「竹の子医者」の日々その7
星 康夫(東京都世田谷区)
○時間が問題○……今日は3月11日,大震災後1年が過ぎました。1分間の黙祷をささげた後で,この原稿を書いています。もう1年経ったのか? まだ1年しか経っていないのか? その人,その時,その場所によって時間の感じ方は違います。患者さんにとっても同じ様に時間の長さの感じ方は違ってきます。腰痛で受診された80歳台の男性,「1週間前に急に腰が痛くなりました。前日は何ともなかったし,今迄病気もした事がありません」。レントゲン等の検査をして,「変形性腰椎症です。骨に大きな変化が見られ,痛みの原因はこの変化によるものです」と説明し,理学療法,内服薬,外用薬で治療を開始。治療開始後5日目,「先生,痛みがまだとれません。どうしてですか」と。「骨に変化があり,神経が圧迫されているので,すぐには痛みはとれませんヨ」。 「でも治るんですね」。 「この骨の形は元には戻りません。電気をかけたり,薬を飲んで,症状をとる様にしましょう」。 「でも,でも,急に痛くなったんですよ。急にですよ。骨も前の日までは何ともなかったんですよ。急に骨が変化したんですか。前日迄何ともなかったし,急に,急に痛くなったんです。徐々に痛くなったのなら痛みも長く続くのは理解出来ますが,急に痛くなったのに,すぐ治らないなんておかしくないですか」と。 「痛みは急に出ましたが骨の変化は何年もかかって進んで来て, 痛みという症状がその限界で出て来たのです。 すぐには痛みはとれません」。 なかなかご理解頂けませんでしたが,そのまま通院を続け,最近やっと痛みが緩和してきたとの事。患者さんにとって始めのこの5日間は大変長かったのでしょうが,まだ5日しか経ってませんよ,という考えはいけないのでしょうか。
○医者の不養生は禁物○……3月13日,今日は私の誕生日です。昨年は70歳で古希のお祝いのはずでしたが,大震災の2日後で全く落ち着かない1日でした。明日はゴルフの予定が入っているのですが,今朝から不整脈が頻発しいささか心配なので急いで心電図をとってみました。いつも通りの上室性期外収縮の波型。今服用している薬を少し増量すれば大丈夫と,自分なりに納得。でもしばらく精密検査も受けていないので,そろそろ受けに行こうか? でも何となく怖いな,もう少し様子を見ようかな。「お前,それでも医者か?」と自問自答。結論,とに角明日のゴルフは止めにしましょう。その後の事は,又考えましょう。
○検診の意味を理解して○……最近の公的な健康診断(検診)は,国の方針で,いわゆる「メタボ検診」が主流となっています。腹囲が男性なら85?以上,女性なら90?以上が先ず第1の関門です。これに該当しますと,次に血圧,脂質,血糖の項目があり,メタボ該当,予備群,非該当と区分されます。そして該当者には指導を受ける様にと指示が出されます。49歳で6歳のお孫さんがいる「若いおばあちゃん」が1ヶ月前に検診の予約をしておいてから来院しました。「十分に準備をして来ました。体調は万全です」と。「本当は普段の生活のままが良いのですが」とお話しますと,「はい,分かっていますが少しでも結果の良い方が嬉しいじゃないですか。でもどうしてもメタボはしょうがない様ですので,今日は,身長は大き目に,体重は少な目に,裏帳簿でお願いします」と。
又,こんな事を言う高齢者もいます。「もう年ですから検診なんか受けたくありません。 もうすぐ死んじゃうんだし,めんどうだし」。それでも毎日の様に診療所に来て「痛い,痛い,体調も悪い,悪い。これじゃ死んじゃった方がよい」とおっしゃる。ちょっと待ってくださいよ。ちゃんと検査も受けて,異常があれば治療を受けて,その後でのこの発言(「文句」と言いたいところですが)なら分かりますが,「何もするな,何もしたくない,でも何とかしろ」では「竹の子医者」の手に負えません。
○セクハラよりもっと恐ろしいことが○……病院に勤務していた頃,こんな事を言って若い看護婦さんをからかっていました。「君は何歳になったんだい?」「20歳(ハタチ)です」「そうか,ハタチ過ぎたら大年増だぞ」「エーッ。では30歳は?」「30過ぎたら化石だ」「40代は?」「墓石だ」「50代は?」「宇宙人だよ」。「では男性の場合はどうなんですか?」「男はいくつになってもお兄ちゃんだよ」。今なら「セクハラだ」と,お叱りを受けることでしょうね。しかし,その後はもっと恐ろしい記事が新聞に続きました。同居家族が中にいる家の中で「白骨化」「ミイラ化」した遺体が発見された,と。大震災1年後の最近の新聞には被災地以外で「孤独死」「孤立死」等の記事が見られ,老いた母親と障害を持った息子さんの衰弱死や,老いた姉妹の死等が報じられています。被災地の復興には当然目を配らねばなりませんが,この身の回りの近くにも目を配らねばならない事が沢山あると感じています。
星 康夫(東京都世田谷区)
○時間が問題○……今日は3月11日,大震災後1年が過ぎました。1分間の黙祷をささげた後で,この原稿を書いています。もう1年経ったのか? まだ1年しか経っていないのか? その人,その時,その場所によって時間の感じ方は違います。患者さんにとっても同じ様に時間の長さの感じ方は違ってきます。腰痛で受診された80歳台の男性,「1週間前に急に腰が痛くなりました。前日は何ともなかったし,今迄病気もした事がありません」。レントゲン等の検査をして,「変形性腰椎症です。骨に大きな変化が見られ,痛みの原因はこの変化によるものです」と説明し,理学療法,内服薬,外用薬で治療を開始。治療開始後5日目,「先生,痛みがまだとれません。どうしてですか」と。「骨に変化があり,神経が圧迫されているので,すぐには痛みはとれませんヨ」。 「でも治るんですね」。 「この骨の形は元には戻りません。電気をかけたり,薬を飲んで,症状をとる様にしましょう」。 「でも,でも,急に痛くなったんですよ。急にですよ。骨も前の日までは何ともなかったんですよ。急に骨が変化したんですか。前日迄何ともなかったし,急に,急に痛くなったんです。徐々に痛くなったのなら痛みも長く続くのは理解出来ますが,急に痛くなったのに,すぐ治らないなんておかしくないですか」と。 「痛みは急に出ましたが骨の変化は何年もかかって進んで来て, 痛みという症状がその限界で出て来たのです。 すぐには痛みはとれません」。 なかなかご理解頂けませんでしたが,そのまま通院を続け,最近やっと痛みが緩和してきたとの事。患者さんにとって始めのこの5日間は大変長かったのでしょうが,まだ5日しか経ってませんよ,という考えはいけないのでしょうか。
○医者の不養生は禁物○……3月13日,今日は私の誕生日です。昨年は70歳で古希のお祝いのはずでしたが,大震災の2日後で全く落ち着かない1日でした。明日はゴルフの予定が入っているのですが,今朝から不整脈が頻発しいささか心配なので急いで心電図をとってみました。いつも通りの上室性期外収縮の波型。今服用している薬を少し増量すれば大丈夫と,自分なりに納得。でもしばらく精密検査も受けていないので,そろそろ受けに行こうか? でも何となく怖いな,もう少し様子を見ようかな。「お前,それでも医者か?」と自問自答。結論,とに角明日のゴルフは止めにしましょう。その後の事は,又考えましょう。
○検診の意味を理解して○……最近の公的な健康診断(検診)は,国の方針で,いわゆる「メタボ検診」が主流となっています。腹囲が男性なら85?以上,女性なら90?以上が先ず第1の関門です。これに該当しますと,次に血圧,脂質,血糖の項目があり,メタボ該当,予備群,非該当と区分されます。そして該当者には指導を受ける様にと指示が出されます。49歳で6歳のお孫さんがいる「若いおばあちゃん」が1ヶ月前に検診の予約をしておいてから来院しました。「十分に準備をして来ました。体調は万全です」と。「本当は普段の生活のままが良いのですが」とお話しますと,「はい,分かっていますが少しでも結果の良い方が嬉しいじゃないですか。でもどうしてもメタボはしょうがない様ですので,今日は,身長は大き目に,体重は少な目に,裏帳簿でお願いします」と。
又,こんな事を言う高齢者もいます。「もう年ですから検診なんか受けたくありません。 もうすぐ死んじゃうんだし,めんどうだし」。それでも毎日の様に診療所に来て「痛い,痛い,体調も悪い,悪い。これじゃ死んじゃった方がよい」とおっしゃる。ちょっと待ってくださいよ。ちゃんと検査も受けて,異常があれば治療を受けて,その後でのこの発言(「文句」と言いたいところですが)なら分かりますが,「何もするな,何もしたくない,でも何とかしろ」では「竹の子医者」の手に負えません。
○セクハラよりもっと恐ろしいことが○……病院に勤務していた頃,こんな事を言って若い看護婦さんをからかっていました。「君は何歳になったんだい?」「20歳(ハタチ)です」「そうか,ハタチ過ぎたら大年増だぞ」「エーッ。では30歳は?」「30過ぎたら化石だ」「40代は?」「墓石だ」「50代は?」「宇宙人だよ」。「では男性の場合はどうなんですか?」「男はいくつになってもお兄ちゃんだよ」。今なら「セクハラだ」と,お叱りを受けることでしょうね。しかし,その後はもっと恐ろしい記事が新聞に続きました。同居家族が中にいる家の中で「白骨化」「ミイラ化」した遺体が発見された,と。大震災1年後の最近の新聞には被災地以外で「孤独死」「孤立死」等の記事が見られ,老いた母親と障害を持った息子さんの衰弱死や,老いた姉妹の死等が報じられています。被災地の復興には当然目を配らねばなりませんが,この身の回りの近くにも目を配らねばならない事が沢山あると感じています。
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