［隠居のたわごと］
テレビ寸感
小櫃 蒼平（神奈川県相模原市）
善公 ご隠居どうなさいました。寝てる姿は寒づくりの伸し餅ですね。
隠居 病人を冷やかすものじゃありません。風邪（ふうじゃ）でな。往生してますよ。
善公 そりゃいけませんね。風邪は万病の元。おいらは迷惑の元。お退屈でしょう？
隠居 ああ，最初はまあ骨休めとおもっておりましたが，これが一日も経ちますと，からだのあちこちが痛くなりましてな。難儀なものです。暇つぶしにテレビを観ておりましたが，これがまたなんともひどいものでしたな。
善公 日がな一日テレビを観られたら御の字じゃありませんか。
隠居 いや善さんよ。昨今のテレビのお笑い番組はひどいものですな。
善公 ご隠居，そんなことはありませんぜ。あっしゃ，「笑っていいとも」「ダウンタウンＤＸ」なんぞをよく観ますがね，結構たのしめますぜ。
隠居 「笑っていいとも」はまあまあよろしいが，それでもタモリに切れがなくなっていますな。はじまったころは，タモリひとりがいればそれで笑えました。番組の売り ― ゲストをよんでの掛け合いなんぞは，ときに鋭い人物評があって，あたしは膝を叩いて笑い転げたものでしたよ。
善公 いまでもそうですぜ。あっしなんぞは今日はどんなゲストがくるか，いまでもワクワクものですがね。
隠居 そこですよ，いまはゲストに目がいって，タモリがそのゲストをどう料理するか，その期待感がなくなりました。タモリがいい加減にやっているというわけじゃありませんが，長寿番組の一種の〈なれ〉が出たのでしょうかね。
善公 まあ，仕方がねぇところですかね。あっしもでぇーく（大工）仕事を長年やってると，柱の一本も手抜きしたくなりますからね。
隠居 おいおい，そりゃ乱暴な！ むかしは外国人のマージャンとかイグアナの形態模写とか，ときにタモリの芸も披露され，それも絶品でした。昨今はそれもなくなり，そのかわりに売れっ子のお笑い芸人とか，ジャニーズ系のタレントが日替わりで賑やかすようになりました。もはやタモリは仕切り屋みたいになってしまいましたな。寂しいかぎりです。
善公 でもね，ご隠居。「ダウンタウンＤＸ」はおもしろいですぜ。
隠居 ああ，日ごろおまえさんがあまりに勧めるから観ましたよ。 でもこれがひどい。おまえさんの〈長屋覗き〉版じゃありませんか。よくいって婦女子の井戸端会議ですな。（ここは差別ですが，江戸の話とお許し願います）
善公 〈長屋覗き〉とはひどい，ご隠居。あれは留さんの婆さんが嫁イジメに，安さんの婆さんとグルになってひと芝居打ったのを，神隠しだというから，たまたま徳さんの家を覗いたというだけのことじゃござんせんか。
隠居 ちょっとからかってみただけですよ。ですが，「ダウンタウンＤＸ」，それにお笑い仲間でやるドタバタもありましたな。どちらもいけません。
善公 そりゃまたどうして？
隠居 かれらがやっているのは，いわば楽屋のお遊び。仲間内の芸人を肴に笑いをとる，あるいは後輩芸人を集めてシゴキめいたことで笑いをとる ― みんな楽屋裏の話です。表芸ではありません。楽屋での暇の折のお遊び。おまけに素人 ― つまり視聴者までもが覗き感覚で，それが言い過ぎならファン心理で「覗き見ランキング」なるものに参加して，どこそこで某芸人を見た，と投書する。それで視聴率が取れるものだから，こんどはテレビの制作者がそれに乗っかる，そんな構図でしょう。昨今お笑い芸人がきちんとした芸をする番組がなくなりましたな。
善公 そういえば「Ｍ１グランプリ」をとった芸人も，すぐにバラエティーの雛壇に並ぶか，ＭＣになり，きちんとした話をしなくなります。
隠居 もちろん演芸場などではきちんと話芸を披露してはいるのでしょうが，売れっ子になればなるほどチョンの間の，軽いネタでお茶を濁しているのでしょうな。
善公 お笑いが退屈なら，ニュースや国会中継があるじゃありませんか。
隠居 国会中継は猿芝居です。ニュースもダメ。とくに政治的なニュースについていえば，ＮＨＫも民放も同じような切り口。局独自の見解 ― というか，問題の核にふれない。つまりニュースソースが同じなんじゃないですかね。でなければ妙に片寄ったりして……。芸がありません。記者の勘や地道な取材がないんでしょうな。そういえば国会の爆弾男といわれた楢崎弥之助氏が亡くなりました。毀誉褒貶ありますが，あのひとによってずいぶんと政財界のからくりを教えてもらいました。あの時代がなつかしくなるくらい，いまのテレビ報道はつまらない。
善公 だんだんご機嫌が悪くなってきましたよ。ここらで退散して，枡屋さんの家の筋交いでも締め直してこようかな。
隠居 枡屋さんの家の筋交いを直す前に，お前さんの頭の箍を締め直しなさいよ。
テレビ寸感
小櫃 蒼平（神奈川県相模原市）
善公 ご隠居どうなさいました。寝てる姿は寒づくりの伸し餅ですね。
隠居 病人を冷やかすものじゃありません。風邪（ふうじゃ）でな。往生してますよ。
善公 そりゃいけませんね。風邪は万病の元。おいらは迷惑の元。お退屈でしょう？
隠居 ああ，最初はまあ骨休めとおもっておりましたが，これが一日も経ちますと，からだのあちこちが痛くなりましてな。難儀なものです。暇つぶしにテレビを観ておりましたが，これがまたなんともひどいものでしたな。
善公 日がな一日テレビを観られたら御の字じゃありませんか。
隠居 いや善さんよ。昨今のテレビのお笑い番組はひどいものですな。
善公 ご隠居，そんなことはありませんぜ。あっしゃ，「笑っていいとも」「ダウンタウンＤＸ」なんぞをよく観ますがね，結構たのしめますぜ。
隠居 「笑っていいとも」はまあまあよろしいが，それでもタモリに切れがなくなっていますな。はじまったころは，タモリひとりがいればそれで笑えました。番組の売り ― ゲストをよんでの掛け合いなんぞは，ときに鋭い人物評があって，あたしは膝を叩いて笑い転げたものでしたよ。
善公 いまでもそうですぜ。あっしなんぞは今日はどんなゲストがくるか，いまでもワクワクものですがね。
隠居 そこですよ，いまはゲストに目がいって，タモリがそのゲストをどう料理するか，その期待感がなくなりました。タモリがいい加減にやっているというわけじゃありませんが，長寿番組の一種の〈なれ〉が出たのでしょうかね。
善公 まあ，仕方がねぇところですかね。あっしもでぇーく（大工）仕事を長年やってると，柱の一本も手抜きしたくなりますからね。
隠居 おいおい，そりゃ乱暴な！ むかしは外国人のマージャンとかイグアナの形態模写とか，ときにタモリの芸も披露され，それも絶品でした。昨今はそれもなくなり，そのかわりに売れっ子のお笑い芸人とか，ジャニーズ系のタレントが日替わりで賑やかすようになりました。もはやタモリは仕切り屋みたいになってしまいましたな。寂しいかぎりです。
善公 でもね，ご隠居。「ダウンタウンＤＸ」はおもしろいですぜ。
隠居 ああ，日ごろおまえさんがあまりに勧めるから観ましたよ。 でもこれがひどい。おまえさんの〈長屋覗き〉版じゃありませんか。よくいって婦女子の井戸端会議ですな。（ここは差別ですが，江戸の話とお許し願います）
善公 〈長屋覗き〉とはひどい，ご隠居。あれは留さんの婆さんが嫁イジメに，安さんの婆さんとグルになってひと芝居打ったのを，神隠しだというから，たまたま徳さんの家を覗いたというだけのことじゃござんせんか。
隠居 ちょっとからかってみただけですよ。ですが，「ダウンタウンＤＸ」，それにお笑い仲間でやるドタバタもありましたな。どちらもいけません。
善公 そりゃまたどうして？
隠居 かれらがやっているのは，いわば楽屋のお遊び。仲間内の芸人を肴に笑いをとる，あるいは後輩芸人を集めてシゴキめいたことで笑いをとる ― みんな楽屋裏の話です。表芸ではありません。楽屋での暇の折のお遊び。おまけに素人 ― つまり視聴者までもが覗き感覚で，それが言い過ぎならファン心理で「覗き見ランキング」なるものに参加して，どこそこで某芸人を見た，と投書する。それで視聴率が取れるものだから，こんどはテレビの制作者がそれに乗っかる，そんな構図でしょう。昨今お笑い芸人がきちんとした芸をする番組がなくなりましたな。
善公 そういえば「Ｍ１グランプリ」をとった芸人も，すぐにバラエティーの雛壇に並ぶか，ＭＣになり，きちんとした話をしなくなります。
隠居 もちろん演芸場などではきちんと話芸を披露してはいるのでしょうが，売れっ子になればなるほどチョンの間の，軽いネタでお茶を濁しているのでしょうな。
善公 お笑いが退屈なら，ニュースや国会中継があるじゃありませんか。
隠居 国会中継は猿芝居です。ニュースもダメ。とくに政治的なニュースについていえば，ＮＨＫも民放も同じような切り口。局独自の見解 ― というか，問題の核にふれない。つまりニュースソースが同じなんじゃないですかね。でなければ妙に片寄ったりして……。芸がありません。記者の勘や地道な取材がないんでしょうな。そういえば国会の爆弾男といわれた楢崎弥之助氏が亡くなりました。毀誉褒貶ありますが，あのひとによってずいぶんと政財界のからくりを教えてもらいました。あの時代がなつかしくなるくらい，いまのテレビ報道はつまらない。
善公 だんだんご機嫌が悪くなってきましたよ。ここらで退散して，枡屋さんの家の筋交いでも締め直してこようかな。
隠居 枡屋さんの家の筋交いを直す前に，お前さんの頭の箍を締め直しなさいよ。
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