にはこの両輪が必要です。特に臨床医には,患者さん(最近よく使われる患者様という呼び方を私は使いません)に対する梅ちゃん先生の様な「優しさ」は,一番大切です。「病気を診ずして,病人を診よ」は私の卒業した大学の創立者の言葉です。私もそれに従い,又「病気を治すのは患者さん,医者はそのお手伝いをするだけ」と言い聞かせ,医師として働いてきました。勿論,医療費を支払って頂かねば,生活は成り立ちません。ドイツの医療に関することわざに「病は神様が治し,報酬は医者が取る」というのがあるそうです。これは大変な皮肉ですが,一理あります。
○希望はピンピン・コロリ…だが○……今日は9月17日「敬老の日」です。厚労省の発表によりますと,百歳以上の方が5万人を超えたと。しかし東日本大震災の人的被害により,平均寿命世界一の座は維持出来なかったとの事。最近はこの「平均寿命」の他に「健康寿命」という言葉が用いられる様になりました。これは介護や病気の看護等で他人の世話にならずに過ごせる年齢の事で,女性は73.6歳,男性は70.4歳です。この「健康年齢」と「平均寿命」との差の期間が「不健康な期間」。これが女性で12.8年,男性で9.2年となります。私も今年で71歳となりました。幸せな事にまだ現役で診療に当っています。しかし今後来たるべき「不健康な期間」を如何に周囲に迷惑をかけずに過ごしていくか。「ピンピン・コロリ」等と希望しても,世の中そうはうまくは行きません。趣味らしい趣味も持たない私としては大変心配です。これも「梅ちゃん先生」から引用させて頂きますが,お父さんの教授曰く「梅は決して一番下の位という意味ではない」と。しかしやはり一般的には「松・竹・梅」は「上・中・下」の意味がありますヨネ。とすると,私の人生の最後のセレモニーは「松」でなくてよいから,せめて「竹」でお願いしようかな。よろしく。
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