有限会社 三九出版 - 《自由広場》  ふるさとは遠くにありて思うもの


















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                   ふるさとは遠くにありて思うもの
                             牧 正雄(東京都府中市)

 某高名な人曰く,「詩人はたった17文字,31文字で悠久の天地,自然を表現し,作家は小さな心の思ひ,世の動き,流れを数百,数千の文字で綴り,世の多くの人に,訴へ,且つ感動を与える」と。私は詩人でも,作家でもない。普通の旧サラリーマン,今無為徒食の老人である。某日,畏友和賀井氏より便あり,「後輩よりの依頼である。何か書け」とのこと。和賀井氏の推薦とあればやむを得ない。氏と同一にする“ふるさと”に関わることを綴ることにする。
○同級会
 私達は昭和十七年,仙台の旧制中学を卒業した。その年を記念して,我々のクラス会は「十七会(トナカイ)」と稱している。当然,本部は仙台である。各地に夫々,東京支部,北海道支部,関西支部と,あちらこちらにあった。然し今では年齢の故でもあらうか,各地で無くなったと言ふ話をきく。どうも仙台十七会本部も最近解散したらしい。
 東京でも支部があるが最近どうも毎年とは行かなくなった様だ。東京支部の中に小田急沿線に住む「小田急十七会」がある。小田急十七会は,毎年ではない,三ヶ月に一回,その月の17日である。それでもここ十年位続いてゐて,休会と言ふことは殆どない。年をとると、どうも人恋しく,ふるさと,旧友が懐かしく思ふらしい。集まるのは多くて5〜6人,少なくても3〜4人は集まる。
 東京支部が最盛の時は20人位は集まった様に思ふ。酒が入り賑やかになると,飲む人はいいが飲まない人はポツリポツリ歸って行く。会費制なので参加者集合時に会費を集める。ところが会が終りに近づくと人数はどんどん減る。酒は“もう5本,もう3本”と増える。終って会計をすると,会の初めに集まった会費だけでは,どうしても不足する。不足分は? 追加徴集しようにも,残っているのは私を含めたった数名に飲んべえ諸君である。どうも不足分は白鳥会長か或ひは奇篤な人がいて払っていたらしい。後で気づいたのであるが,払ったのは亡くなった玉蟲久五郎らしい。私もその内鬼籍に入るが,あの世で謝らなければならない。時すでに遅しだが……。
 仙台の十七会本部は無くなったとのことだが,小田急十七会は今でも続いている。こう続くのは,矢張り“ふるさとは遠く離れて思ふもの”なのだらうか?
○高山樗牛
 私は旧制仙台二中を卒業して,清水の高等商船学校に入った。或る日曜日,外出の折,清水市郊外の或る寺(龍華寺と思ふが定かではない)の前を通った。もの凄くデカイ,サボテンが巨龍の様に横に伸びている。ホー!!これは珍しいと思ひ,境内に入った。何と,その境内の中に石碑が立っていて,その石碑に,「“吾人は、現代を超越せざるべからず” 高山樗牛」とある。“樗牛”と言へば,仙山線北仙台駅の向ふ“台原”に“樗牛瞑想の松”があったのを思い出した。今,あの松はどうなっているのだらうか。このことは,正に私の“ふるさとは遠くにありて思ふもの”の第一号であった。
○東日本大震災のこと
 このお正月,NHKニュースを見ていたが,例年必ずと言って見られた仙台市東一番町の,級友井ヶ田氏が社長の繁田園の大きなお茶箱を買いに来る(もらいに来る?)光景が映っていない。井ヶ田君(旧制二高,東北大学工學部卒業。如何なる心境の変化があったのか,家業を継ぐ。)が亡くなった為であらうか? それとも,“震災に負けるな東北”“頑張れ!!東北!!”は年が改まると忘れられる運命なのだろうか(そうではないことを祈るのだが)。或いは単に私の“ひがみ”根性なのか……。
 それにしても,昨年の東北大震災で多くの人達が,生命,財産を失ったのは誠に痛恨の極みである。命を失った方々には哀悼の意を捧げ,辛うじて生き残った方々には一日も早復されることを,心から祈るものである。
 その一方,女川原子力発電所,“サンファン・バウティスタ号”(復元船),一本松が,殆ど無傷で生き残っていると聞く。一本松については,その後,度々ニュースで報道されているが,女川原子力発電所,“サンファン・バウティスタ号”については寡聞にして,見・聞いたことがない。私見では,電力供給は国家的大関心事項であり,又,サンファン・バウティスタ号は我が郷土の英雄“支倉六右衛門”の記念すべきローマ法皇訪問の折,使はれた太平洋を横断した,我が国初めての国産・大型帆船である,と聞く。これも郷土のみならず, 国民的記念物, 国家国民の財産と思っているのだが。
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